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第74話 魔王と再会しました(2)

「みんなの笑顔を取り戻す、か‥‥」


まおーちゃんは腕を組んで、目を閉じます。


「ちょっと話が難しかったかな?」

「妾を誰だと思っておる」


まおーちゃんはそう言って、私の座っている岩のすぐ横に立ちます。


「‥‥貴様と話して、妾の心のつかえもとれた」

「えっ?」

「妾はあの国に私怨を持っている。だが、私怨だけでは片付けられない、あの国を何とかしたいというもやもやとした気持ちがあった。今、その正体に気づいた。あの国は貴様の言う通り、人権を蹂躙し、罪のない市民を次々と不幸にしている。この惨状を、同じ人類として見過ごすことはできない」

「じゃあ‥まおーちゃん」

「うむ」


そう言うとまおーちゃんは、体を私に向けます。


「うん?」


私はまおーちゃんの所作が気になったので、ふと、視線を横にずらします。

まおーちゃんは片方の膝を地面につけて、片手を胸に当てます。まおーちゃんが、私に対してひざまずいているのです。


「え、えっ?」


私は貴族の子供です。誰かにひざまずく経験はあっても、自分がひざまずかれたことはありません。私が慌てて釣り竿をまた宙に浮かして岩から降りるのと同時に、まおーちゃんは頭を下げて言います。


「改めて名乗ろう。妾はこのハールメント連邦王国の国王、ヴァルギス・ハールメントだ。アリサ・ハン・テスペルクよ、妾とともに王城へ帰り、これからもいろいろ教えていただきたい」

「そ、そ、そんな、顔を上げてください、えっと、こういうとき何て言えばいいのかな、魔王様」


まおーちゃんは顔を上げます。その目には、真摯な気持ちがこもっています。

「そんなに堅苦しくしなくてもいいよ」と私は言いかけましたが、まおーちゃんの顔を見て私は躊躇します。まおーちゃんはこの世界を本気で変えたい、そのためには私の力が必要だ、なんとしても私を家臣に加えたい。一国の主として、必ず私を迎え入れたい。そういう気迫が全て伝わってきます。

同時にそれは、私がハールメント王国に忠誠を尽くし、ウィスタリア王国を滅ぼすために力を尽くさなければいけないことを意味します。私の大好きなまおーちゃんがいる限り忠誠は当然あるのですが‥‥現在のウィスタリア王国は暴政がしかれているとはいえ、まだ国の形を保っています。しかも人間最大の国で、クロウ国やその周囲の国を併呑したことにより、超大国になっています。果たしてそんな国を滅ぼすような大事業、私にできるのでしょうか。

まおーちゃんは、私が迷っていると見たのでしょうか、片手を私に差し出します。これを握れという意味です。


「‥妾は万民を救い、誰もが幸せになれる国を造りたい。ウィスタリア王国を滅ぼすために、あなたの力を借りたい。アリサ・ハン・テスペルクよ、あなたの気持ちを問いたい」


まおーちゃんは完全に覚悟しています。あれだけの大国を滅ぼすという困難なことも、私とまおーちゃんが手を組めばできると確信している様子です。

私は口を結んで、まおーちゃんの差し出した手を握り返します。


「わかりました。私は魔王様の片腕となり、ウィスタリア王国を滅ぼし、万民が幸せになれる土地にすることを誓います」

「‥ありがとう」


まおーちゃんは感謝と感情のこもった声で言って、立ち上がります。


「‥妾の部下がいる。紹介しよう。出てこい」


まおーちゃんが呼びかけると、森の中から2人の家臣と何人もの従者たちがそろそろと出てきます。


「こちらは妾の重臣、ケルベロスだ。本来の姿もあるが、今は人の姿をしておる。そしてこちらはマシュー・レ・ハギジュだ。もとはウィスタリア王国の将軍だったが、今は我が国で大将軍を務めておる」

「私はアリサ・ハン・テスペルクでございます。ウィスタリア王国から亡命してまいりました。よろしくお願いいたします」


私は2人に礼儀正しく頭を下げます。次はまおーちゃんが、2人の家臣に私を紹介します。


「‥この人は、何日か前に話したあのアリサ・ハン・テスペルクだ。妾を使い魔として召喚した本人である」

「ええっ!?」


ケルベロスの驚き声が漏れます。


「話を聞いた時はもっと貫禄のある魔法使いかと思っていたが、まさかこんな年端も行かない少女とは‥‥」

「そうだ。末恐ろしいだろう」


2人の家臣は最初は得体のしれない釣り人を重臣にするのは反対でしたが、その本人、私に出会った今では、納得してしまい、反対する気も起きませんでした。ただ、ケルベロスはまだ少し不服そうに、私の顔をましましと眺めます。

