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第75話 魔王城に到着しました

魔族たちの国・ハールメント王国の王都ウェンギスは、王国の創始者の名前からつけられました。王城のほかに、ウェンギスの広大な都市全体を長い壁が取り囲んでいますが、これは今のまおーちゃんの前の魔王だったルフギスの代、人間が復讐のために遠征軍を編成することをおそれた魔族たちが建てたと言われています。今はウェンギスの出入りの時の検問所として用いられています。

ウィスタリア王国の王都カ・バサと比べると派手な建物はあまりないものの、市場もどの店も人々で賑わっています。誰もが笑顔を絶やさず、生き生きとしています。まおーちゃんの目指している平和を象徴するかのようです。

魔族の間でドクロや青い炎が流行っているのでしょうか、寒色やモノトーンをベースにした建物が多く、王都全体の色を染め上げています。

人混みの中を馬車で乗り付けるわけにもいきませんので、私とまおーちゃん一行は徒歩で、護衛や家臣に囲まれながら、魔王城に向かっています。ちなみに私1人はふわふわ浮きながら進んでいます。


「ひぃぃ、どこを見ても魔族だらけよ‥‥」


幽霊でも見るかのように顔を真っ青にしてラジカにしかみついて歩いているのは、私の姉・メイです。

人々の中には、ツノも尻尾も生えていない人――私たちと同じ人間もいます。私たちと同じように、ウィスタリア王国から亡命した人が多くいるそうです。


「そういえば、貴様の同行者の扱いを決めてなかったのう」


私の横を歩いているまおーちゃんは、後ろを振り向きます。


「ナトリよ、貴様も妾の家臣になってくれるか?」

「!?」


私と比べると誘い方が軽い気がしますが、それだけまおーちゃんは私のことを特別に思ってくれているということでしょうか。そう思うとどきどきしてしまいます。


「分かったのだ。テスペルクと貢献度で勝負するのだ」

「そこは勝負しなくてよい‥‥まあいいや、貴様では敵わないだろう。次にラジカとメイは洗脳もされていたから、念のためしばらく休むが良い」

「分かった」


抱きついてくるメイの頭をなでながら、ラジカは答えます。

まおーちゃんは再び前を向きます。


「‥‥ねえ、ねえ」


私は、そんなまおーちゃんの肩を指でつんつんします。


「‥どうした?」

「ねえ、その、なんていうかな、はは‥私のことも、名前で呼んでっ」

「は?‥‥」


もしもししながらお願いする私に、まおーちゃんは沈黙します。


「‥‥何言ってるんだ貴様、呼び方などどうでもよかろう」

「えーっ、一言アリサって呼んでくれるだけでいいからっ!」

「妾は貴様と結婚しとうない。潔く諦めろ!」


そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまいます。ううっ、ひどいよ。おととい釣りをしていた時には呼んでくれたのに。


「‥‥そうだ、貴様」


まおーちゃんが思い出したように言います。


「貴様、魔族の言葉は話せるか?」

「えっ、私全然わかんないや」


わかんないです。本気の本気でちんぷんかんぷんです。


「だろうな‥‥ナトリは大丈夫だろうから明日から大広間に来て働け。貴様は亡命してきた人間向けに魔族語を教える学校があるから、しばらくそこへ通え」

「え、えええっ、じゃあしばらくまおーちゃんと会えなくなるってこと?」

「まあ、貴様らには城の部屋を用意するから、朝晩は会えるかもな」

「うーっ、一日中ずっと一緒のほうがいいよー!ぷーぷー!」

「贅沢言うな。魔族語知らずして妾の片腕を名乗るな。早く魔族語を習得して来い」

「うーっ‥‥」


学校の授業をきちんと聞いてなかったことを初めて後悔したかもしれません。


「あー‥アタシも魔族語不安だからアリサ様と一緒に通いたい」


ラジカが手を挙げて言います。


「あ、あたしも、アリサとラジカが行くなら一緒に行くわ‥‥2人ともあたしのこと守ってよね?」

「うむ、よかろう」


私とラジカとメイは明日から亡命した人間向けの言語学校に通うことになりました。

ナトリは大広間で1日中まおーちゃんと一緒に過ごせるらしいです。いいなー。いいなー。いいなー。ぷーぷー。


「努力は必ず報われるのだ、えへん」


ナトリが腕を組んで、ふんと鼻を鳴らします。うーっ。


◆ ◆ ◆


私たちは、魔王城の2階の廊下の突き当たりにある大部屋を借りることになりました。もとは小さめのダンスホールだったらしいのですが、4人で生活するには十分すぎるくらい広いです。テーブルや本棚、ティーカップのしまってある戸棚、鏡などのほか、ベッドも4人分置いてあります。


