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第83話 魔王と遊園地に行きました(2)

「‥お前」

「どーしたの、ハギスちゃん」

「お前は姉さんと結婚すると言ったなの」

「言ったよ」

「お前は姉さんのどこが好きなの?」


それを聞くなり、窓の外を覗いているまおーちゃんがぴくんと体を動かして反応するのが私にも分かりました。私は「うーん」とちょっと迷ってから、答えます。


「一言で言うと、優しいとこかな」

「優しいなの?」

「うん。ぶっきらぼうに見えるけど、なんだかんだで私のことを大切に思ってくれていて。私がつらくて泣いていたときも、まおーちゃんはずっとそばにいてくれたし。私のことをずっと考えていてくれる。だから好き。最初は見た目で一目惚れしちゃったけど、まおーちゃんは中身もかわいいんだよ」

「ウチもなの。ウチは姉さんから大切にされてるなの。姉さんにとってウチはこの世で一番大切なの」

「違うよ、私が一番だよ」

「ウチが一番なの!もう一回決闘しやがれなの!」

「やめろ」


まおーちゃんが一言入れたので、ハギスは私から少し離れます。


「‥‥姉さんは譲らないなの」

「それは私もだよ。ぷーっ」


お互いにらみ合います。火花が散ります。


◆ ◆ ◆


バスの走る道は少しずつ民家が減り、木が増え、池が見え、気がつくと辺り一面は山道になっていました。

山を登った先に柵があって、それを通ると。


「わあ‥‥」


窓の外を見て、思わず声を漏らします。

バスは広い駐車場に入りました。天に届きそうなほど大きな観覧車が、入り口の受付などがありそうな建物の向こうから顔をのぞかせます。ジェットコースターっぽいのもちらちら見えます。

そして大勢の人々が歩いているのが見えます。


「ここが妾の国の代表的なレジャー施設、ウェンギス遊園地だ」


バスから降りた私たちは、ハギスを先頭に遊園地の入場券購入の列に並びます。周りは、やはり魔族の国というだけあって、色とりどりの魔族でいっぱいです。魔王城近くの市場では人の形をした魔族もまだ多かったのですが、ここは観光地というだけあって国中の色々なところから人が集まっているようです。腰から上が灰色の狼の姿をしている人がいたり、見た目は普通の人だけど背中に羽が生えている人がいたり。しまいには、ただのライオン?ヒョウ?みたいな四足歩行の魔族もいます。人間の姿をした私たちが逆に例外なんじゃないかと思うくらい、色々な魔族が集まっています。


「怖い‥」


メイはぎゅっとラジカの腕を抱きます。ラジカは「大丈夫」と、メイの頭をなでてやります。


「いろんな魔族がいるんだね、すごい」


私は感心して、思わず声に漏らしてしまいます。


「魔王城近くには、外交上の理由で人間の姿に近い魔族が優先的に住めるようにしておる。だから貴様たちも見慣れないだろう。様々な魔物がヒトの知能を獲得し、ヒトと同じように暮らしている。その集合体が、妾たち魔族だ」