その時、後ろから声がします。


「アリサ‥その魔族たち、誰?」


向こうにいるメイが、ラジカに抱きついて震えています。


「あー‥あの人ね、魔王」

「ええっ!?ま、魔王!?」


ラジカが私とまおーちゃんのほうへ向かって歩き出すので、メイも泣く泣くラジカの後ろに隠れながら歩いてきます。


「イノシシを2匹狩ったのだ!これでドラゴンの腹を満たせるのだ!」


イノシシをアイテムボックスに入れたのか手ぶらのナトリがドラゴンとともに、別方向から現れます。それぞれ、私のところへ集まってきます。


「誰かと思えばテスペルクの使い魔ではないか!さてはこのナトリと戦いに来たか!?」

「なぜそういう発想になる。それと‥貴様にお願いしたいのだが、妾が使い魔ということは言わないで欲しい。妾はこの国の王であり、名誉に傷がつくと困る」

「むむむ‥‥分かったのだ、魔王」


ナトリはあっさり呼び方を変えます。このへんは素直です。


「改めて貴様ら、久しぶりだな」


さっきとは打って変わって、まおーちゃんはもうリラックスした様子です。


「こ、こ、こいつが魔王?アリサが使い魔として召喚したっていう、あの‥‥」


メイがまおーちゃんを指差しながら震えています。


「む、貴様は初対面だな。妾から名乗ろう、ハールメント連邦王国の第7代国王、ヴァルギス・ハールメントだ。人間からは魔王と呼ばれておる」

「ひ、ひいいい、ほ、本物の魔王‥‥」


メイはついに耐えきれず、目をくるくるさせて倒れてしまいます。


「‥あっ、この人は私の3つ上のお姉様で、メイ・ルダ・テスペルクっていうよ」

「貴様の姉か」


私が代わりに紹介してあげます。気を失ったメイは、ラジカが「やれやれ」と言って抱きかかえます。

まおーちゃんはそのメイの様子を少し見ていましたが、一言。


「こやつ、洗脳されておるな」

「えっ?」


思わず私が返事します。


「ついてに言うとラジカ、貴様もだ。2人とも、魔族を恐れるよう洗脳されている」

「な、何でそんな洗脳を!?」

「デグルも言っていただろう、魔族の国に亡命しないようにするためだ。特にこのメイという子は重症だ、この国でまともに生きることはできないだろう。妾が解いてやる」


私がメイの前髪を上げると、まおーちゃんはおでこに手をかざします。手のあたりが一瞬光ります。


「むう‥高等で複雑な魔法がかかっておるな、シズカと相当話し込んだのだろう。だがもう大丈夫だ。ラジカの洗脳も解いてやろう」

「うん」


ラジカはあっさり自分の前髪をあげて、まおーちゃんに突き出します。


「貴様、平気な顔をしているが、内心では怖がっているだろう」

「‥‥うん」

「これからは我慢するな。何かあったら誰かに相談するのだ」


そう言って、ラジカのおでこに手をかざして魔法を解いてやります。解いてもらったラジカは、さっきより落ち着いている様子でした。無理やり感情を隠しているような感じはなく、素になっているように見えます。


「‥このメイというやつはかなり重症だったからな、目が覚めてもいきなり妾たちに慣れることはかなわないだろう。時間をかけてリハビリする必要がある」

「分かった。リハビリにはアタシも協力する」


そう言って、ラジカはメイをおんぶします。


「‥でも、アリサ様はすごいな」

「ん、どーしたのラジカちゃん?」

「釣りをしていたら魔王が釣れた」


ラジカはにっこり笑います。


「‥うん、そうだね。これからが大変だけど、思わぬ釣果だったよ」


私も肯定します。


私たちは村に戻って馬車に乗りました。席が足りないのでナトリは予備の馬に乗ります。乗馬も私と対決するために練習していたそうです。あれ、いつ対決したんだろう?


「ここから王都ウェンギスまで、馬車で1日半かかる」


まおーちゃんが説明すると、隣りに座っている私はまおーちゃんに抱きつきます。


「わーい、1日間ずっとまおーちゃんの隣にいれるんだね!」

「こら、抱きつくな!これ以上触るなら貴様はここから出て馬に乗れ!」

「えー、さっきは抱かせてくれたのにまおーちゃんのいじわるー!」


私はぷーぷー言います。そんな私とまおーちゃんを見て、向かいに座っているラジカはまたふふっと笑います。


「‥‥学校にいた頃と変わらないな」


メイはその隣で、ラジカにもたれるように眠っていました。

これにて第3章は終わりです。次話から第4章に入ります。日常中心の章です。

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