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猜疑心

俊三は、人もまばらなカフェでじっと椅子に座ったまま、ホワイトボードに喜美子が書いて残した名簿をじっと見つめていた。

居なくなった人達の横には、バツ印が書かれてある。

そして、役職COしている者達の横には、その役職名と、見た結果が書かれてあった。

グレー詰めと一口に言っても、今日はグレーが多かった。

何しろ占い師の三人目線では、一人しか白が出て居らず、後は全てグレーになるからだ。

そんな中で、役職COしている二人が昨日今日と追放されて行った。

狼も弁えていて、グレーだけは噛まないようにしようと昨晩話し合ったのだと思われた。

狩人は共有者を守っておらず、ここまでは狼の思惑通りだっただろう。

霊能者が二人出ることで早くに役職の内訳が予想できて、村の方針が占い師同士の相互占いになってしまったのは、狼にしたら誤算だったのではないだろうか。

昨日由子が言っていたが、霊能者に二人出たことで結果的に狼の首を絞める結果になったのだ。

そうなって来ると、やはり霊能者に出ているのは狂人だろうと推測されて、それを指摘していた由子は真だったのではないかと俊三は思った。

占い師の狼は、相互占いで呪殺が出たら間違いなく偽確定されて吊られる運命だ。

なので、こうなったら占い師の狼は捨てて、真占い師を襲撃し、グレーの狼を守ろうと考えたという、忠司の意見は的を射ていた。

だからこそ、確実に真占い師の結果をグレーに残そうという、グレー詰めは村のためを思っている意見だと思えるし、忠司は白だと俊三は思った。

忠司が狼なら、わざわざこんな意見を出して自分が占われるかもしれない危険は冒さないだろう。

占い師の動きと矛盾が生じるからだった。

とはいえ、絶対に真占い師が透けるだろう盤面で、仮に美智子が狼だったとして、他の狼は庇うだろうか。

昨日ならいざ知らず、今日は占い師の狼を切ろうと考えて、意見を変えて来るのが自然ではないだろうか。

そう考えると、昌雄や正成は、自ら墓穴を掘りに行っていることになるので、狼ではないような気がして来た。

そんなことを考えながらじっと俊三がホワイトボードを睨んでいると、後ろから声をかけられた。

「俊三?」俊三は、ハッとして振り返る。そこには、茂男が玄関脇の自販機から出して来ただろう、缶コーヒーを手に立っていた。「コーヒー買って来た。」

暖かい缶を手渡されて、俊三は微笑した。

「すまんな。」

俊三は、小銭を渡そうとポケットをごそごそとまさぐる。

茂男は、首を振った。

「ああ、いいよおごりだ。」と、横の椅子に座った。「なんか一人で真剣に考えてたな?わかったことがあるか?」

俊三は、ため息をつきながら缶のプルタブを上げた。

「いや…どうにも不自然でな。」と、ホワイトボードに目をやった。「攻撃されてカッとなって怪しいとか言ってたが、考えたらおかしいなって。忠司は狼は占い師の仲間を切るつもりなのだと言っていたし、オレもその通りだと思う。狼からしたら初日から内訳が透けて相互占いになるのは誤算だっただろう。だから初日にお互いにかばい合うのは分かるが、今日はもう庇う必要はないはずなんだ。だって、このままグレー詰めでなく昨日の流れの通り昭三を吊って、また相互占いしたら真占い師が透けるのが分かってたはずだ。実際はグレー詰めすることになったが、それでも真占い師を噛めば終わり。どちらにしろ占い師の偽は透けるのに、まだ庇うと思うか?」

茂男は、ホワイトボードを見ながら顔をしかめた。

「どうだろうな。忠司はこうなったから占い師の狼も残して勝つ方法を模索しているんじゃって言ってたけど。」

俊三は、首を振った。

「それにしても目立つのはおかしい。オレなんか二白が出てて村目線じゃ限りなく白なのに、敢えてそこを疑うのは目立つ行為だし敵を作りに行っているだろ?今17人でまだ8縄あるんだぞ。ここでそんなことをして吊られでもしたら、残りの狼は勝ち筋が無くなるんだ。そう考えたら、やっぱり昌雄と正成は黒くないような気がして来たんだよな。」

茂男は、ますます眉を寄せて言った。

「じゃあ誰が狼だと思うんだ?他に怪しい場所はなかったし、みんな村のために発言しているようだった。オレには昌雄と正成が忠司とお前を疑い出した時点で、あの二人かもって思えて来てるんだけど。」

俊三は、コツコツと缶を指で叩きながら、考えた。

「…わからない。だが、あれだけ目立つと占い指定先にも入るだろうし、逆に白く感じて来てて。狼は村の意見に合わせてる奴の中に居るように思えてならないんだ。何しろ、占い師が生き残れるのは恐らく今夜ぐらいだろう。だから、今夜占われなければ良いわけだから、じっと潜んでるような気がして…。」

