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第109話 棄権されました

大会2日目です。この日は1日目より試合数が少ないので、開始もちょっと遅めです。

私は今日はナトリ・ハギスに合わせて動きやすい服に着替えて、2人と一緒に、昨日と同じように選手専用の入り口を使って闘技場に入るのですが‥‥。


『あの人よ、アリサさんよ』

『思ったよりかわいいわね』

『華奢な体をしてあんな威力が出せるってずるいわよ』


選手専用の入り口もまだ開いていないので列に並んでいる途中、なんだか私の周りに魔族たちの人だかりができます。昨日の件で一気に有名になってしまったようです。

今回の大会に初出場した私にいきなり固定ファンができたわけではなく、決闘大会は定期的に開催されるので大会を毎回追いかけている人、大会マニア?を中心に応援されているようです。中年以上、高齢者の見た目をしている魔族が多いです。

人間の言葉が話せる魔族が近寄ってきます。


「まおうさまと おなじちからを もっていると ききました まおうさまとのしあい がんばってください」


人間語を覚えたてでしょうか、たどたどしい発音でしたが伝わってきます。どうやらウィスタリア王国で指名手配された時の文句が広がってしまったようです。

ううう、まおーちゃんと戦いたくないんですが、嫌ですと言える空気じゃないなあ。素直に返事しておきます。


「ありがとうございます」


そのあとも『頑張って』『頑張ってね』と、大勢の人から声をかけられます。私は精一杯の魔族語で『ありがとうございます』『頑張ります』と、その都度返事します。


「テスペルクばかり、ちやほやされてずるいなのー!」

「テスペルクもいい身分になったものだ。このナトリが優勝するというのに」


ハギスもナトリも私をひかんでいるのか、少し距離を置いて遠巻きに私を睨んでいます。ご、ごめんね‥‥。

さらに遠くの方から、誰かの叫び声が聞こえます。


『ああ、このアリサという奴のせいで賭博あがったりだよ!レートも大混乱!』

『あの女のせいでベスト16予想も大虐殺あるぞ』

『かわいい顔しやがって残酷な女だぜ』

『無名なのにシード枠だぞ?推薦した奴は天才かよ』


賭博も私のせいで荒れそうです。ごめんね。

と、私に集まってくる人混みの中に、1人の変な男がいるのに気付きます。若者のようです。高齢者に囲まれているので、余計目立ちます。青いはちまき?頭に青いバンドを巻いて、青いマフラーみたいなもので口を隠し、忍者っぽい青い装束を身に着けています。青いバンドの上から、茶髪を伸ばしています。その男は、人混みをかき分けて、私の前まで来ます。


「え、えっと、あなたは‥」

「お初にお目にかかる。俺は君と同じウィスタリア王国から亡命したウヒル・デン・ダダガドという」

「あ、はじめまして」


ウヒルが私に手を差し出したので、握り返します。


「俺は今日の準々決勝で君とあたる。よろしく頼む」

「はうっ、じ、準々決勝ですか‥」


まさかの対戦相手でした。


「楽しい試合を期待している」

「わ、私も頑張ります!」


私は何度も頭を下げます。それを見て、ナトリがひざで私の尻を蹴ります。


「はうう、痛いっ!?どーしたの、ナトリちゃん」

「いいか‥お前はもう少し自分に自信を持て。それから、もっと堂々とするのだ」

「うう‥」


ちょうどその時、選手入場が始まりました。列が少しずつ動き始めます。選手の数も235人だった昨日と違って今日は64人に減ったので列は短いです。私のところへ集まってくる人だかりも少しずつ減ってきます。

闘技場入りして廊下を歩きながら、ナトリは呆れ声で言います。


「なぜテスペルクは謙遜するのだ?謙遜しなくても十分に強いではないか。このナトリには及ばないがな」

「だって‥私、すっごく目立ってるから対戦相手もものすごく私への対策を練っているだろうし‥‥怪我するのは嫌だから、自分は弱いって言ったら相手に手を抜いてもらえるかなって‥‥」

