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第91話 彼女のいる生活

遊園地でいろいろあって、私とまおーちゃんは付き合うことになりました。ただし、付き合っていることは誰にも気付かれてはいけません。学校の中の恋バナとかならまだましなほうです。まおーちゃんの場合は、国全体の政治に影響しかねないので本当にまじめな話です。

私はまず、付き合っていることをメイ・ラジカに気付かれないようにするにはどうすればいいか考えていました。(※もうばれてます)

ここは早朝の私たちの部屋です。まだみんなが寝ているうちに、私は空中にふわふわ浮きながら考えます。


「うーん、いつも通りにすればいいのかな?はっ‥‥」


いつも通りにするということは、まおーちゃんに抱きついたり、結婚を前提に話したりすることです。それが現実味を帯びてしまった今、今更抱くのは躊躇してしまいます。

私は確かにまおーちゃんのことが好きです。でも、今までは心のどこかで付き合えないだろうなと思っていたので、自分の中では抱きつくなどの行動は冗談めいていました。ある意味で、恋愛相手ではなく友達として見ていたのは私の方だったのかもしれません。なら好きとか軽々しく口走るなという話なのですが、いざ本当にまおーちゃんから好意を寄せられていると困ってしまうのです。というか、彼女ができること自体初めてです。恋人に何をすればいいかわからないのは、私も一緒なんです。

ううむ、どうしたらいいのでしょう。私は真近に迫る天井の模様を目で追いながら、これからのことを考えます。


「どうせ魔王のことを考えてるでしょ」

「!?」


下から声がしたので、びっくりして見下ろします。メイがベッドから身を起こしていました。


「ラジカのカメレオンで丸聞こえよ。ラジカもハギスも知ってるわよ」

「そ、それは恥ずかしいです‥‥」

「あたしなら絶交するわ。アリサが優しすぎるのよ」


そう言って、ベッドから下ります。私はふわーっと高度を下げて、手を合わせます。


「お願いですお姉様、このことは誰にも言わないでください」

「言わないから安心してよ」

「ありがとうございます、お姉様」


◆ ◆ ◆


食事の時は‥‥ドアの近くに使用人が控えています。使用人経由で情報が漏れるのも嫌ですね。つまり食事のときもいつも通りにしなければいけません。あれ、休日の昼間以外でまおーちゃんと付き合える時間なくないですか?


「ままままおーちゃん、おっは、おは、おはよー!」


私は頑張っていつも通りを装って誕生日席に座るまおーちゃんに抱きつこうとしますが、まおーちゃんはあっさり私から体を反らします。


「あれっ!?」


私は浮遊の魔法で自分の体を逆さまにして、まおーちゃんに飛びつこうとして抱けず地面に落ちる衝撃をかわします。


「貴様、今日はいつもよりキレが悪いぞ」


そう言ってまおーちゃんは、平然とパンをちぎってスープにつけます。


「う〜っ、まおーちゃんのいじわる‥‥」


私はできるだけ平静を装うべく、ふわーっと浮いて自席に移動します。

座る時、隣のメイがこそっと耳打ちしてきます。


「アリサ、もう冗談で抱くのはやめたほうがいいわよ。動きが分かりやすすぎてあっちの使用人にばれるわよ」

「は、はい、お姉様」


煩悩がそんなに動きに出ていたのでしょうか。とほほ。

そういえば今日は休日でしたね。今日もどこか出かけないのでしょうか。


「そーいえばまおーちゃん、今日もお休みだよね?」

「うむ」

「どっか遊びに出かけない?」

「今日は確かに政務は休みだが、家臣と昼食をとり、少々遊戯を嗜む予定が入っておるのだ。昨日みたいに一日中城をあけられる日が珍しいくらいだ」

「ううーっ‥‥」


私は不満そうに口をとがらせながら、パンをちぎります。それを見かねたまおーちゃん、何を思ったのかこう言ってきます。


「夕食が終わったら、妾の部屋に来い。話がある」


まおーちゃんから直々のご指名きました!

