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第79話 魔王の姪と戦いました

15時。ナトリの仕事が終わり、私たちも言語学校から帰ってくる、約束の時間です。闘技場に集まりました。魔王城の中では比較的新しい建造物のようで、大きな楕円形の広大な闘技場で、立派な観客席もあります。一般市民でも魔王城の城門をくくらず直接入れるような設計になっているとのことで、外側には観客用の大きな受付やロビーも置いてありました。


「あれ、まおーちゃんも見に来るの?」


闘技場のステージ端にある入り口近くに集合した私は、まおーちゃんの存在に気付きます。

ちなみにラジカ、メイは観客席に座っています。観客席には強力なバリアが張られていて、どんな攻撃でも防ぐらしいです。


「うむ、我が姪だからな。姉としてしっかり見なければならん」


まおーちゃんはそう言いながら、ハギスの頭に握りこぶしをねじり込んでいます。


「姉さん、痛いなの‥確かに初対面の人に喧嘩を売ったのはハギスが悪いなの‥」

「その喧嘩をナトリが買ったのだ、問題ないだろう?」


ナトリが腕を組んで、堂々と答えます。ちなみに今は魔王城の中の飼育スペーズに預けていた使い魔のドラゴンも一緒で、3歳児くらいのサイズのそれは、ナトリの横に並んで腕を組んでいます。使い魔は戦いには参加しませんが、ナトリが自分の生き様を見せたいとかいう理由で連れてきたのです。すごい理由ですね。


「ウチは絶対ナトリに勝つなの。アリサはその次に倒すから首を洗って待っていやがれなの」


ハギスはステージの真ん中に移動してナトリと対峙すると、堂々と宣言します。


「ねー、ちなみにハギスちゃんって強いの?」


入り口近くの壁にもたれた私が、隣のまおーちゃんに尋ねます。


「いや‥妾も強さをちゃんと見たことはないのだが、ハギスにはこの王族の血が流れている。ナトリよりは強いだろう」


まおーちゃんのその言葉通り、ハギスは少しずつナトリを圧倒していきます。

ナトリが呪文を早口で詠唱する隙をついて、何度も魔法陣の結界を破って殴ったり蹴ったり、しまいには魔法をあてたりしています。ナトリも懸命に応戦しますが、魔力の差は歴然で結界も効かず、ついにうなだれてしまいます。


「‥‥ナトリの負けなのだ‥‥」

「やったなの!ウチの勝ちなの!次はアリサが勝負しやがれなの!」


そうやってハギスがぴょんぴょん跳ねるので、私は「はーい」とふわーっと浮いてステージに入って、ハギスの前まで移動します。


「ナトリちゃん大丈夫?自分で戻れる?」

「戻れるのだ‥そいつは強いから気をつけるのだ」

「わかりましたー!」


なおも気楽にぼうっと浮いている私が気に食わないのでしょうか、ハギスは私を指差して叫びます。


「姉さんはウチだけのものなの。お前なんかに渡さないなの。ウチがこの勝負に勝ったら、二度と姉さんに手を出さないと誓えなの」

「えっ!?そ、それじゃあ、私本気で戦うしかないかな‥?」

「ウチのこの攻撃を防ぎやがれなの」


その言葉とともに、ハギスは無詠唱で先制攻撃を仕掛けます。大きなビームは闘技場全体を地震のように揺らしますが、私はまた無詠唱で結界を作って防ぎます。


「‥お前、強いなの。でもお前はこのウチが確実に倒すなの」


そうやってハギスは私への攻撃を再開しますが‥‥2〜30分後。


「な、なぜなの!?う、ウチの攻撃が全く通らないなの‥‥」


尻餅をついてしまったハギスが息切れしながら、戦闘中一度も動かず結界ばかりを張っていた私を睨みます。私が攻撃しても良かったのですが、幼い子があまりにも一生懸命にやってくるものですから、つい手を抜いてしまった‥‥かもしれません。


