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第86話 魔王とレストランで話しました

まおーちゃんの指定したレストランは、池と森に面した自然感あふれる木造の建物でした。内装は入場券の絵に似てアンティークな家具が多く、歴史を感じる装飾がなされています。


「わあ、いいにおいがするー!」


食べ物ではなく、木や森のにおいです。新鮮な葉っぱを連想させるそのにおいは、レストランの入り口近くに漂っています。丸いテーブルを囲む席に座ると、さすがに食べ物のにおいがしてきましたが。

それぞれ注文を済ませて、料理が来るまでトークです。


「午前は楽しめたか?」


まおーちゃんが言うと、私とハギスは「はいはーい!」と手を挙げます。それを見て、まおーちゃんはふふっと笑います。


「貴様らは仲がいいな」

「仲良くないなの!姉さんは渡さないなの!」

「えーっ、まおーちゃんは私の結婚相手だよ!」

「だから勝手に事実を作るな、黙れ。他の2人は?」


まおーちゃんはそう言って、横に視線を向けます。


「‥あたしは楽しくなかったわよ」

「そうか、貴様はゴーカートしか楽しめなかったからな」

「アタシは普通に楽しかった」


ラジカはほほえみます。

私は持っていたパンフレットを広げて、まおーちゃんに声をかけます。


「ねえまおーちゃん、午後の最初はみんなで楽しめるものがいいかな」

「うむ。アーケードゲームはどうだろう。ピンボール、ビリヤードもあるぞ」

「それいいね!」


そこでハギスが目の色を変えます。


「テスペルク、また勝負しやがれなの。ビリヤードなら負けないなの!」

「やろうやろう、賞品は何にする?」

「姉さんとチューする権利なの!」

「ぎゃあっ!?」


い、いきなり何を言うんでしょうかこの子は!?私は顔を真っ赤にして、手を頬に当てます。ま、まおーちゃんとちゅー‥‥。いつもまおーちゃんに抱きついたり結婚しようと言ったりしていますが、いざそれが現実になりそうになると恥ずかしくなってしまうタイプです。考えるだけで恥ずかしくなってきます。

一方のハギスも自分で言って恥ずかしくなったらしく、頬を赤らめてそっぽを向きます。


「か、家族としてのチューなの‥‥」

「人を勝手に賞品にするな、妾は乗らんぞ」


まおーちゃんはパンフレットで顔を隠しながら突っ込みます。表情見えないのずるいな。


「しかしこの遊園地も、アトラクションが増えたな」

「前はそーでもなかったの?」


私の質問に、まおーちゃんはうなずきます。


「うむ。ここ最近増えてきたのだ。大方、ウィスタリア王国からの亡命者が技術を持ってきたのだろう、遊園地以外の施設からも報告は受けておる」

「うわっ、亡命ってそういう側面もあるんだね」

「あの国には悪いが、この国もおかげで経済が発展しておる。最近は人間の経営する企業も増えたし、人間式の経営もこれから増えていくだろう。人間たちは暴力を得意としない分、知恵で戦う。その戦力が続々と入ってきているのだ、政治家としてわくわくしないか」


などと、最近の実情について話したり。


「このアトラクションってなんていうの?」

「うむ。浮遊しながら3次元で遊戯を楽しむところだな」

「なにそれすごそう」

「ボールを、天井にある穴にはめていくのだ。途中で敵と戦ったり、障害物を避けたりする」

「面白そう!でもお姉様が嫌がるかな」

「貴様1人だけでも行けるぞ?なんなら妾と勝負するか?」


などと、前世にはなかったアトラクションについて話したり。

そうやって私とまおーちゃんが2人で盛り上がっているところを、ラジカとメイはじどーっと眺めていました。私もそれに気付きます。


「‥‥はっ、お姉様、ラジカちゃん、どーしたの?」

「‥‥2人とも似合ってるって思って」


メイの返事に、ラジカもふふっと笑ってうなずきます。


「に、似合っとらん!」


まおーちゃんはパンフレットを私に突き返して、ぷいっと私から顔を背けてしまいます。あーあ、悲しい。


「うっううーっ‥‥」


後ろから怒りの声と静かなオーラが私たちを襲ってくるので、びくっとして振り向くとハギスが目をギラギラさせています。


「‥‥姉さんはウチ以外と話すなあああ!!!」


店中に響き渡る大声で、ハギスが叫びます。


「ハギス、し、静かにしろ」

「わ、私、代わってあげるね‥‥」


私はそれまでハギスが座っていた椅子に移動します。席を交換です。


「‥‥姉さん、ウチ、他の人と話してると寂しいなの。姉さんを取られそうな気がするなの」

「‥‥何度も言うが、妾は貴様の前から消えない。それだけは約束する。安心しろ」

「安心できないなの‥‥」


そう言って、ハギスはくすん、くすんと泣き出します。


「‥ハギスちゃん」


私は、ハギスの頭に手を伸ばします。ハギスがばしっと手で払って拒絶するので、私はそのままハギスに話しかけます。


「ハギスちゃん、私と友達になる?」

「‥えっ?」

「ハギスちゃんは、まおーちゃんがいないと寂しいんだ。じゃあ、まおーちゃんがいなくても寂しくならない方法考えようよ」

「‥‥‥‥」


まおーちゃんも言います。


「そうだ。妾も外交でしばらく国をあけることもあるが、そのたびにハギスが大騒ぎするのでな。妾がいないことに少しは慣れろ」

「ううっ‥‥」

「それに、貴様には妾以外の友がいなさすぎる。午前の様子を見ていたが、貴様らはお互いに競い合えるかは分からぬが、馬は合う。アーケードで一緒に遊んでみるというのはどうだ?」

「でもテスペルクはウチの敵で‥‥」

「そうやって相手を無条件に拒絶するのもどうかと思うぞ」


私を見てハギスはしばらく考えていましたが、やがて。


「‥分かったなの。テスペルク、お前はアーケードでウチと勝負しやがれなの」

「分かったよ、受けて立つよ」


というわけで、午後はアーケードでビリヤード勝負をすることになりました。


◆ ◆ ◆


アーケードまで来ました。ビリヤード台に、まおーちゃんと私とハギスの3人が集まっています。ラジカとメイは隣の台で、まおーちゃんと3人で打つつもりで待機中です。

ビリヤードです。私は前世での経験こそないものの、貴族の遊戯としてルールなどを覚えさせられていました。多少の覚えはあります。やってみましょう。

台の横から、まおーちゃんが私たちに話しかけます。


「最初のショットだけでも見届けたい。先に打つのはどっちだ?」

「私!」

「ウチなの!」

「コイントスで決めろ」


コイントスの結果先手になった私はキッチン(ブレイクショットをおこなうために手球を置く領域)の前へ行って、ラックで三角形に並べられたボールの塊めかけてブレイクショットをきます。

手球も含め、11個のボールが台の上を勢いよく乱舞します。うち1個がポケットに入りますが、残り10個は台の上に残っています。


「それでは、妾はあの2人と遊ぶ。貴様らで楽しめ」


まおーちゃんはそう言って、隣の台にうつります。残された私とハギス。


「勝負だよ、負けないからね」


手球以外で、落とすべきボールは9個です。私はキュー(ビリヤードで使う棒)を構えます。一方、ハギスはキューの先についているタップの状態を確認します。


「先に10番目のボールを落とした方の勝ち、でいいかな」

「望むところなの」

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