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第99話 決闘大会の相談をしました

翌日、魔王城の大広間では、大イノ=ビ帝国から来た使者が呼び出されていました。まおーちゃんはいつも通りの、何ら変わらない調子で、使者への返答を述べます。


「約束の件だが、いいだろう。ただしこちらも軍備が整っていないのでな、今年中に侵攻があった時の出兵は来年にさせてもらってほしい」

「了解いたしました。我が帝王にいい報告ができます」

「うむ。それから、こちらも返礼の使者を出そう」

「返礼ですと?」


頭を下げていた使者はその言葉に反応して、頭を上げ、上半身をまっすぐ立てます。


「そうだ。貴様の王たちと直接、込み入った話がしたいのでな」


そう言って、まおーちゃんはくすっと笑います。


使者が大広間から出た後は、自殺したウィスタリア王国の使者の扱いをどうするか、家臣たちと話し合っていました。昨日帰ってきたばかりで事情を知らないナトリには、他の家臣が説明してあげます。

ハールメント王国ではまだ遠征の準備は完了しておらず、その状態でウィスタリア王国から先制攻撃されるおそれがあります。攻撃態勢は万全ではないが防衛のための十分な準備はできていると主張する者、侵攻してくると分かっているなら国内侵入は阻止すべきだと主張する者、様々な意見が飛び交います。

ウィスタリア王国は好き勝手に言いがかりをつけ、いつでもハールメント王国を攻撃することができる状態になっているのです。開戦前提で議論がなされるのも無理はありません。


「どっちみち開戦が避けられないのなら、せめてあの使者の死体をウィスタリア王国に丁重にお繰り返し、あくまで自殺であることを主張すべきです。策略のために人の死をうやむやにするよりも、よっぽと人の道にあった対応です」


家臣の1人が言ったので、まおーちゃんは「よかろう」とうなずきます。


「近いうちに戦争が始まるだろう。軍備を急げ。ウェンギスを囲む城壁を点検せよ」

「ははっ」


まおーちゃんの指示に家臣たちは礼をして承知の意思を表します。


「マシュー将軍よ」

「はい」

「ウィスタリア王国にはどれだけの兵力があると見るか?」

「専属守備隊を除いても200万でしょう」


マシュー将軍はあっさり答えます。家臣たちがざわめきます。


「魔王様、我が国の兵力は多く見積もっても50万しかいません。各地を守備するために一定の兵力を残さなければいけないので、王都を守れる兵力は30万を越えるか超えないかでございます。魔王様の戦略魔法にも限界がございます。他の連邦構成国に援軍を要請すべきです」


