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第76話 魔王と食事しました

その日の夜。私たちは使用人に案内されて、ある部屋に通されます。その部屋には細長いテーブルがあって、白いシートがしかれていて、誕生日席にまおーちゃんが座っています。


「わーい、まおーちゃん久しぶりー!」


私はそう言って、とりあえずまおーちゃんに抱きつきます。ばちっと全身に電流が流されたので離れます。ううっ、ひどいよ。


「こら、とりあえず抱くのはやめんか!それとたった数時間前に会ったばかりではないか」

「だってー、今までずっとまおーちゃんがいなくて寂しかったもん!私は会えて幸せだよー?」

「はぁ‥」


まおーちゃんは呆れたようにため息をつきます。私の隣に座ったメイが、隣のラジカに「ちょっと、アリサ魔王に対して馴れ馴れしすぎない?」と聞いています。ラジカは「いつものことだから」とだけ返していました。


「ナトリは明日から王城務めなのだ。大抜擢なのだ」


ナトリはまだ嬉しそうに、腕を組みながらえっへんと鼻を鳴らしています。

使用人たちが、食べ物を載せたワゴンを次々と運んできます。ほどなくして、テーブルの上が、食べ物でいっぱいになります。


「わああ!!」


思わず声が漏れます。高級な食材を使ったであろう焼き肉、玉子焼き、見た目は立派で高級感あるけど何の食べ物なのかよくわからないものまで。


「この城のシェフが腕をふるって作った料理だ。食え」


そう言ってまおーちゃんは、先に食べ始めます。私は料理を一口食べて、「う、うまい!」と声を出してしまいます。


「ほう、バリガエの肝焼きか。人間の国ではお目にかかれない料理なのだ」


ナトリは料理を1つ1つ吟味しながら食べます。ラジカも食べ始めるので、メイも仕方なさそうに食べます。


「どうだ、おいしいだろう」

「うん、とってもおいしいよ、まおーちゃん!ずっと一緒に食べられたら幸せ‥‥きゃっ!?」

「だからいちいち抱きつくな!‥‥それで貴様に聞きたいのだが」


まおーちゃんが少しすねたような、恥ずかしがっているような声を出します。


「その、あれだ、貴様は普段、友とどういうふうに過ごしているか教えて欲しい」

「えーっ?こーやって一緒にご飯食べたり、買い物行ったり、いっぱいおしゃべりしたりしてるよ?」

「‥そうか。何をして遊んでいるのか詳しく聞きたい」

「んとー、それはねー」


私とまおーちゃんは食べながらいっぱい話しました。

ニナと一緒に王都カ・バサへ旅行へ行ったときのこと。1年生の時にナトリと何度も魔法対決して騒ぎを起こしたこと。学校の授業で一緒の班になったときのこと。一緒にご飯を作ったときのこと。


