第110話 4回戦が始まりました
そういえば私の全力ってどれくらいなのでしょうか。
昨日の爆発が、大体私の3割から5割くらいの力です。いや、軽くスナックを食べる感覚で魔法を使ったので、実際はもう少し下かもしれあせん。
あの巨大なグラウンドに半球状にかかった障壁全体を満たすほどの大爆発が3割程度の力として、私の全力って‥‥想像できません。
「あれ?」
実は私、ものすごく強いんじゃないでしょうか?
メイが、まおーちゃんが、みんなが私が決勝に出られる前提で話していた理由が少しずつ分かってきます。
でもそれだけ強くて、私はなぜユハのあの兄弟との戦いで大怪我してしまったのでしょうか?私にはまだ弱点があるのでしょうか?
そういえば、私は戦略魔法もまだ使えません。戦略魔法には魔王並みの膨大な魔力が必要ですが、そのまおーちゃんを召喚した私であれば問題なく習得できる。私にはまだ伸びしろがあるのかもしれません。
冷静に考えれば、私、みんなの評価くらいには強いのかもしれません。
自分の実力というものが得体のしれないものになっていて、想像することができません。
自分の全力とはどういうものなのか、試してみたい気持ちが芽生えます。
「私って、どれくらい強いんだろう‥‥そして、弱点ってあるのかな‥?」
そういうことを考えながら、ふらふらと廊下を浮遊で進んでいました。
◆ ◆ ◆
3回戦が終わりました。選手も64人から32人に減りました。選手個人にとって、1つ1つの試合の間隔が短くなってくるころです。
これでは選手が昼食をとれないということで、3回戦と4回戦の間に昼食休憩が入ります。廊下に張り出されたトーナメント表で数えてみると、3回戦だけで32試合、4回戦から決勝までの全ての試合をあわせて31試合、試合数だけで見たら今日の日程はほぼ半分ということですね。
‥‥ということは。私は嫌なことに気付きます。朝から来て、いま3回戦が終わりました。それと同じだけの時間が経過した後に決勝があるということです。まおーちゃんと戦わなければいけない決勝が、確実に近づいてきているということです。
もうそれだけで、決勝の存在を身近に感じられずにはいません。
私は、道ですれ違う人に、『昨日の試合に感動した』『棄権はみっともない』『次の試合も派手にやってほしい』などと言われながら、食べ物を買って観客席で適当な席を見つけて座って食べます。グラウンドでは選手がいない代わりに、スタッフが地面の状態を確認するなど忙しそうな様子です。それよりも、周りの席の人達がみんな私に注目するので、なんだか食べづらいです。
せめてメイやラジカが近くにいてくれたらいいのですが、昨日の一件で隣に座るなと言われてしまったので仕方ないです。昨日はラジカのカメレオンが道案内してくれたけど、今私の肩に乗っているカメレオンは昨日のことなど忘れたかのように、ぴくとも反応しません。透明だから目には見えないけど。
そういえば戦闘中、私の肩にカメレオンを置いてもいいのでしょうか。相手も激しい魔法をかけてくるので、場合によってはカメレオンが死ぬかもしれません。そんなことを考えていると、赤色ツインテールの少女・ラジカが人混みをかき分けて、私に向かって歩いてきます。
「あれ、ラジカちゃん?」
「よっ」
ラジカは手を振ってから、私の肩の前に置きます。ぴょんと、カメレオンが私の肩から離れていく感じがします。
「カメレオン回収しに来た。これから激しい戦いになると思うから」
ラジカも食べ物を持ってきたらしく、私の隣の席に座って食べ始めます。
「‥ラジカちゃんは周りに注目されて恥ずかしいとかないの?」
「ん、アタシは恥ずかしいけど、アリサ様はもっと恥ずかしいから、そう考えると平気」
「そうなんだ‥‥」
ラジカ、意外とメンタル強いです。そういえばまおーちゃんのことも最初は怖がっていたらしいけど、態度に出ていなかったですね。本当に怖がっていたのかすら分からないくらいです。
「ラジカちゃんって、嫌なことを思っても顔に出さないあたりがすごいよね」
私は食べ物を頬張りながら、ラジカについて思っていることを言葉にします。
「ん、逆。感情を出すのが苦手なだけ。アタシ、人見知りだし」
ラジカは、それでも少し照れくさそうに口角を上げます。
「それでもすごいと思うよ。人付き合いに絶対必要なスキルじゃん?損することはないと思うよ」
「そ、そうかな」
ラジカは照れながらも、いつも通りの調子で食べます。
◆ ◆ ◆
4回戦が始まりました。4回戦が終われば、32人だった選手が16人に減る予定です。私の試合は8つ後ですが、その次の試合が12つ後になります。控室と観客席を往復するのがそろそろしんどくなる頃です。私は次の試合が終わったら、もうずっと控室で待っていたほうがいいですね。
観客席からまおーちゃんの試合が見られるのも、これで最後です。まおーちゃんの勇姿をもっと見ていたいから相手にはもっと踏ん張ってほしかったのですが、まおーちゃんは4回戦でもあっけなく相手を一撃でねじ伏せます。これじゃ、まおーちゃんのことあまり見ていられないですね。
ハギスの試合も見ていたいのですが、そろそろ行かないと間に合いません。行く前にラジカに挨拶します。
「私、そろそろ行くね」
「うん、応援してる」
ラジカも手を振ってくれます。私は席から浮き上がって、観客席を出ます。廊下を進んで控室に入ります。ちょうど、ハギスが試合を終わらせて帰ってきたところでした。
「ウチ、頑張ったなの!」
「ハギスちゃん、おかえり!おめでとう!」
勝ったのが嬉しいのか、ハギスはぴょんぴょんジャンプします。
『か、かわいい‥‥』
『王族を抜きにしても、嫁に欲しい‥‥』
『スカートに頭入れてクンカクンカしたい‥‥』
周りの選手たちも和んでいる様子です。一部不穏なことを言っている人がいますが、聞かなかったことにしましょう。
「やあ」
私の後ろのベンチに座っているナトリが声をかけてきます。
「ナトリちゃん!」
「ナトリとお前の試合は5つ後だな?くれくれも手は抜くな、なのだ」
「う、うん、分かってる」
ナトリは腕を伸ばして、私に握りこぶしを差し出します。私も自分の握りこぶしを作って、それにぶつけます。なんだか闘士っぽいです。
「ランドルトは戦略魔法OKの申請してるなの?」
ハギスが気になったのか、私の横から顔を出してナトリに尋ねます。
「いや、申請してないのだ。申請したのは魔王だけどな」
「それなら、テスペルクはランドルトに戦略魔法を使えないなの」
「うん、分かってる」
私はうなずきます。
「大丈夫だよハギスちゃん、私、戦略魔法の使い方知らないから」
「分かったなの。それなら、大丈夫なの」
ハギスは無邪気な笑顔を作ります。




