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第70話 自給自足はじめました

「あれだけ手厚く歓迎しておいてこの金額はないのだ。おそらく、手違いで少なく入れてしまったのだ」


ナトリがそう推理します。実際これが正解で、後で聞いた話なのですが、ハデゲ王国は後で手違いに気付いて急いで追手を出しましたが、私たちがすでに国境を越えた後だったので諦めて引き返していったそうです。


「どうする、いったんハデゲ王国に戻る?」


私が聞くと、地図を広げているラジカは首を振ります。


「特別な馬車で国境まで送ってもらった分、普通に歩くより余計にハデゲ王国の王城との距離があいてしまっている。王城まで歩いて戻るには3日はかかる。しかもこれは、お金を十分に持っていて労働に時間を割かなかった場合」

「ええっ、じゃあ3日よりももっとかかるって意味?」

「うん。ここは素直に、普通に行けば6日分かかるウェンギスを直接目指すのもいいのでは」


ラジカの提案に、私たちはお互いの顔を見合わせます。


「‥どっちみち働くしか選択肢がないな。どうせ働くなら、一度帰るよりまっすぐ行くほうが気分がいいのだ」

「そうだね、ナトリちゃん。他の2人は大丈夫‥?」


と言ってメイの様子を見ます。メイは体を震わせて、がたがたしています。あれだけハデゲ王国で歓迎してもらってなお、魔族に怯えている様子です。いやむしろ、実際に魔族と交流して、半獣の体を見て変なイメージを持ってしまったというほうが正しいでしょうか。ちょっと前は怖がりながらも働くと言ってくれましたし、その時よりひどくなっています。


「わ、わ、わかったわよ‥‥」


メイはそう言いますが、体は素直です。ラジカは表向きは怖がっていないものの、きっと内心では怖がっているでしょう。メイの様子を見ていると、なんとなくそう思えてくるのです。

私は魔族の言葉が話せませんし、ナトリ1人だけを働かせても収入があまり伸びず旅に余計に時間がかかるのも事実です。私は余計困ってしまいました。


「‥‥ねえ、働くのが嫌なら、自給自足で稼ぐって、どう?」


私が提案します。


「働いてお金を稼いだりしないで、自分で魚を取って、木の実を取って食べていく自給自足!それをしながらウェンギスを目指すの」

「そ、それって、もしかして野宿するってこと?」

「はい、お姉様」


メイは頭を抱えます。おそらく、魔族と一緒に働くか、野宿するかの究極の二択を迫られて追い詰められた顔をしています。周りを沈黙させるほどしばらく深く深く考えて、やっと返事します。


「わ、わかったわ‥‥魔族の奴隷にさせられるよりは、野宿のほうがましだわ‥‥そ、その代わり、アリサはあたしのこと、しっかり守ってよね!」


◆ ◆ ◆


翌日、自給自足に必要な釣り竿、カゴ、はさみなどを買って私のアイテムボックスに入れてから、ノーダンを出発します。ここも森の中の道です。

アイテムボックスは確か、エスティクの魔法学校でみんなと買い物した時以来ですね。


「アイテムボックスなんて高等な魔法使いにしか使えない魔法、初めて見たわ」


メイがまじまじと私を眺めます。


「ナトリも努力してアイテムボックスを習得したのだが、容量が小さいのだ。テスペルクには及ばないのだ。悔しいのだ」

「いや、アイテムボックスが使えるってだけで十分すごいから!」


メイはフォローしましたが、ナトリは清々しい顔をして上を仰ぎます。ナトリのアイテムボックスは、使い魔である子供のドラゴンが10匹くらい入れる広さだそうです。ちなみにそのドラゴンは「見えるところにいないとエサをあげるのを忘れるから」と言って、アイテムボックスから出してナトリの横を歩かせています。ドラゴンもこの数日間で少しだけ成長したようで、人間の3歳児くらいの大きさになっています。