「ふー‥面白い生活ができていいのう」


たくさん話した後で、まおーちゃんは背もたれに背中を預けます。


「そういえば、なぜ魔王はナトリたちを食事に呼んだのだ?王との食事に家族以外が同席するのは本来とても名誉あることなのだが‥?」


ナトリが聞くと、まおーちゃんはふふっと笑ってから、視線を落とします。


「‥童は貴様らともっと仲良くなりたいのだ。特に‥‥そこの貴様」

「えっ、私?」


まおーちゃんは私を向きます。


「‥‥わけあって、一国の王として貴様ともう少し仲良くしたいのだ。明日も、あさっても、そのあとも妾の食事に同席してくれ」

「私たち恋人同士だから当たり前だよー!」


私は即答して、うつむき出したまおーちゃんに抱きつきます。


「こら、恋人とは言っておらぬ、離れろ!」

「えー!ぷー!」


ぷんぷんしているところへ、ナトリがフォークを皿に置いて、気づいたように言います。


「魔王の言うことも然りだ。魔族は長寿で、人間は短命だ。ナトリたちは魔王の寿命を考えるとわりとすぐに死ぬ。そう考えると、人間と魔族が付き合うのは些か不便だと思う」

「そういうことだ、妾と付き合うのは諦めろ。それに、貴様が死ぬ頃にはもう妾の子で食事の席も埋まるだろう」

「えー、まおーちゃん女同士で子供はできないよー?」


私が横からすねますが、まおーちゃんは冷静に右から左へ受け流します。


「だから妾は最初から女に興味はないと言っておる」

「えー!私と結婚してよー!私、まおーちゃんのこと大好き!」

「だからいちいち抱きつくな、気色悪い!」

「ううう、ひどい‥」


私は離れます。


「‥でも、これから毎日、一緒に食事してもいいんだね!まおーちゃん!」

「うむ、友としてだがな」


まおーちゃんは食事を食べ終わり、フォークを置き、ナプキンで口を拭きます。このあたりの作法は高貴なお嬢様っぽくて、とても上品です。


「‥‥人間と魔族が結婚する時、結局寿命の問題はどーするんだろう、諦めるしかないのかな」


私がふと思いついたように言うと、まおーちゃんは答えます。


「‥‥‥‥方法はあるが、貴様が悪用する可能性があるので黙っておこう」

「そんなー、まおーちゃんひどいよー!教えて教えてー!」

「だから言えん!」


そうやってしばらくの間、まおーちゃんとやり取りしていました。


◆ ◆ ◆


今日のまおーちゃんは、なんとなく様子がおかしいように思いました。

食事が終わった後も、「これから寝るのか?」と言って、私たちの後ろについてきています。


「まおーちゃんも私たちと一緒に寝るの?ていうか私と同じベッドで寝るの!?」


私は期待に胸を弾ませますが、まおーちゃんはスルーして先に進んでしまいます。


「スルーはひどいよー!突っ込まれるよりつらいよー!」


私もその後を追いかけて、私たちの泊まる部屋の前まで来ました。ナトリが尋ねます。


「魔王もこの部屋に用か?」

「‥いや、妾が用があるのは、こやつらだ。大切な話だ」


そう言って、まおーちゃんは私とメイを指差します。メイが「ひっ」と私の腕に抱きつきます。

他の2人はそれを聞くと、部屋の中に入ってしまいます。


「‥えっ?もしかして私に愛の告白!?」


私が胸をどきめかせて聞きますが、メイが突っ込みます。


「あたしがいるから、そんなわけないでしょ!」

「じゃあ‥もしかして姉妹丼かな!?」

「バカじゃないの?あたしはレズに興味ないし魔王怖いから無理よ!」


そうやってやりあう私とメイの様子を、まおーちゃんは寂しそうな目つきで見ています。


「‥うん?」


まおーちゃんの様子に、私もメイも気付きます。うつむき気味で、肩を震わせていて、言いたいことを言えずにつらい思いをしている感じがします。


「まおーちゃん、どーしたの?」


私が尋ねます。メイは、不穏な様子のまおーちゃんが怖いらしくて私の後ろに隠れます。

まおーちゃんはちょっと迷った後に、重々しく口を開けます。


「‥これは、手下を通して伝えるのではなく、妾の口から直接言いたかったことだが‥‥」


しばらくの間があってまおーちゃんはやっと決心できたようで、うつむいていた顔をあげます。


「貴様らの両親が、殺された」

「えっ‥?」


メイが、私の頬から手を離します。


「ウィスタリア王国に放った斥候から報告があった。貴様らの母と父が、王都で車裂きの刑にあって殺された。上半身と下半身はそれぞれ別の馬に引かれ、王都中を引き回された」

「‥‥分かっていたけど、本当にされるとつらいわ」


メイが私の腕をぎゅっと掴みます。

しかし私は茫然自失して、そのあとの会話が耳に入ってきません。


「‥貴様」


まおーちゃんが私の手にそっと触れます。


「わたしの‥お母様とお父様が‥‥」


私とメイが逃走した結果です。

両親の死を承知した上で、覚悟していたはずなのに。

分かっていた上で逃げていたはずなのに。

分かってはいたけど、心のどこかで両親のことを考えないようにしていたのかもしれません。

私が逃走中にずっと恐れていた、悲しい現実。


気がつくと、私はまおーちゃんを抱いて、何回も何回も叫んでいました。

全身の水分が涙に変換されます。

数え切れないほどの悲鳴をあげて、止まらない涙を流して、私は泣き崩れて、まおーちゃんの胸に何度も頭をぶつけていました。

まおーちゃんは、特に何も言わずに私の頭をなで続けます。


メイは先に落ち着いたのか、部屋に入ります。

私とまおーちゃんは、部屋のドアの前の廊下で、夜が更けるまで2人きりでいました。

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