第8話 魔王を見つけました
東の方の空がうっすら明るくなりました。明け方が近づいています。
エスティク市の郊外を抜けたまおーちゃんは、道端で見つけたアルミラージに命令してドラゴンの封印場所まで道案内をしてもらっているところでした。
『なるほど‥ドラゴンは、この森の奥にある神殿に封印されているのだな』
魔族の言葉を使って、まおーちゃんは喋ります。
『はい。人間に倒されました。ただ、完全には倒しきれていなかったようで、私たち周りの魔族がうまい具合に隠しました。それでも体の損傷具合が激しいため、死を先延ばしにするための封印以外に手段がございませんでした』
『分かった。妾が封印をとき、回復してやろう。早速だが道案内してくれ』
『ははーっ、魔王様の先導を務めさせていただけるとは、ありがたきお言葉でございます』
そんなことを言いながら、森の中の獣道を歩いていきます。
『ところで、魔王様がなぜ単身でこのような場所にいたのですか?』
『それはだな‥ああ‥後で話す』
まおーちゃんはそう言ってごまかしました。使い魔として召喚されるのは、高貴な魔族にとっては屈辱なのです。
『それよりも、この地にドラゴンを倒せるほどの人間がいるのだな』
『はい。なんても、1人の少女で、魔法学校の制服を着ていると聞きました』
『う、うむ‥嫌な予感がするから聞かなかったことにしておこう』
ひらけた場所までたどり着きました。2人の目の前に、石でできた、ぼろぼろの神殿がありました。
『この神殿だな』
『はい』
まおーちゃんは、ギギギと木の扉を開けます。
(ドラゴンを探すにも一苦労とは‥しかし、これでやっと帰れる目処がついた。アリサとかいう変な娘に絡まれて災難だった。城に戻ったら、早速、昨日一日我慢していたアレを‥‥)
神殿の大広間には、確かに、巨体のドラゴンが氷のような塊の中に入って眠っていました。見るからに、腹に大きなダメージを受けているようです。
『‥‥うん?』
まおーちゃんは、その塊の前に1人の女の子が立っているのに気付きました。
(こ、この後ろ姿は‥まさか‥!)
『‥おい、逃げるぞ』
まおーちゃんは、そっとアルミラージにささやきます。
『逃げるって‥なぜでしょうか?』
『と、とにかく、逃げ‥‥』
「いた」
少女は、ゆっくりと振り向きます。
ドラゴンの入っている塊の表面が、まおーちゃんとアルミラージの姿を、鏡のように映し出していました。
「こんなところにいたんだね、まおーちゃん」
少女は、私ことアリサ、その人でした。
「寂しかったーーー!!!」
私は全力でまおーちゃんのところへ駆け出して、抱きつきます。
「おい、触るな、貴様‥‥!」
アルミラージも『そこの人間、魔王様に気安く触れるな!』と叫んでいますが、魔族の言葉なので私にはただの鳴き声にしか聞こえません。
実は学校で魔族の言葉を学ぶ時間もあったのですが、私はその時、もちろん寝ていました。てへ。
「まおーちゃん、急にいなくなるなんて寂しかったよ!みんなで、すごくすっごく探したんだから!!!」
「お、おお‥」
まおーちゃんは肩の力が抜けたのか、ため息をつきます。
そばではアルミラージが何度も鳴いていますが‥‥
『気持ちは嬉しいが、もうよい。去れ』
『は、はい、魔王様‥‥』
アルミラージは力なくうなずき、その場を立ち去ります。
「ねーねー、まおーちゃん、今何て言ったの?モンスターの声みたーい!」
「‥‥魔族の言葉だ。魔族の中でも人間の言葉を話せるのは少数派だがな」
そう言って、まおーちゃんは背中につけていたマントを外します。
マントの下にあった、紫色の立派な服が顔を出します。
「‥あれ、まおーちゃん、マント外してどーしたの?昨日一日つけていたのに」
「‥‥今回の一件で、妾がおることはこの町全体に知れ渡っただろう。妾を警戒する目も強くなるし、それだけ貴様に捕まりやすくなるということだ。安心しろ、次の逃走計画は当分先だ。妾も莫迦ではない」
「ええー!どーして逃げちゃうのー?」
私はもう一回まおーちゃんに抱きついて、悲しそうな顔を作ってまおーちゃんに見せます。
「ああ、もう‥‥妾は魔王だ!一国の王であり多忙なのだ!妾が貴様に付き合ってあげてるだけありがたく思え!あと、離れろ!」
「離れたくない。私、まおーちゃんに一目惚れしてて‥まおーちゃんのこと、大切にしてあげたいって思っちゃって‥もっと仲良くなりたいって思って‥」
「‥‥貴様。とりあえず離れろ」
まおーちゃんが私の胸を肘でつつきました。胸と腹が痛かったので、私はまおーちゃんを抱く手をゆるめて離しました。
「心配しなくとも、妾も貴様を特別な人間だと思っておる」
「えへへ、嬉しいな〜!この勢いで結婚しちゃう?」
「そっちの意味の特別ではない!!」
まおーちゃんの叫び声が、誰もいない大広間にこだまします。
「‥‥そういえば、ニナが言ってたけど、まおーちゃんは私の町に攻撃して廃墟にしちゃうの?」
「ああ‥そんなことを思われても無理はないかもしれんな。そのつもりはない」
「よかった‥まおーちゃん、悪い人じゃなかったんだね」
私はにこーっとほほえみました。
「悪いのは人間だがな‥話が脱線するのでここまでにしておこう」
まおーちゃんはそう言って、私の顔を見ます。
「妾は人間に失望していたのだが‥昨日一日過ごしてみて、ここには貴様みたいな人間もいると知った。貴様のような奴の居場所を奪ったのであれば、妾も寝覚めが悪いのでな。破壊するつもりはない」
「よくわからないけど、よかった!」
「‥‥ところで、妾からも聞きたいことがあるのだが、貴様こそ、なぜこんな場所にいた?」
私はドラゴンを指差して言いました。
「まおーちゃんがいくら探しても見つからなかったから、ドラゴンにお願いして一緒に探そうと思ったの!」
「はぁ‥‥ちなみに、あのドラゴンは貴様が倒したのか?」
「うん、私が倒したよ、だからここにドラゴンいないかなって探しに来たの」
「‥‥倒すのにどれくらいかかった?」
「うーん‥‥パンチ1つで倒れたかな」
「パンチ1つであの威力か‥‥」
まおーちゃんは、脱いだマントを折り畳みながら続けます。
「貴様、いろいろ規格外だな‥‥心も、力も」
「ねえねえ、そんなことより町に戻ろーよ!みんな、待ってるよ!一生懸命探してくれてるよ!」
「ああ、分かった。戻ろう」
私とまおーちゃんは、一緒に大広間を出ました。