もう、それだけで私はぴんと背筋をきれいに伸ばして、満面の笑みでうなずきます。


「‥貴様は分かりやすいな」


まおーちゃんは失笑して、それをごまかすようにフォークで野菜をすくいます。


「‥‥それで、貴様ら今日は何をする?」

「うーん、まおーちゃんが忙しいのなら、私たちは何をしよう」


私が周りを見回すと、ハギスがはいはいと手を挙げます。


「はいはーい!ウチが王城近くの店を案内してやるなの!」

「わあ、ショッピングかな?連れてって!」


他の2人もうなずいたので、その日はまおーちゃんを抜いた4人で王都のショッピングをすることになりました。


◆ ◆ ◆


「しゃーん!この服、どう?」


私が試着したのは、黒いシャツとズボンの上に、きらきら光る黒のコートです。魔族の国は人間の国の北に位置し、冷涼なのです。


「魔族らしくて似合うなの。このネックレスがあればもっと似合うなの」


ハギスもノリノリで、私のファッションの手助けをします。ラジカとメイも、気に入った服を鏡で合わせてみるなど、服選びを楽しんでいます。


「そろそろお昼にしようか!」

「お昼なの!食べやがれなの!」


適当な飲食店を探して、注文します。

食事が来るまでの間、メイが声をかけます。


「ハギスもアリサになついたわね」

「打ち解けたって感じ」


ラジカも同意します。

昼の忙しい時間帯なので、先に飲み物と前菜のサラダだけが出されます。りんごジュースを少し飲んだ後、メイはニヤニヤして私に尋ねます。


「どう、彼女ができた気分は?」

「うっ、えっと、その、なんていうか‥‥」


突然の質問に私は頬を赤らめます。

まおーちゃんと付き合っていると誰かに聞かれてはいけないので、メイは「彼女」という表現を使ったのでしょうか。


「今ここに彼女いなくて寂しいかな?」

「‥はい、寂しくないって言えば嘘になります。みんなと一緒にいて楽しかったので、彼女がいればもっと楽しいなって思います」


まおーちゃん、今頃家臣と食事を楽しんでいるのでしょうか。ううっ、メイが変な話をふるのでまおーちゃんのことが気になってしまいました。


「ただでさえ女同士ってだけでもイレギュラーなのに、身分がね‥まあアタシは姉として応援してるわ」


そう言って、メイはりんごジュースをすすります。


「最初、キモいと言ってなかった?」


ラジカがサラダのプチトマトをフォークで掬って食べます。


「確かにキモいことにはキモいわ。レズって下手するとあたしも恋愛対象に入るからキモいんだけど。でもアリサと彼女の真面目な恋愛であることには変わりないわよ。キモいけど真面目にやってるなら応援はするわよ。やっぱりキモいけど」

「お姉様、その言葉刺さります‥‥」

「アリサ」


メイは、かたんとジュースをテーブルに置いて、私と目を合わせて言います。


「やるならとことんやりなさい。アリサは彼女のことを大切にしてあげなさい。同じ女同士だから気持ちはわかるでしょ?」

「分かりました、お姉様」

「‥‥あたしからはこれ以上は何も言えないわ。あたしも人と付き合った経験ないんだし。ちょうどお見合いの話が来てたけど、亡命のせいでなくなったし」

「ごめんなさい、お姉様‥‥」

「アリサは謝らなくていいわ。悪いのは王様よ」


すっかり愛国教育も解けてしまったのか、それを言う時のメイは堂々としています。


その時、食事が届きます。私たちは、それぞれが注文した食事を食べるのですが、私はふと、ハギスがケーキを頼んでいるのに気付きます。


「ハギスちゃん、ケーキも好きなの?」

「姉さんが好きだから、その影響なの。ちょっと食べるなの」

「‥‥ねえハギスちゃん、このあたりでおすすめのケーキ屋ってある?彼女にプレゼントしたいな、えへへ」

「その人は国中のケーキを食べ尽くしてるから、特別喜ぶことはないと思うなの」

「そ、そうかな‥‥」


私はしばらく黙って食べていましたが、1つ思いついてまたハギスに言います。


「ハギスちゃん、みんなの分のケーキも一緒に買うってのはどうかな?彼女も、誰かと一緒にケーキ食べたほうが絶対楽しいし」

「なるほどなの。それならいいなの、紹介してやるなの」


ハギスも、私の提案がよかったようでうなずきます。

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