二日目朝の会議
朝食は各自勝手にカフェの厨房へ行って、好きな物を持ち出して来て済ませた。
女性達の顔は暗い。
皆若く美しい姿ではあったが、昨日から由子、喜美子と居なくなり、元の姿に戻るのを見たところなので、不安がぬぐえないようだ。
そこへ、正成から由子が居なくなっていると聞いて、いったい由子はどうなってしまったのだろうと、気になって仕方がないようだった。
外は、まだ霧が立ち込めている。
これだけの濃霧が長く続くなど異常なので、役所の人達が様子を見に来そうなものだが、それも無かった。
週に一度の移動販売車も、本来昨日来ていたはずで、いつも派手な音楽を掛けて一番上の家の俊三にも聴こえるぐらいなのに、昨日は何も聴こえなかった。
この霧なので、近付けないと言えばそうなのだが、何か違和感を感じていた。
「私達は、ゲームをするしかないのだと思うわ。」喜美子の相方の、恵子が重い口を開いた。「孤立してるんだし。さっきもう一度電話をかけようとしてみたけど、断線してるのか何の音も聴こえないし。携帯電話も圏外だし、Wi-Fiもダメ。食べ物はあるんだから、待つしかないのよ。」
それには、忠司が頷いた。
「オレもそう思う。霧の中で無理にここを出ようとしたら、道を見失って遭難してしまう可能性があるしな。由子さんも、もしかしたら家に連れて行かれてるのかもしれないが、あっちからこっちへ戻るのは難しい。霧が晴れるまでは、下手なことはせずに、言われた通りゲームを進めよう。」
全員が、頷く。
由子の居場所と言われたら、もう自分の家ぐらいしか考えられなかった。
ここには皆の家と公民館以外に建物はなく、滞在できるような場所がないからだ。
正成が、言った。
「うちの嫁さんはきっと無事だ。そもそも先生達はオレ達の血圧から何から完璧に整えてくれたんだ。殺すなら、初日にここへ来た時にそうしてる。だからもう心配してない。それよりは、ゲームをしなきゃオレ達はみんなこの体を失うってことだ。」憲子が、びくりと体を震わせるのが見える。正成は続けた。「とりあえず、若いに越したことはないから、オレもできるだけやろうと思ってるよ。でも、若い姿はいいが、このままじゃ免許の更新もヤバいんじゃないか。みんなそこのところは考えたか?だから、オレは別にどっちでもいいが、とにかく終わらせてしまいたい。だから会議をしよう。」
言われてみたらそうだ。
免許の写真と今の自分が同一人物だと、誰が証明してくれるだろうか。
必死に説明して分かってもらえたとしても、ではなぜそうなったのかとまた話題になる。
テレビの取材とかにも晒されるかもしれない。
考えたら、少し若返るくらいならいいが、これでは別人なのだ。
そう、異常なのだ。
忠司が、ため息をついた。
「後のことは終わってから考えよう。とにかく、ゲームだ。それで、占い師はみんな黒だったな?昭三の霊能結果は白。つまり…恐らく由子さんは狂人か。」
昭三は、頷いた。
「そうだな。狐がそもそも霊能に出るのは自殺行為だと思うから、オレ目線じゃ由子さんは狂人だ。」
恵子が、言った。
「じゃあ…ええっと、由子さんが狂人なら貞吉さん目線では美智子さんが狼で敏男さんが狐、美智子さん目線では敏男さんが狼で貞吉さんが狐、敏男さん目線では貞吉さんが狼で美智子さんが狐ってことね。敏男さんは私のダンナだから言うけど、昨日から特に慌てた様子もないし、普通なの。だから、私的には今日はなんだかダンナを信じたい気持ちよ。」
また夫婦補正だ。
俊三は、顔をしかめた。
「この際夫婦だからとか忘れて考えた方がいいぞ?確かに近いから分かることもあるかもしれないが、だからこそお互いのツボを知ってるから騙しやすいってのもある。」と、ため息をついた。「…だが、これで狼からは真占い師が透けたな。それに、狐からもだ。明日からの噛みが気になるよ。狩人は共有者を守ってなかったし、どこを守ってたんだろう。」
政由が、言った。
「あんまり言ったら狩人が透けるぞ。とはいえ、昨日は狼もよく共有を噛んだよな。本当なら、共有を守ってると考えて他を噛もうとしただろう。狩人は、それを考えて他を守ったのかもしれないな。」
恵子は、言った。
「狩人のことは置いておいて、今日はやっぱり昭三さんを吊る?私は…白結果だったし、残しておいてグレーを狭めた方がいいんじゃないかって考えているのよ。」
俊三は、驚いて恵子を見た。
「え?昭三を確定させるのか?」
恵子は、首を振った。