しばらく歩いて、メイがはっと気付きます。


「‥もしかして、最初からあたしがアリサのアイテムボックスに入っていれば、体を操られる必要もなかったってこと‥?」

「‥はい、そーかもしれないです」

「もー!何でアイテムボックスが使えるって最初に言わないの!おかげであんな気持ち悪い魔法かけられたじゃない!アリサのバカ!アリサのバカー!!!」


メイが何度も私の腕や胸をぼこぼこ殴ってきます。


「そもそもアイテムボックスに人は入れるの?」

「ナトリのドラゴンも普通に入れたから大丈夫なのだ」


ラジカの疑問にナトリが答えます。


さて、そろそろお昼が近付いてきたので、食事を準備しなければいけません。メイとラジカは森の中へ木の実を集めに行きます。


「お、テスペルク、お前も狩りか?」

「うん、戦えるの私とナトリちゃんくらいかな?ラジカちゃんもだったと思うけど」

「おいテスペルク、イノシシの数で勝負だ!」

「んー、分かったよ―」


私は、ナトリとそのドラゴンと一緒に、森の奥へイノシシを探しに行きます。


しばらくして‥‥。森の中の開けたスペースに集合したメイ、ラジカは、私が集めたイノシシの山が木の高さまで達しているのを見て、引いてしまいます。ナトリも呆れ顔で、イノシシの山からできるだけ目をそらして、自分が狩ったイノシシ1匹を焼いてドラゴンに食べさせています。


「ナトリは途中からやばいと思って止めたんだがな‥‥」

「でも最初に煽ってたのはナトリでしょ。どうするの、これ。食べきれないわよ」


メイの言う通り、私1人で集めまくったイノシシは女の子4人で食べられる量ではありません。男でも無理です。少なくとも100人は必要でしょう。アイテムボックスに保管してもいいのですが絶対腐ります。ほとんどを捨てるしかないでしょう。


「‥そもそもこんなにイノシシを乱獲したら環境破壊になるんじゃないの?アリサは狩猟禁止!」

「えー!何でですか、お姉様!」


なぜか狩猟禁止になりました。とほほ。


次の日、私はメイと一緒に木の実を集めました。ラジカは私の代わりに、ナトリと一緒に狩りに行きました。

しばらくして、また指定の場所に集合したナトリ、ラジカは、私の集めた木の実や果物の積み上げられた山が大きな岩も匹敵するほどに大きくて、これも1日や2日で食べられるものではないと悟りました。


「魔法でこの周辺一帯の木の実を全部落として浮遊で集めたの!」


私が説明しますが、メイは私の頬をつねります。


「こんなに木の実を乱獲するのも環境破壊でしょ!動物の食べ物がなくなるでしょ!アリサは採集も禁止!」

「ふぇえ〜、にゃんでですか、おねえさま!」


木の実の採集も禁止になりました。とほほ。


そのまた次の日の午後、ウェンギスに向かって歩いていると、ある川に差し掛かりました。


「今日の晩ごはんは魚だね!」


私が張り切って橋から身を乗り出す脚を、メイは後ろから引っ張ります。


「アリサはとりあえずちょっと待ちなさい。まさか川の魚を全部とるわけじゃないでしょうね!?」

「えー、そのつもりですけど?」

「ダメよ!だ・め!また環境破壊する気?」

「お姉様、近いです!」


メイは怒り顔で私にくいっと迫ってから、離れて腕を組みます。


「‥‥まあ、アリサの仕事がなくなるのももったいないわね。その代わり、魔法で魚を捕まえるのは禁止!ちゃんと釣り竿を使いなさい!せっかく買ってきたんでしょ?」

「えーっ、釣りは暇なので嫌いです」

「‥‥何か言った?」


メイがぎろりと私を睨むので、私は冷や汗をかいて何度も首を振ります。結局私は、川の周りでもひときわ大きな岩に座って、釣り竿を持って魚を釣ることになりました。他の3人は、木の実の採集や狩りに出かけます。

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