一日目昼
「…そうねえ、私が思ったのは、昭三さんはやらかしたなって感じ。」皆がえ、と言う顔をすると、由子は続けた。「だって、多分狂人でしょう?霊能者に出て来るぐらいだから。だとしたら狼が占い師に出たのが見えたわけだし、それを補佐しようとしたのは分かるけど、私なら出なかったわ。だって、霊能者が二人出ることで、村目線とても推理が進んだのよ。占い師の内訳とか。霊能者に出なかったら、占い師の中に狂人が居るかもとか、狐が潜伏してて実は狼と狂人かもとか、みんな迷ったはずなのよ。真占い師を確定させる、相互占いだってもっと後になってたわ。だって、狐がグレーに居るかもだもの。出ることで、狼と狐の首を絞めたことになるのよ。だから私が狂人なら、絶対出なかった。それが分かってるんだもの。」
言われてみたらそうだ。
こうなってくると、どうせ真霊能者など、分からないと思っていた俊三も、由子が限りなく真に見えた。
それを分かっていて出る狂人などいないだろうからだ。
だが、それに赤い顔をした昭三が言った。
「オレからしたら、今の意見で由子さんが狼なんじゃないかと思えて来たな。そうやってオレの真目を下げて生き残ろうとしてるみたいに見える。真霊能者なんだから出るしかないじゃないか。もしかしたら、占い師には狂人が出ていて占いなんか怖くないんじゃないか?」
由子は、負けじと言い返した。
「仮にあなたが狼で占い師に狂人が出ているとしても、狼の首が絞まるのは同じよ。真占い師が狐を呪殺したら、残りは吊られるし霊能者はローラー。真占い師の白先は残るからグレーの狼は厳しいことになるわ。そう考えると、急に一日目とか言われて、話し合えなかった狼が間違って出たとも考えられるかもしれない。」
由子は、数週間前はここまで思考が伸びる方ではなかった。
それなのに、若くなった由子は驚くほど頭が切れるようだ。
昭三と話の内容を聞いても、由子の方が先に言っているのもあって、どこまでも真の印象だった。
とはいえ、このゲームはいつもの数分の議論で吊り先を決めるものではない。
まだまだ議論時間はあって、本来ならすぐに昭三が吊られた局面だが、まだ巻き返しのチャンスはあった。
喜美子が、言った。
「聞いていると、由子ちゃんがすっごく真に見えるけど、まだ時間はあるししっかり考えよう。吊り縄はあるけど、できたら真役職は吊りたくないと思うのよ。由子ちゃんの意見は強いから、昭三さんを陥れようと考えたと言われたら、そうも見えるかもしれないし…でも、今の意見で一気に由子さんの印象が良くなったのは確か。よっぽどでないと、覆らないけど昭三さんは大丈夫?」
昭三は、ブスッとした顔をした。
「オレは真霊能者だから、人外達は陥れようとして来るだろうしもういいんだけど、だったら必ずローラーは完遂させてくれよ。」昭三は、フンとぶっきらぼうにそう言った。「どうせ霊能者だから長生きできないと思ってたし、もういい。ローラーなんだろ?じゃあ今夜はオレからでもいいから、グレーを精査するのに時間を使った方がいいんじゃないか?初日だから油断してる人外がボロを出すかもしれないだろ。それか、確実に狐を呪殺させるために、占い師達に喋らせて内訳を考えろ。真占い師の確定は、一日でも早い方がいい。」
喜美子は、顔をしかめた。
こう言われてしまうと、これがまた村感情に見えて来るのだから困ったものだ。
由子は、それを感じたのか眉を寄せた。
「…なんだか、信用を得ようと必死な感じ。」
言い方に棘があるのは仕方ない。
だが、その言い方の悪意が、由子の発言が村を陥れるための物なのではないかと感じて来るから不思議だ。
余計な一言は、一気に印象を変えてしまうのだ。
「…なんか今ので昭三を陥れようとしている悪意ってのを感じたんだけどな。」浩二が、皆の印象を代弁するように言った。「よく考えてるなって思ってたのに、悪意を感じたことでそれが仕組まれたものみたいに見えたんだよな。困ったな…何か短い時間に気持ちがあちこちしちまって、決められない。」
政由が言った。
「昭三も言ったようにどうせローラーするんだから、もうこの際霊能者の事は置いといてグレー精査でもするか。といっても、全く情報が無いんだけどな。」
忠司が、喜美子を見た。
「喜美子さん、昭三と政由が言うように、グレー精査でもしよう。占い師の印象とか、一人ずつ話して行ってもらったらどうだろう。今は分からなくても、後から分かって来る事もあるかもしれない。時間は山ほどあるしな。」
喜美子は、言われて頷いた。
「そうね。確かに。」と、皆を見た。「俊三さんは二人から白が出てるけど、完全に白ってわけじゃないから、じゃあ1の俊三さんから意見を聞いて行こうかな。」
