第9話 領主様に呼び出されました(1)
町に戻った私たちは、まおーちゃんを一緒に探してくれた兵士たちにお礼を言った後、学校で先生たちに叱られていました。
「魔王を殺さないからこんなことになるのですよ?」
「殺さず生かしておくなど、非常識にもほどがあります」
「魔王を飼うなら責任持ちなさい!人死にが出かねませんよ!」
こんなことを延々と聞かされました。まおーちゃんが隣にいるのに。
「‥‥まあ、一晩中探して疲れているでしょうし、午前はもう寝なさい。ただし、就寝中に魔王が逃げ出さないよう、再発防止に努めること。常に魔王のそばにいて絶対離れないこと」
小一時間の説教は、最後にこんなことを言われてやっと解放されました。
「まあ、妾は嫌われるのには慣れているからな」
まおーちゃんは何も気にしていないそぶりで、腕を頭の後ろに組んで、寮の廊下を歩いています。
「まおーちゃん、散々死ねって言われたのにメンタルすごいね‥私はもう疲れちゃったよ‥」
疲れてはいますが、私はいつも通り、ふわふわと空中に浮いたまま移動しています。
他の生徒たちは授業に行ってしまったので、廊下には誰もいません。
「‥まおーちゃん、いじわるなんだね。寝ている間に逃げ出しちゃうもん‥‥」
「妾は魔王だからな。本来、こんな場所にいる場合ではないのだ。政治問題が山盛りだというに、特に貴様の国との‥‥」
「私はまおーちゃん、大好きだよ」
自分の部屋の前で、私はまおーちゃんに抱きつきました。
「つのもかわいいし、まおーちゃんいいにおいがするし、こう‥やわらかいし、抱いていてあったかいし」
「おい、妾は貴様のペットではないぞ、離れろ」
「えっへへ〜、じゃあ昨夜みたいにベッドで寝てていいよ、まおーちゃんも疲れてるでしょ?」
「うむ‥‥」
部屋に入って、まおーちゃんはベッドに座りました。窓からは陽の光が差し込んでいますが、私は魔法でカーテンを閉めておきました。
「じゃあおやすみー、‥あれ、まおーちゃん寝ないの?」
空中に浮かんだ私は、まおーちゃんを見下ろします。
「‥‥貴様から拘束魔法をかけられるのを待っておるんじゃ。妾が布団に入ったままだとかけづらいだろう」
「えっ、拘束魔法って、どーして?」
私はきょとんとした顔で聞きました。まおーちゃんは呆れたようにため息を付きます。
「妾がまた逃げ出してもいいのか?」
「逃げ出したら私、次は泣いちゃうんだからね!」
「じゃあ、拘束魔法でも何でもかけて、妾がこの部屋から出られないようにするんだな」
「えーっ」
まおーちゃんは腕組みをしました。2本のしっぽもお互いを組むように絡めていて、そこがかわいらしいです。
私はふわりと高度を下げて、まおーちゃんの頬をそっと手で触ります。
「逃げるつもり、ないんでしょ?」
「えっ?」
「逃げるなら黙って逃げるでしょ?ゆうべみたいに。頭いい人は、逃げる時に逃げるって言わない。それに私、まおーちゃんのこと、信じてるから」
まおーちゃんの頬がゆるみ、少し赤らみます。でも目と口は、それとは真逆にむすっとした感じになりました。
「むむ‥貴様、騙されやすいタイプだな」
「ええーっ」
「だが、そこが‥‥いや、妾は寝るぞ」
まおーちゃんはそう行って、慌てるように布団の中に入ります。
「まおーちゃん、何か言いかけてたな‥いっか、おやすみ〜!」
私も、暖かい空気の塊に自分を包んで、そのまま目を閉じました。
◆ ◆ ◆
「‥テスペルクさん、テスペルクさん」
ドアのノックで、私は目覚めました。まおーちゃんも起きている様子で、くーっと腕を伸ばしています。
「どうしましたか?」
私はドアを開けました。ノックしていたのは先生のようですが、隣にもう1人、兵士がいます。
「テスペルクさん、起こしてしまったのならすみません。領主が、今すぐテスペルクさんにお会いしたいとのことです」
「えっ、領主様が?」
「はい。担任の先生には連絡しましたので、午後の授業は休み、速やかに用意を整えてください」
私も貴族です。エスティク市の領主とは、何度かパーティーでお会いしたことがありますが話したことはありません。見た目はやさしいおじさんでしたが、実際はどうでしょうか。
そんなことを気にしても仕方ないので、よそゆき用のライトグリーンのドレスを(もちろん魔法で操りながら)着て、準備を整えます。
「‥‥はぁ、さすがに領主様の前じゃ浮いているわけにはいかないか。嫌だなー」
「貴様の嫌がるところはそこか」
まおーちゃんは、さっき外して折り畳んていた漆黒のマントをもう一度つけています。
「‥‥でも領主様が急に私を呼び出したいなんて、一体何があったんだろう?」
「貴様は妾を目の前にしてまだそんなことが言えるのか‥‥」
まおーちゃんは、ニナがしたようなため息をついています。呆れている様子でした。
それから。
「‥‥それと貴様。一つ頼みたいことがある」
「え、え、えええっ!?まおーちゃんがお願い事!?いいよ、何でも聞くよ!!!」
急な申し出に私は一瞬後ずさりしましたが、すぐにまおーちゃんに体をくいっと近づけます。
「何でも聞いてくれるのなら、まず妾を魔物の国に帰してほしいのだがな‥‥」
「それはイヤ」
「はぁ‥‥‥‥貴様には、妾のそばにいて欲しい」
「え、え、えええ、えええっ!?」
私はまおーちゃんにぎゅっと抱きつきます。
「まおーちゃん、それは求婚ってことでいいのかな!?」
「誰が貴様なんかと!全く違うぞ、離れろ、鬱陶しい!」
「ぷー!ぷー!」
「あくまでも、領主と会っている間、だ。領主がどんな罠を仕掛けて妾の命を狙うか分からんからな」
「ええーっ、私はいつでもまおーちゃんのこと、守るよ?だって、まおーちゃんのこと、好きだから」
「妾と貴様はまだ会って2日目だろうか、いきなり恋愛的な意味で好きとかハードルが高いぞ!しかも女性同士ではないか!」
私とまおーちゃんがそうやって騒いていると、またドアのノック音がします。
「早く、していただけますか?」
そう声がしたので、私たちは急いで支度を終わらせて、部屋を出ました。
連載途中で申し訳ないのですが、この小説、第3章から残酷な描写が含まれる可能性がありますため、誠に勝手ながら以下のタグを追加させていただきました。
・「R15」
・「残酷な描写あり」
また、第1章は30〜40話程度で完結予定ですが、その続きとなる、魔王ヴァルギスと人間との間で過去に何があったかを描く第2章(全15話)は残酷な内容となっておりますため、部分的に18禁指定とさせていただき、この小説とは別の小説として公開いたします。ここには、R15向けの第2章要約版を掲載し、第1章終了後は第2章を読まなくても引き続き第3章へいけるよう配慮いたします。
第3章以降は18禁にするほど残酷ではないので、引き続きR15指定小説としてここで連載を続けます。
急な変更となり申し訳ございませんが、何卒ご了承ください。今後もこの小説をよろしくお願いいたします。