「そういうわけじゃないけど、縄に余裕があるから。この様子だと今夜には呪殺が必ず出るだろうし、真占い師が確定するわ。そうしたら残った方は吊り切ってしまって、もう一日真占い師に占い結果を出してもらうの。昭三さんには、もう一日結果を出してもらうのよ。」
武は、首を振った。
「連続ガードができないんだぞ。俊三が言ったように、今日の結果で占い師の内訳が人外に透けた。明日呪殺で確定されないためには、占い師に出ている狼を捨てて真占い師を噛むしか選択肢はない。今夜狩人が間違いなく真占い師を守れたとしても、次の日噛まれて結果が出させない。つまりグレーだらけになるんだ。」
俊三は、頭を抱えたくなった。
とんでもなく広いグレーの中で、議論だけで狼を特定するのは至難の業だ。
忠司が、眉を寄せて独り言のように言った。
「…どうなるんだ…貞吉が真の場合、美智子さんが狼、敏男が狐。敏男が呪殺されて貞吉が噛まれると美智子さんは破綻。敏男が狼結果なので、貞吉呪殺で敏男が噛まれた言い訳は通用しない。美智子さんが真の場合、敏男が狼で貞吉が狐。貞吉が呪殺されて美智子さんが噛まれて、敏男目線貞吉狼で噛まれて美智子さん呪殺は通用しない。敏男が真の場合、貞吉狼で美智子さんが狐。美智子さんが呪殺されて敏男は噛まれて、貞吉が敏男を呪殺したとは通用しない…つまり、占い師の偽者が黒結果を出した時点で、占い師の中の狼も狐も詰みだ。最初から狼は、占い師の中の狼を捨てているということになる。ということはやはり、武が言うように真占い師はもう居なくなる運命だ。今夜、呪殺が出るのが確定している時点で、グレーに色がつかなくなるからだ。」
独り言のような言葉だったが、皆が固唾を飲んでそれを聞いていた。
では、占い師はもうグレーに色をつけることができないのだ。
「じゃあ、どうしたらいいの…?」恵子は、不安げに言った。「つまりは人外有利になるのよね?それを避ける方法はないの?」
茂男が、言った。
「無いよ。だって真占い師が誰なのか狼は知ってるから、占い師を噛みに行くだろうし。狩人は連続ガードできないんだもの。」
皆が深刻な顔をする。
忠司は、眉を寄せて考えていたが、言った。
「いや…一つだけ。」皆が忠司を見る。忠司は続けた。「今夜の占い先はグレーにするんだ。今夜だけは狩人も、三分の一を当てて護衛できる。役職の中に、必ず人外が居る。吊り縄に余裕がある内に、先にグレーを狭めるんだ。今夜はグレーを吊って、グレーを占う。恵子さんが言うように、昭三は残そう。恐らくあって狂人、後でも吊れる。最終日に向けて、グレーを残してはおけない。今日はオレも含めたグレーの話を聞くことにしたらどうだ?」
俊三は、困惑した顔で忠司を見た。
「でも…囲われてたら?二白のオレが言うのもなんだが、明子さんだって狼の可能性はあるぞ。囲いがあったらグレーの狼は一匹なんだ、村人が吊られる可能性の方が高い。」
忠司は、俊三を見た。
「それでもだ。俊三も明子さんも、他の占い師の指定先に入れる。つまり美智子さんの占い先指定に俊三も入れるということだ。明子さんも然り。貞吉か敏男の指定先に入れる。確定白を増やす点でも、各占い師視点のグレーを潰して行くのが一番だ。とにかくグレーを狭めて行くんだ。間に合わなくなるからな。」
恵子が、ため息をついた。
「それでも、狩人が外したら?真占い師は噛まれるのよ?」
忠司は、答えた。
「そうしたら残りの二人は吊る。噛めたということは真占い師ということになるからだ。狼と狐しか残らない。つまり、狼は呪殺が出ない限り占い師を噛むと必ず仲間が吊られることになるんだ。その上真占い師が確定するから、その白先以外はグレーに戻る上、真っ先に疑われる。つまり、美智子さんが噛まれたら俊三は吊り先筆頭、その他なら明子さんが吊り先筆頭。もし囲われているのなら、噛みにくいだろう。狼は三匹だし、もしも二匹を捕捉できたら残りは一匹だ。吊り縄が余裕で足りる。今回は各占い師目線での内訳がハッキリしただけでも良かったと思おう。」と、息をついた。「じゃあ恵子さん、グレーの話を聞こう。」
恵子は、あきらめたように頷いた。
「忠司さんの言うことがことごとく白いし、その通りだと思うわ。真占い師が噛まれたら噛まれたで、とりあえず確定白ができるものね。じゃあ、話を聞いて行きましょうか…今日は、19の政由さんからにしましょう。」
逆から行くのか。
俊三は、自分に来ると思っていたので少し驚いた。
自分はグレーではないが、それでも美智子目線ではグレーになるので、今の話では意見を求められると思ったのだ。
政由が口を開いたので、皆がそちらを見た。