家臣の1人が言い、家臣たちが慌て始めるとまおーちゃんはそれを手で制止します。


「まあそう慌てるな。200万人を全員ここへ差し向けるわけではなかろう。それに、この国には妾の他にも切り札がある。妾とそれを組み合わせれば兵力差も何とかなる」


それはもちろん私のことですが、いきなり家臣たちに言っても逆に反発を招くだけなので、まおーちゃんはぼかして言うだけにとどめます。


「だが、連邦他国との連携は前提に考えている。根回しはしておけ」

「ははっ」


ただちに連邦各国へ向けて、ハールメント王国の現状を説明し有事の対応内容を協議するための使者が送られていきます。


◆ ◆ ◆


私たちが言語学校から自分の部屋へ帰った時、ハギスがすでにテーブルの椅子に座っていました。さっきまで自室で食べていたのか、くさやのにおいが少しします。


「ハギスちゃん、ただいま!」

「おかえりなの。今日はお前らの顔が見たくて来たなの」


ハギスは満面の笑顔でぶんぶんと、例の封筒を振り回しています。

私たちはドアを閉めて、ハギスのいるテーブルの椅子に座ります。


「ハギスちゃんも決闘大会に出るんだよね」

「出るなの。それで、チーム戦のことについて相談したいなの」


ハギスは大会の冊子を開いて言います。ハギスの指差す先には、「3対3のチーム戦」と書いていました。


「3人でチームを作る必要があるなの。実は姉さんが、ウチやテスペルク、ランドルト(ナトリの苗字)を個人戦とチーム戦両方にエントリーしたらしいなの」

「ええっ!?」


私は慌てて本棚から自分の封筒を取って、参加証を確認します。確かに「個人戦/チーム戦」と書いてあります。


「本当だね、両方に参加することになっていたんだ」

「今更気づいたの」


ハギスは自分の参加証を封筒にしまって、続けます。


「姉さんは、ウチ、テスペルク、ランドルトを同じチームとして登録したなの。お前らはウチの仲間なの」

「そうだったんだ」


本棚からテーブルに戻った私は椅子に座って、ナトリに聞きます。


「ナトリちゃんは知ってた?」

「知ってたのだ。参加証に同じチームの名前が書いてるのだ」

「そうだったんだ‥‥じゃあ知らないのは私だけだったんだ」


私だけ魔族語が読めなくて分からなかったみたいです。あれ、同じチームの名前?ナトリの名前も魔族語で書いていたのでしょうか。あれ、私の名前って魔族語だとどう書くんだろう。

ハギスは冊子をばらばらめくって、あるページを示します。魔族語はよく読めませんが、ページのタイトルには「チーム戦のルール」と書いてあります。


「チーム戦では、先鋒、副将、大将を決めろと書いてあるなの。この順番で戦って、先に2勝したほうの勝ちなの」

「なるほど。1勝1敗したときに大将の出番というわけか」


ナトリが顎に手を付けて言います。


「一般的には、大将に一番強い人を配置するのかな?」


私が尋ねると、ハギスは首を振ります。


「最近はその型にはまらないチームも増えてるなの。先鋒、副将、大将を素直に強さの順番で決めると、先鋒に対して副将、副将に対して大将レベルのキャラを戦わせることで、トータルで弱いチームでも強いチームに勝ててしまうなの。それを対策したチームにさらに対策したチーム、さらにさらに対策したチームも出て収拾がつかなくなってるなの。そういう事情があるので、自由でいいと思うの」


最近の事情、複雑ですね。大将が一番強いとは限らないようです。ナトリは頭をぼりぼりかきながら言います。


「つまり先鋒や副将に必ず勝てるキャラを置けば、大将が戦える確率も上がるということか」

「先鋒、副将に一番強い人を置いて、大将までいかずに勝つという戦略もありなの」


なるほど、そういう方向で行くようです。


「ところでチーム戦で使い魔は‥‥可能か。なら、ナトリはテスペルクより強いな。このチームで一番強いのはナトリなのだ」


ナトリがまた、えっへんと胸を張りますが、メイが横から肘でつつきます。


「一番強いのはアリサでしょ」

「ウチもそう思うなの。姉さんもそう言ってるなの」


2人に反論されて、ナトリは「う〜〜っ」と言いながら腕に力を入れて震えます。ハギスはそれを呆れた目で見て、やれやれと続けます。


「‥じゃあ先鋒は一番強いランドルト、副将はテスペルク、大将はウチにするのはどうなの。どっちみちどこに最強が入っても、最近の事情からすると関係ないと思うなの」

「私はそれでいいよ、でも、うーん、毎回私は必ず戦うことになるんだ‥‥」


負けたらどうしようという漠然とした不安はありましたが、戦う順番が純粋に強さと相関していない以上、順番は正直どうでもいいものかもしれませんね。私はうなずきます。


「分かったなの。ウチがチーム名簿を書くなの」


ハギスは封筒から白紙のチーム名簿を取り出して、私たちの名前を記入します。これは大会当日提出らしいです。


「個人戦もチーム戦も同じ日にやるのかな?」


私はふと疑問を持ったので、尋ねます。同じ日だったら、両方に出る人は大変ではないのでしょうか。


「心配する必要はないなの。今回は国の予算からもお金が出されて大会の規模がいつもより大きくなっているなの。個人戦が2日、チーム戦が1日、100人同士で戦争のようにおこなうグループ戦が1日で、あわせて4日間の大会なの。場所もこの前ウチがお前らと戦った闘技場だからすぐそこなの。でも夜の休憩はしっかりとりやがれなの」

「分かったよ、別の日に行われるんだね。でも個人戦だけで2日って、なんだかすごいね」


私はハギスの広げている冊子を横から眺めます。

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