「もういいだろう、ハギス」


横からまおーちゃんが割って入ります。


「こやつはハギスより強い。諦めろ」

「ま‥まだ勝負はついてないなの。ハギスが倒れてないなの!」


なおも食い下がるようです。


「諦めろ。それ以上言うなら明日はおやつぬきだ」

「う、ううっ‥‥わ、わかったなの‥‥」


ハギスに姉は厳しい口調で言った後、私を振り向きます。


「どうだ貴様、この戦いは役不足だっただろう?」

「んー‥平和だったらいいかな‥‥あ、そうだ、まおーちゃん!」


私はポケットから1つの小さく安っぽい白い紙の箱を取り出します。


「今日市場で買ってきたんだけど、似合うかな?」


箱を開けて2つのブレスレットのうち1つを取り出して、まおーちゃんに差し出します。


「‥市場の安物か。だが見た目は悪くない」


そう言って、ブレスレットを手に取るまおーちゃん。


「えへ、私もおそろいの買ってきたの!2人で一緒につけようね!」

「うっ‥」


私がおそろいと言ったところで、まおーちゃんがぴくっと反応します。少し間を置いて、まおーちゃんはそのブレスレットを私に突き返します。なぜか私から顔を背けています。


「‥‥これは受け取れない。わ、妾は別に貴様をそんな風には思ってない‥‥」

「えー、さっきは受け取ろうとしてたでしょー!」

「むぅ‥‥妾は友を‥いや、家臣を大切にしないとと思ったのだ。だが貴様に他意があるなら、妾は断るぞ」

「‥‥ねえ、まおーちゃん、もしかして恥ずかしいの?」


まおーちゃんは図星だったみたいで、私から一歩二歩距離をとります。


「‥恥ずかしいということはない」


そう言うまおーちゃんの心臓は高鳴りしていました。

全身の体温が少しずつ上っていきます。頭が今にも爆発しそうです。その表情を、そっぽを向いて必死に隠して、まおーちゃんは言います。


「‥‥こ、これは、持っておこう。も、持っておくだけだ、つけるとは言っておらぬ」


そして首だけでなく体の方も、しっかり私に背を向けます。

しばらく私とまおーちゃんの間に、微妙な空気が流れます。


「わ、私はこのブレスレット、つ、つけているからね‥」

「あ、ああ。貴様は別に構わぬ‥‥妾はあくまで貴様のことを友と思っておる、か、勘違いするな‥‥そ、そうだ」


まおーちゃんが焦るように、話題をそらしにきます。


「そうだ‥こんな話の後でなんだが、この国では1季に1度、決闘大会というものをしておる」

「決闘大会?」

「まあ、魔法や剣でバトルをしようという催しだ。‥‥貴様は参加しろ」


まおーちゃんは少し落ち着いたのか、後ろにいる私を少しだけ振り向いて、鋭い眼差しを送りつけます。


「え、えっ、私が?」

「そうだ。貴様の参加は決定事項だ。日々欠かさず鍛錬しろ」

「ええーっ、いきなり言われても、私、戦うのそんなに好きじゃないな―‥‥」

「妾も手が空いたら鍛錬に付き合ってやろう」

「わあい、私、戦うの大好き!」

「貴様‥分かりやすいな。それと抱きつくな」


ぴょんぴょん後ろから抱きついてきた私を電撃ではらって、まおーちゃんははあっとため息をついてから、振り向きます。


「大会について詳しくはナトリから聞け。妾はこのあと用事があるのでな」


そう言って、まおーちゃんは先に闘技場の出口へ向かいます。「姉さん待ってなの」と、ハギスもその後を追います。


◆ ◆ ◆


用事があるというのは真っ赤なウソで、まおーちゃんは1人、部屋に閉じこもっていました。

ため息をついて、机の椅子に座ります。机の上には、あの銀色のブレスレットがあります。

まおーちゃんはそれを眺めるたびに、頬を赤らめて天井を仰ぎます。


(‥‥頓珍漢とんちんかんなアプローチをしてくる奴が、こんなまともな路線で攻めてくるとは思わんかった‥‥)


いつも事あるごとにまおーちゃんに抱きついたり、無茶を簡単に言ってきたりするので、まおーちゃんはいつも私を適当にあしらってきました。しかし今回はまおーちゃんのために市場へ行ってブレスレットをプレゼントしてくれて、堅実に、おそろいのをつけようと言ってきたのです。今までと違った方向性のアプローチをいきなりされて、戸惑ってしまったのです。

まおーちゃんの心臓の高鳴りが止まりません。


(なぜだ‥妾はあやつのこと、別に何とも思っていない‥しかし‥この胸の高鳴りは何だ?違う、妾はあやつのことなんか‥‥)


まおーちゃんは今までに彼氏というものを作ったことがありません。男と話すことはありますが、相手はみな家臣か目下の人物で、職務として関わってきただけです。恋に関してはほとんど経験がないのです。

まおーちゃんは何度も首を横に振って自分を否定し、ブレスレットを鷲掴みにして、机のすぐ横にあるゴミ箱に投げつけます。‥が、ゴミ箱から少しそれて、床に落ちてしまいます。

まおーちゃんは面倒だと思いつつも椅子から立ち上がってそれを拾うと、ゴミ箱の中を覗きます。いらなくなった書類を丸めたものや、食べ終わったケーキのフィルムや下紙などがいくつか入っています。まおーちゃんはそれを見て何かを思ったのか、ブレスレットをまた机の上に置きます。

どさっと、わざと音を立てるように勢いよく椅子に座って、はあっとぼやきます。


「‥‥妾が何を考えているか分からぬ」

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