「そんな考えじゃダメなの!」


ハギスも突っ込んできます。2人が立ち止まって私が進むのを止めるので、私も止まります。


「全力で戦うのがこの大会なの。そんなことをしたら失礼なの。もっと自分は強いアピールをしやがれなの」

「そうだ。テスペルクはもっと胸を張っていいのだぞ。それに怪我が怖いのはみんな同じだ。自分だけ特別だと思うな」

「ううっ‥‥」


2人の正論がくざりと刺さります。


「それに、ユハで大怪我した奴が何を言うのだ。お前はあれだけ怪我しても勝てたんだ。裏付けはあるから自信を持つのだ」


ナトリがユハのときのことを持ち出してきます。亡命の旅の途中、ユハという町で私はあの兄弟とバトルをすることになり、全身に大怪我を負いながらもなんとか勝てたのです(第3章参照)。あの兄弟、今も元気にしているのかな。


「‥うん、怪我を怖がっていたら勝てないもんね」


決勝でまおーちゃんに戦略魔法を使われると思って、自分は全てにおいて臆病になってしまったかもしれません。

決勝に出られたら破局を回避できるので、それだけで良しと考えましょう。決勝試合のことは後で考えることにしましょう。


「それでこそナトリのライバルだ」


ナトリがぽんと、私の背中を叩きます。私はにこっと笑って返します。


◆ ◆ ◆


3回戦最初の試合はまおーちゃんが出ます。私はもちろん観戦します。次の試合が近いハギスを置いて、観客席の入り口近くで、ナトリと一緒にその様子を見ます。


「うわあ‥‥」


まおーちゃんは大きな魔法を繰り出して、相手の体力を一気に削ります。相手に反撃の隙を一切与えません。圧倒的でした。

すごいです。すごいけど‥‥あれだけの力を持つまおーちゃんと自分が戦うことを想像すると、交際相手の勝利を手放しでは喜べません。全身に緊張が走ります。

その5つ次の試合にハギスが出ました。5つ次ということは、まおーちゃんとは次の次の次の試合、6回戦で当たるということでしょうか。あ、6回戦って準々決勝ですね。ハギスも身長を超える程度の巨大なフォークをぶんぶん振り回して風圧を作り、相手が怯んでいると見るや、今度はフォークの柄を腹に突き刺して相手を大きく吹き飛ばします。


『勝ったなのー!!!』


ハギスの叫び声に、会場全体が沸き立ちます。ハギスもファンを獲得したのかもしれません。


それからしばらくの間、いくつかの試合が消化されて、私の番になりました。

3回戦です。私はグラウンドの真ん中へ行きますが、対戦相手が1分たっても現れません。スタッフが駆け寄ってきて、私に説明します。


『あなたがここに立ってから1分経過しても相手が現れなかったので、棄権が成立します。あなたの不戦勝です』

『わかりました』


棄権されました。それだけ昨日の私の魔法が強烈過ぎたということでしょうか。

観客席からのブーイングがすごいです。まおーちゃんやハギスのときよりも、すごい騒音になっています。それだけみんな、私の戦いが見たかったのでしょうか。

周りから注目されるのは怖いけど、入場前に応援してくれた人もたくさんいました。私のことを応援してくれる人がいるんですね。

頑張らなくちゃ。私はぎゅっと手を握ります。


私は出口から控室に戻ります。入り口と出口は別々ですが、いったん控室に入らないと、廊下へ出られない構造になっているのです。ふと私は、控室に見覚えのあるライトグリーンの髪の毛を伸ばした獣人がいるのに気付きます。ナトリです。そういえばナトリとは次で当たるのでした。

うう、ナトリの試合は見たいけど、観客席はちょっと遠いので間に合いそうにありません。観客席に行く以外に、試合を見る手段はなさそうです。代わりに声をかけてあげます。


「ナトリちゃん、頑張ってね」

「おっ、テスペルクか。分かったのだ」


振り返ってきたナトリは満面の笑顔で返事します。

ナトリはそのあと、3回戦で少し相手に反撃されながらも勝利しました。その様子を、私は控室近くの廊下で、魔族語の実況を集中して頑張って聞きながら、なんとか知りました。

ナトリが勝ったので、次の私の相手はナトリです。全力を出して戦うという約束、守らなくちゃいけません。私はこくんとつばを飲み込みます。

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