「わーい、ありがとー!まおーちゃん!」

「抱きつくな!」


まおーちゃんは私を手で払って、「それでは妾は仕事があるので失礼する」と去ってしまいます。


「ああ、私とまおーちゃんの至福タイム終了‥‥」


ふわふわ浮きながら頭をかくんと下げて落ち込む私の尻をひざで蹴って、メイは呆れたように言います。


「一国の王でしょ?今まで相手してくれただけ感謝しなさいよ。それにしても城は禍々しい雰囲気だったけど、部屋はウィスタリア王国のものとあまり変わらないわね」

「そういう配慮をしてくれたのではないか?一般的な魔族の家には、ドクロや狼の死骸などが飾り付けられていると聞いた」


ナトリがそう推理して、本棚から適当に本をとって読み始めます。魔族語で書かれているので私には読めないでしょう。


「ところで」


ふかふかのベッドに座ったラジカが、私に声をかけます。


「アリサ様は本気でウィスタリア王国を滅ぼすの?」

「えっ?」


反応したのはメイのほうです。


「いや、神託を真に受けることないじゃん、ね、アリサ?」

「いや、アリサ様は魔王に、ウィスタリア王国を滅ぼすとはっきり誓った。カメレオンを通して聞いた」

「え‥えええええええええええ!?どういうことなの、アリサ!!」


ラジカもカメレオンを通して、狩猟しながら私とまおーちゃんの話を聞いていたらしいです。それでメイが慌てるので、私は素直に答えます。


「はい、お姉様。私はまおーちゃんに、あの国を滅ぼすと約束しました」

「な、何てことしてくれるの!?あたしもあの国は嫌いだけど、そこまでしなくていいじゃん!?そんなことしたら、あたしの友達はどうなるの?みんなみんな死んでいくわよ!」

「お姉様。あの国が存在するほうが、よっぽと有害です。私にもまおーちゃんにも守りたいものがあるんです。だから滅ぼします」

「うう、ううっ‥それが魔王の意思なら仕方ないわ、あたしは関わりたくないしね」


メイは投げやりになって椅子に座ります。


「それにしても、アリサ様がウィスタリア王国について真面目に語るとは思わなかった」


ラジカがぽすんと、ベッドに横になります。


「だよね。アリサが政治の話をしているところなんて、想像できないもん」


メイも同調して、取ってきたコーヒーカップにコーヒーを注ぎます。


「えへへ、私も政治には興味ありません。‥‥だけど、困っている人がいて助けてあげられないのは、もっと嫌だなって思いました。あの人たちを救えるのが自分しかいないって言われて、ちょっと考えていたんです」


私は天井近くまで浮いて、明かりや天井の模様を間近で眺めてみます。

メイはコーヒーカップに砂糖を入れながら質問します。


「‥‥でも、ウィスタリア王国にはハラスがいるでしょ?ハラスが何とか立て直してくれるんじゃないの?」

「ハラスがいるのにあんな状態になっているので、もうハラス1人ではどうにもできない問題だと思います。あの国を救えるのは私しかいないと言われたら、自然とそう考えちゃいます‥‥あの国はもう末期です」

「‥‥‥‥」

「それでもハラスならなんとかできると考えている人たちとは、私、戦います。一日でも早くあの国の人達を幸せにしてあげたいから。犠牲者をこれ以上増やしたくないから。私も戦争は嫌いだけど、話し合ってダメだった相手とは戦います」

「もういいわ、アリサ、それ以上言わなくても」


メイはこくんとコーヒーを飲みます。

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