考えすぎだろうか。

俊三は、コーヒーを口にしながら考えた。

そう、狼は今夜の占いと吊りを回避したいはずなのだ。

絶対に目立ちたくないはず…。

「…なんだ、俊三は白なのか。」

いきなり声がして振り返ると、そこには昌雄と正成が立っていた。

「聞いてたのか。」

俊三が軽く舌打ちをして言うと、茂男はむっつりと黙って二人を睨むように見た。

恐らく疑っているので、そんな目線にもなるのだろう。

昌雄は、そんな茂男を気にせずどっかりと側の椅子に座った。

「オレもな、あれから正成と考えたんだよ。つい感情的になってたが、狼は目立ちたくないはずなんだ。何しろ、もう占い師の狼は詰みだろう。それを切る動きをしているのに、後は真占い師の占い指定から外れたいはずだ。俊三が黒なら、二白が出てるのにわざわざ目立って発言しなくてもとりあえずグレー吊りからは逃れられる。忠司だって、村の流れに適当に合わせてそれらしい発言をしていればあんなに目立つ事もない。あいつは頭が切れるから、簡単にできるはずなんだ。このままだと今夜の占い指定先に入るだろう。真占い師を処理してから、ああして村を動かす発言をし始めた方が良かったはずなんだ。そう考えると、二人は白なんじゃないかって今、話してたとこだ。そしたら、お前も同じようなことを言ってるから。」

昌雄も同じことを考えたのか。

俊三が驚いていると、正成が神妙な顔で頷いた。

「そうなんだ。まずいかもしれないって誰かと話してみようとカフェに来てみたら、お前がその話をしていたってこと。お前が同じ考えになってるって事は、オレ達はもしかしたら、村人同士で争い合ってて、狼はそれを内心笑って見てるんじゃないかって思えて来てな。」

俊三は、うーんと唸った。

当事者同士で話していても、恐らく見えていない事もあるかもしれない。

なので、茂男を見た。

「茂男、どう思う?オレ達は当事者だから、この事に関してはあまり発言力がないと思うんだ。お前から見て、オレ達の事はどう感じる?」

茂男は、じっと険しい顔をしてそれを聞いていたが、話を振られて俊三を見た。

「…オレは、最初から俊三が白いと思ってた。それでなくても二白だしな。それを怪しいとか一度でも言った昌雄は怪しいと思うし、その昌雄と同じような意見を出してる正成だって怪しい。その二人が今さらやっぱり俊三が白いかもとか言い出しても、自分が吊られたくないだけなんじゃって思ってしまうんだよ。だから、オレから見たら別に今の意見を聞いたからって変わらない。」

俊三は、完全に思考ロックしてしまっている茂男に、慌てて言った。

「だから、オレは白だからオレを信じてくれるのは嬉しいけど、思考ロックしたら駄目だって。オレだって、あれだけ言い合ってても、改めてしっかり考えて、もしかしたら敵じゃないかもって思ったら意見を変えるんだ。お前だって柔軟に考えないと、間違ってたら間違ったまま最終日まで行ってしまうぞ。」

茂男は、怒ったように立ち上がった。

「オレはオレの考えを言ってる!」と、昌雄と正成を指差した。「こいつらが吊られそうだからって今さらに擦り寄ってるとか考えないのか?!オレにはそう見えてる!絶対、吊り指定にされたくないから擦り寄って来てるんだって!」

自分の意見が通らないからか、茂男が珍しく感情的になっている。

俊三は驚いて、茂男をなだめるように言った。

「待てって茂男、それが思考ロックなんだ。回りの状況を見て考えなきゃならない。狼に利用されてる可能性があるんだぞ!」

だが、茂男はキッと俊三を睨むと、言った。

「もういい!昨日から怪しいヤツらなのに、庇うなんておかしいぞ!他の奴らとも話して来る!」

「茂男!」

茂男は、速足でカフェを出て行く。

「おっと。」

出口付近で、入って来ようとした忠司とぶつかりそうになったが、茂男は忠司を一瞥しただけで何も言わずに、そのままそこを出て階段の方へと走って行った。

それを怪訝な顔で見送った忠司は、こちらで茫然としている俊三と昌雄、正成を見て言った。

「なんだ?」と、三人の顔を見回してから、声を落とした。「…ちょうどいい。ちょっと来ないか。話がしたかったんだ。談話室へ行こう。」

談話室は、娯楽室の隣りにある部屋で、軽い防音機能がある。

何だろうと俊三と昌雄、正成は顔を見合わせたが、真剣な顔の忠司に促されて、四人で談話室へと向かったのだった。

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