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第104話 開会式がありました

『これより第767回決闘大会を始めます』


当たり前ですが、アナウンスはすべて魔族語です。

開会式というものがあって、まおーちゃんが魔王として言葉を述べるのですが、単語のひとつひとつはわかるのですが、流暢にすらすらしゃべってくるので、話の内容がよく分かりません。私、大広間で働く自信ないかもしれません。

私たち出場者はグラウンドに並んで、アナウンサー席で原稿を読んでいるまおーちゃんの言葉を聞いています。個人戦に出場するのは235人ですが、楕円のグラウンドに並んでいる人数はそれより多いです。個人戦に参加せず、チーム戦、グループ戦に参加する人も含まれているのでしょうか、軽く数えてもとにかく多いです。数千人はいるんじゃないでしょうか。計算的に、ほとんどが100対100のグループ戦に出る人なのではないでしょうか。

でも、これだけの人が揃ってもグラウンドの一部分にぽつりと固まっているようにしか見えないです。第一印象でエスティク魔法学校の第2運動場の2倍はあると思いましたが、改めて見ると、それよりも遥かに広いです。


気になったので大会が終わった後にちゃんと調べたら長径300メートル、短径280メートルはあるようでした。前世でコロッセオという建物がありましたが、それよりも広いです。もちろんそれだけ広いと観客席からも試合がよく見えないので、観客席の一番上のほうに、映像転送魔法で巨大なスクリーンが表示されています。私たちの様子が拡大して表示されています。思えばそれだけの面積に障壁を張った私ってすごいのかもしれません?


メイとラジカは、観客席の中腹に仕切りの壁を見つけたので、そこに座りました。メイが壁のすぐ隣に座り、それを守るようにラジカが隣に座ります。


「といっても今日はナトリ2回、アリサ1回、ハギス1回、魔王1回だけでしょ?試合。むしろ待ち時間のほうが長くない?」


観客用に、トーナメント表を人間の言葉に訳したものが配られていたのでそれを取ったメイとラジカは、その日の予定について話し合っていました。


「時間をつぶせる何かがあればいい。アタシはカメレオンで遊ぶ」

「私は読書しているわ。ナトリが1回戦に勝てば次の試合が夜になっちゃうから、食べ物買っておけばよかったわ」

「後で弁当を買いに行こう。30分以内であれば席をあけられるシステムだから」


観客席は自由席ですが、一時的に席を離れる時は椅子に付属の鍵を抜くと、椅子が折れて尻を置くところが背もたれにくっつくようになっています。ただし30分経過すると鍵が消えて、椅子のところに新しい鍵が現れます。


「こういう複雑な技術、人間にしか作れないはずだったよね?これも亡命者が持ち込んできた技術なのかしら」


メイは椅子にもたれて、邪魔する雲のない青空を仰ぎます。


「多分そう」


ラジカはそう言いながら、カメレオンを通してアリサの様子を見ています。アリサの肩がカメレオンの定位置で特等席なのです。私も肩の感触でそれには気づいていましたが、特に嫌だとは思いません。え、だって友達でしょう?変ですか?


まおーちゃんの話が終わり、開会式も終わります。私たちはいったんグラウンドから出ます。控室は数千人は極端にしても、大会1日目に出場する235人が全員入るにはあまりにも狭すぎるので、直近に試合がなくひまな選手は観客席に入ります。私は肩に乗っているカメレオンのしっぽでの指示に従って、ラジカたちの席に辿り着きます。ラジカの隣には人が座っていたので、私、ナトリ、ハギスの3人は、メイ、ラジカの前の席に座ります。


最初の試合はトーナメント表の右半分に名前のあるまおーちゃんやハギスではなく、シードではないナトリです。ただ、ナトリの名前はトーナメント表の左半分にあるので、出番はもう少し先です。


「うわあ、ずるーい!ちゃんと人間語のトーナメントもあるんだ!」


私はメイからもらったトーナメント表を眺めます。これ、選手入場時間帯には配られていないんですよね。ほとんどの選手に爵名|(第1章参照)がついていないので、魔族か人間の平民のどちらかであることが伺えます。多分、さっきの開会式の様子から見ても、人間の平民はいないでしょう。爵名のついている人は私、ナトリ以外にも何人かいるので、他にも人間の貴族が何人か紛れ込んでいるようです。


「マシュー将軍もいるのだ。あっ、ケルベロスもいるのだ。この2人は当たるな」


ナトリが、自分の手持ちの魔族語のトーナメント表を見てうなずきます。


「その2人、知ってるの?」


私が首を傾けて尋ねると、ナトリは言います。


「魔王の重臣なのだ。テスペルクも釣りをしていた時に魔王が来たが、あの時魔王の後ろにいた2人なのだ」

「うーん、あ、ああ、あの2人か」


私の中ではすっかり影が薄いので忘れていました。重臣であれば大広間で会いますね。ナトリは毎日会っているんですね。


「どっちにしろ優勝するのはこのナトリなのだ。みんなは優勝者のナトリの友達でいられて幸運なのだ」


そう言ってナトリが自信満々に胸を張ります。


「あたし、一応同じ学校の先輩なんだけどね」


エスティク魔法学校の先輩であるメイは呆れ顔で私から人間語のトーナメントをとって、続きを読みます。


◆ ◆ ◆


「はぁぁぁぁ!」

「だぁぁぁ!!!」


試合が始まりました。選手たちの掛け声が聞こえてきます。争う選手の姿を至近距離から撮影したものが、スクリーンに表示されます。


「こうやって表示されるんだね」


私たちの試合もこうやって、メイやラジカにもよく見えるように表示されるのでしょうか。それだけでなく、この大量の観客席を埋めるだけの人全員に見えちゃうということですね。ちょっと恥ずかしいなあ。

試合は順調に進んでいきます。こうやって観戦するだけでも楽しいです。真剣勝負に燃える戦士たちの掛け合いは面白いですし、私の知らない魔法がいくつか出てきますし、初級魔法が出てくるのを見て私も昔はあの魔法をよく使っていたなあと思い出してみたり。

ふいに私は、クァッチ3世が王都カ・バサの王城で私に見せたあの残酷な試合のことを思い出します(第3章参照)。どうしてそんなことを思い出しちゃったのでしょうか。人間同士の戦いを見るという点では共通していますが、あれは負けたほうが必ず死にます。勝った方も次の試合で負けると死にます。あれだけの人数の集まりの中で、最後まで生き残るのは1人だけで、その1人も別の方法で殺されます。残酷な処刑方法なだけでなく、あれをクァッチ3世は笑いながら見ていました。

あれとこれを一緒にしてはいけません。試合とはこうあるべきものなのです。お互いが楽しみ、研磨し、競い合う祭典であるべきです。私は胸の中に刻み込まれた記憶を反芻して、目をつむり、ぎゅっと拳を握りしめます。


「ナトリはそろそろ出番なのだ」


ナトリが立ち上がり、椅子に鍵をかけずに離れていきます。


「ナトリちゃん、頑張ってね!」


私はナトリにエールを送ります。


「頑張るも何も、優勝者はナトリなのだ」

「そうなると私が彼女と破局することになるから、手加減してくれると嬉しいな‥‥」


私とナトリは同じトーナメントの左半分にいるので、決勝までのどこかで当たることになります。ううっ。


「真剣勝負に手加減はいらないのだ」


ナトリは私のお願いをあっさり切り捨てて、そのまま人混みの中へ消えてしまいます。

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