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第7話 魔王がいなくなりました

就寝中。


「んー‥‥」


時折吹いてくる風が心地よくて、私は何度か寝返りを打ちました。私は空中にふわふわ浮きながら寝るので、寝返りしたあとの向きはフリーダムです。あおむけ、うつぶせの他にも、斜めを向いたり、いっそ体が縦になって立っているような状態になったり、逆立ちの状態になったりすることもあります。

‥‥ん?風?窓なんてあけてないけど?


夢の中でにわかに風のことが頭から離れなくて、ぱちりと目がさめてしまいました。

今の私はうつぶせだったみたいです。部屋の床、そしてベッドが目に入ってきます。


ベッド?そういえば、今夜はまおーちゃんが寝ているのでした。


「‥あれ?」


ベッドには誰もいません。もぬけの殻です。

そして、風が吹いてくる方を見ると‥‥部屋の窓が開きっぱなしです。


「‥‥まおーちゃん?」


私はピンク色のかわいいパジャマのまま、窓から部屋を出ました。

私の部屋は、確か3階です。まおーちゃん、寝ぼけて窓から落ちちゃったのでしょうか。もしそうだとしたら大変です。


「まおーちゃん!どこー?」


月の灯りのもとで、一人まおーちゃんの捜索を始めました。


◆ ◆ ◆


同時刻、エスティク市の郊外の道を、まおーちゃんは歩いていました。もうすっかり都市部からは出てしまい、畑の間に家が点在しています。


(作戦通り、夜に抜け出すことができた‥案外うまくいくものじゃのう。

 これが人間の国か‥‥妾が部屋を抜ける時、奴は妾を全く警戒していない様子だった。よほどの自信の裏返しなのか、それとも油断していただけなのか、それとも‥‥)


(ただの地方都市だと思っていたが、意外と広いな‥‥さすが人間最大の王国だけある‥‥

 魔族の世界は遠い。まずは近場にいる将軍級の魔物を見つけて、ドラゴンのところへ案内してもらおう。

 しかし、これだけの距離を召喚魔法で呼び出しおって‥呼び出しは一瞬で、帰る時は数日かかりそうとは‥召喚される方には理不尽で迷惑な魔法だ‥‥)


そう考えながらまおーちゃんは、時折北極星の方角を見ながら分かれ道を選んだりして、近場の森へ歩いていきます。


◆ ◆ ◆


「‥‥はい?」


私が女子寮の近くでまおーちゃんを探しているところを、見回りの先生に見つかりました。その先生に事情を説明した後の第一声がこれでした。

先生は顔を真っ青にして、ガタガタ震えています。


「そ‥それは、心配ですね‥‥」

「まおーちゃん、道に迷ってないか心配です」


私はそう返しましたが、それに対する先生の反応が度を過ぎています。顔面蒼白でどうすればいいかわからない様子で、あちこちを見たり、頭を抱えて何度もうなずいたりしています。


「と‥とにかく校長先生に連絡します!私たち大人も全力で手伝いますね!あなたはそのまま探してください!」

「わっ‥私の使い魔のためにそこまで‥‥ありがとうございます!」


この世界では、使い魔は下等な存在とされ、いなくなっても別の新しい使い魔を召喚すればいい程度に考えられており、それが常識とされています。もちろん使い魔をペットのようにかわいがる人もいますが、少数派です。

でも私は、まおーちゃんをひと目見て気に入ってしまったのです。それだけでなく求愛してしまったのです。単なるペットでは片付けられません。

幸い、「新しい使い魔を召喚しなさい」など冷たいことは言われず、先生たちも私に協力して探してくれるようなので、私は涙が出そうになりました。


私が女子寮のまわりをくるくる回って、茂みのところも探している間に、見回りの先生が校長先生や他の先生達を叩くように起こしたらしく、捜索する先生の数は次第に増えてきました。

騒ぎを聞きつけて目が覚めてしまった寮の生徒も何人か現れましたが、先生が理由も説明せずとにかく「夜が明けるまで部屋にいなさい」と厳しく言ったのでみんな戻っていきました。あれ、私はいいのかな。使い魔の主だからなのかな。


「ふぁあー‥どうしたの?」


女子寮の入り口近くを探していると、ニナに出会いました。先生よりも先に私に出会ったのでしょうか。


「寝ている間にまおーちゃんがいなくなったの」


私がそう説明すると、ニナは先生のように顔を真っ白にしました。


「え‥え?冗談だよね?これは夢だよね?‥‥あれ、痛い」


ほっぺたをつねるニナに、私はさっきから持っていた疑問を尋ねてみました。


「使い魔にしては、先生たちが一生懸命探している気がするけど‥ここの先生たちはみんな、使い魔を大切にしてくれるんだね。あ、先生が協力しなくても私は最後まで探すけどね」