「い、市場にいる人達は、あれで人間の姿に近い方だったの‥‥?」


メイは周りをギョロギョロ見ています。


「大丈夫です、お姉様。私とラジカちゃんがいますから、ね?」


私はさすがにまおーちゃんから離れて、メイのそばにいてやります。そんな私たちを見て、まおーちゃんはふふっと笑います。


「貴様、貴様」


入場券購入の待機列の先頭近くまで進むと、まおーちゃんが私を手招きします。


「どーしたの、まおーちゃん?」

「今回は貴様が買え。魔族語の成果を見せろ」

「えっ、私にできるかな?」

「大丈夫だ。大広間で仕事する時はもっと難しい言葉が飛び交っておる。妾の右腕になりたいなら魔族語に慣れろ」

「わかったよ、まおーちゃん。ごめんなさいお姉様」


そう言って、私はハギスに代わって、一行の先頭にまわります。メイは前の人が私からまおーちゃんに代わったので、ますます震えてラジカに強くしかみつきます。


「メイ、痛い」


ラジカの言葉で後ろの様子に気付いたまおーちゃんが、メイに声をかけます。


「魔族に少しは慣れろ。この国で生きていくのに不自由する。大丈夫だ、敵意はない」

「うう‥っ」


メイは今にも泣き出しそうです。


「‥仕方ない、少し荒療治だが、妾に手を差し出せ」

「いっ、いっ‥」


震えるメイの手首をラジカが取り上げて、まおーちゃんに渡します。

まおーちゃんはメイの手を両手でぎゅっと握ります。


「貴様は妾が守ろう。貴様が無事に城へ帰れることを保証する。それができなければ妾は責任を取る。これでどうだ?」

「うう、ううっ‥」

「返事は?」

「‥わ、分かったわよ。あたしのこと、ち、ちゃんと守ってよね‥」


そう言って、メイはまおーちゃんの手を握り返します。まおーちゃんはにこっと笑って、またメイに背を向けます。

一方の私はというと、列の先頭に出ました。3つの購入窓口があって、そのうちのどれかの購入が終わったら次は私の番です。


「‥あれ?」


私は窓口の上に貼ってある料金表に気付きます。おとな3000ベル、こども1500ベルです。


「そーいえば、ハギスって50歳だけど子供なのかな?」


ちらっとハギスを振り向きます。ちょうど、メイとの話を終えたまおーちゃんが代わりに返事します。


「魔族は種族によって寿命が大きく違う。なので政令で、それぞれの種族の成人年齢を定義しておる。まあ、王族なら200歳くらいが成人だな。人間は19歳からが大人だ」

「なるほど、じゃあ、えっと、それだとお姉様は大人だから、大人2人、子供3人だね」


ちょうどその時、受付の1つがあいたので、私たち5人はそこへ集まります。

受付のお姉さんは、猫の顔をしていました。人間の体に猫の頭をつけたような感じです。


『5名様ですね。大人は何名ですか?』


うわっ、魔族語です。流暢な魔族語で話しかけられると、まだまだ発音が下手な私は躊躇してしまいます。えっとえっと。


『2つ』


緊張で思わず数え方の単位と敬語を端折って、序数だけで答えてしまいます。発音も上手くないしちゃんと伝わるかな。


『2名様でございますね。それでは10500ベルになります』

『はい』


私はお金を支払って、入場券を受け取ります。魔族の間で最近流行りのドクロのゴリ押し‥‥はなかったのですが、なんだかアンティークで雰囲気のある家具がいくつもある古っぽい部屋の絵が描かれています。


「貴様、買えてよかったな」


まおーちゃんから声をかけられます。


「ありがとう、数字しか言えなかったけど」

「何を言う。相手の言葉が読み取れるだけでも相当な進歩だぞ」

「えへへ、そうかな」


まおーちゃんに褒められました。

私はまおーちゃんたちに入場券を配って、入り口へ向かいます。

大きなアーチの上に、魔族語で大きく「入り口」と書いてあります。アーチの下には、入場券を持った人たちが5つの列に分かれて並んでいます。


「‥いつか、まおーちゃんと2人で来たいな」

「いつかウチが姉さんと2人で来るなの!」

「えーっ!私がまおーちゃんと2人きりになりたいよ!」

「外国人はどっとと帰りやがれなの!」

「う〜っ!」


私はまたハギスとにらめっこをしてしまいます。


「こらこら、2人とも黙れ」


まおーちゃんが横から割って入ります。私とハギスは不服な顔をして列に並びます。

係の人に入場券を渡して遊園地に入ります。ふと、入り口近くに遊園地のマップの掲示板があったので、私とハギスはそこへ駆け出します。


「わーい!どんなのがあるかな?なるほど、観覧車みたいなのがあるんだね。あと、コーヒーカップ?これは‥なんとか屋敷?絵を見るとお化け屋敷っぽいな?」


掲示板に書かれている地図はもちろん魔族語ですが、簡単な単語と絵の組み合わせであれば読めます。

一方、隣でマップを見ているハギスが急に騒ぎ出します。


「ゲートボールできるところがないの!あと、囲碁も盆栽いじりもできないなの!」

「ハギスちゃん、精神年齢いくつ‥‥」

「あうう、くさやが売ってそうな売店がないなの!」

「‥‥それはどこの遊園地にもないんじゃないかな」

「決めたの。ウチ、次の魔王になったら、遊園地でくさやを売るっていう法律を作るなの!」

「あ‥うん、頑張ってね」


さすがの私も元気よく答えられませんでした。

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