俊三は、頷いた。
「じゃあ…そうだな、占い師か。」と、占い師自称している三人の顔を代わる代わる見た。「…まだ何も話が聞けてないから、今の時点で占い師精査は酷だぞ。全くわからない。先に占い師達の話を聞きたいな。お互いをどう見てるのか話せば、その中でこっちも考えて行ける気がするんだ。」
喜美子は、言われてみたらそうだと思ったのか、頷いた。
「そうよね、それはそうだわ。霊能者以外誰も満足な意見を出してないんだし、分からないわよね。」と、貞吉を見た。「じゃあ先に貞吉さんから意見を聞いていい?」
貞吉は、頷いた。
「オレは俊三が白以外、何も分かってない。占い師の内訳は、皆が想像しているのと同じで真、狼、狐だと考えてる。霊能者が二人だから、多分そっちに狂人が混じってると考えてる。美智子と敏男、どっちが狐で狼かって言われたらまだ分からないんだけど…狼なら初日グレランになるのを予想して囲って来る気がするし、白の俊三に被せて来た敏男が狐で、美智子が狼かなと今のところ考えてる。霊能者はどっちもどっちで分からない。どっちも真があり得るから、今日どっちを吊ってもローラーは完遂したい。それぐらいかな。」
貞吉は、落ち着いている。
これまでのトレーニングでも、貞吉は人外を引くとテンパってつい言葉を荒げたりしていたが、そんな様子が無いことからメタだが俊三には貞吉が真なのではないか、と思った。
だが、貞吉も若くなっているしそこの辺りはまだ、分からなかった。
喜美子は、頷いた。
「じゃあ、次は美智子さん。」
美智子は、相変わらず美しい顔で言った。
「私は真、狼、狐の内訳ならうちのダンナが狐で、敏男さんが狼かなって思ってるわ。」貞吉がムッとした顔をしたが、美智子は続けた。「でも、この感じっておかしいのよね。二人が俊三さんに白を重ねてて。この二人のラインがあるのかもって。もしかしたら、だけど、案外狐は潜伏していて、狼と狂人が出ているのかもとか思っているわ。つまり霊能者に狼が混じってるってこと。」
美智子は、興味を持ったようだった。
「それって、三人しか居ない狼が露出を選んだってこと?占い師に仲間が出ているのを見てるのに。」
美智子は、顔をしかめた。
「そう言われたらおかしいのかもしれないけど、考えても見て。もし俊三さんが狼だったら、ほぼ白だと思われたまま生き残るのよ。占い師も霊能者も、出たら全員吊られる可能性があるけど、一人でも生き残ったら狼が勝つのよ?真占い師の私を呪殺を装って噛めば、万が一にも占い師の狼も生き残れるかもしれない。占い師って、偽はどうしてもどこかに黒を打たなきゃならない時が来るし、そこが吊られた時に真霊能者が生き残っていると村が知っているのは不利だわ。どうしても霊能者は二人必要なの。だから、仕方なく霊能者に出ているんじゃないかって考えたの。もちろん、まだ推測よ。基本的にダンナが狐で、狼の敏男さんがグレーを狭めないために適当に結果を被せたんだと思っているわ。」
確かに一確の霊能者は面倒かもしれない。
それでも連続ガードのないこの村で、噛めば済むのにそんなリスクを負うだろうか。
俊三は、それを聞きながらそう思っていた。
喜美子が、言った。
「…じゃあ、敏男さん。」
敏男は、ため息をついた。
「オレは美智子さんが結構強気に見えるから、仲間が居る人外、つまり狼なんじゃないかと思うな。必然的に貞吉は狐なんだろうが、こっちも落ち着いてて一人じゃないって感じがするし、先の二人のようにハッキリ分からないよ。そもそも内訳が間違ってて、美智子さんが言うように占い師に狂人と狼が出ていたら、確実に貞吉が狂人だろうなとは思う。美智子さんの強さは確実にバックアップされるって知っているように見える。だから、狼だと思う。」
喜美子は、首を傾げた。
「霊能者はどう?どっちが真だと思う?」
敏男は、由子と昭三を見た。
「どうだろう…どっちももっともな事を言ってるからなあ。迷うところだな。でも、昭三は狼ではないと思うね。由子さんの強い言い方は、昭三を陥れようとしているように見えるから。だってさ、今の段階でそんなに強く内訳を言えるか?対抗してるんだから、お互いに確実に相手が人外だからそうなるだろうけど、誘導してるように見えるんだよな。だから霊能者に狼が居ると言うのなら、由子さんの方だと思うよ。」
言われてみたらそうだ。
俊三は、誰の意見を聞いてもこんな最初からよく考えていると思ってしまった。
トレーニングの時は、みんなこんなに発言も伸びないし、もっとおっとり話していたのだ。
やはり脳の動きが格段に違うような気がする。
俊三は、これはおもしろいゲームになりそうだ、と、内心ワクワクして来るのを止められなかった。