「一生懸命っていうもんじゃないよ!」


ニナは喚き散らすように叫びました。


「だって相手はあの魔王だよ?アリサちゃんは、魔王を下等な使い魔として召喚して、魔王を侮辱したんだよ!復讐としてこの都市全体を火の海にされても仕方ないんだよ!?」


そのあともニナは2段落目、3段落目とありったけの言葉を並べますが、どうにもしっくりきません。あのかわいいまおーちゃんが、そこまでするものでしょうか。


「‥‥‥‥ええー、そんなに騒ぐことなのかな?」


私が自分の眠そうな目をこすりながら言うと、ニナは私の肩を掴んで揺すります。


「ねえ、もっと危機感持とうよ!あの魔王が‥‥」

「もし、君がアリサさんか」


急に知らない男の声がしたので振り向くと、5人くらいの武装した兵士がそこにいました。剣や盾を持っていて、ものものしい雰囲気です。


「はい、私がアリサですけど」

「魔王の服装は?」

「うーん、パジャマに着替えたりはしないで、昼のマントや服のまま寝ていたような?それと、あなたたちはどなたですか?」

「我々はエスティク市の兵士だよ。今、エスティク市の数万人の兵士たちが全員緊急で呼び出されて、こうして市全体を探している。他に魔王の手がかりがあれば教えて欲しい」

「ええっ、人の使い魔のためにそこまでしてくれるんですか、嬉しいけど‥‥」


ちょっとやりすぎじゃないでしょうか?少しひいてしまったかもしれません。


「あのね‥‥」


私の言葉を聞いたニナが頭を抱えて、ため息をつきました。


「アリサちゃんって確か、魔族の授業の時、寝てたよね?」

「うん、外交とか政治とか、魔法に全然関係ないからどーでもいいと思ったし」

「どうでもよくない!魔王!魔族の中で一番偉い魔族!人間の敵!」


ニナは腕を振りながら、ヒートアップした様子で私に迫ります。


「それに、魔王ヴァルギスは、魔族の中でも、大規模な戦略魔法が使えるの。こんな町の1つか2つ、すぐにぷちって潰せるんだよ?町にいた人たちは全員死んじゃうんだよ?私たちは今、点火した爆弾の中にいるようなものなの。わかる?」

「えーっ‥まおーちゃんは、悪い人じゃないよ?」

「アリサちゃん、歴史の授業って私と別の教室だったと思うけど、もしかして寝てた?」

「ええっ、どうしてそれを‥昔の魔法の話は面白かったけどね。てへぺろ」

「あのね‥‥」


ニナはよつんばいになって、地面に手を付けて、何度もため息をついていました。


「あのね、人間と魔族の間では何度も戦争が起きていて、300年前に人類と魔族が初めて平和条約を結んだの‥‥それでね」


平和条約を結んだ当初は平和な日が続き、人間と魔族の交流もある程度あったそうですが、10年前に突然、魔族が国境近くの人間の都市へ攻め、廃墟にしてしまったのです。それに激怒したウィスタリア王国‥私たちの今いる国の名前ですね‥その国王が、魔族のいる国へ大軍を差し向けて、都市を奪還しました。そのあとは、国境周辺で紛争が続き、多くの兵士や冒険者が命を落としているそうなのです。

それだけならまだしも、ウィスタリア王国の都市の1つが反乱を起こして鎮圧されたのですが、その反乱の首謀者が魔族に洗脳されたと証言したため、国民の間で反魔族感情が広まっているのです。国王は魔族と手を切る宣言をして徹底抗戦するとともに、魔王を指名手配して死刑に処すると言っているのです。


「こんなことがあってね‥ちゃんと聞いてた?」

「きゃー!ニナちゃんの言う事なら聞くよ〜!」


私はニナのほっぺたを両手のひらで挟んでぷにぷにします。


「ふにゅ、こひゃんなこひょ、ひてるわへじゃ、なくて‥‥なくて!平和条約を一方的に破棄して、たくさんの人を殺した魔王は本当に悪い人なの。その魔王をアリサちゃんは怒らせたの。仕返しに、この都市全部を廃墟にされても仕方ないの!!‥‥わかった?」

「わ、わかった、かも」


ニナの気迫に圧されて、私も思わずうなずきます。


「とにかく、まおーちゃんを見つけないと、私たちが危ないってことだね」

「わかった?やっとわかった!」

「じゃあ、まおーちゃんにお願いして、この都市の攻撃をやめてもらう!」

「う、うん‥お願いした程度でやめてもらえるかはわからないけど、アリサちゃんならできるんじゃないかな?」

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