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第69話 ハデゲ国王に歓迎されました

私たちは大広間に入って、ハデゲ国王に謁見します。ここは魔族の国なので、国王は下半身は人間の姿、上半身は獣、おそらく牛の姿をしています。それを見て不気味に思ったのか、メイがラジカに抱きつきます。さすがのラジカも、国王から視線をそらして辺りを見回しています。

ナトリが魔族の言葉で、王様に話します。


『ハデゲ国王、お呼びくださり感謝いたします。私はナトリ・ル・ランドルトという者です。アリサ・ハン・テスペルクはこの黒髪の少女ですが、魔族の言葉が話せないため僭越ながら私が通訳させていただきたく存じます』

「その必要はない。私は人間の言葉が分かる」


王様があっさり人間の言葉で返事したのでナトリはびっくりして一礼し、数歩下がります。私が一番前になります。


「は、はい。アリサ・ハン・テスペルクと申します。お招きにあずかり、参上いたしました。旅の途上であり、正装を用意できず申し訳ございません」


私は少し戸惑いましたが、うやうやしく一礼します。


「よく来てくれた。我々魔族は君を待っていた」

「えっ、私ですか‥?」

「ああ。かねてからウィスタリア王国での指名手配の話は聞いている。魔王様と同等の力をお持ちであるとうかがい、気になっていた」


ここにも指名手配の話が回っていたようです。


「今、我々魔族たちはウィスタリア王国から一方的に不可侵条約を破られ、困っている。このままでは人間たちに我々魔族の領土を好きなように削り取られてしまう」

「その話は存じております」

「‥‥ちなみに念のために聞いておくが、この紛争は魔族と人間のどちらが悪いと思うか?」

「人間です」


そうデグルから教わりました。学校では魔族が悪いと習いましたが、実際は逆です。人間が約束を破ったのです。


「‥‥うむ、自虐的な返事をさせて申し訳ない。我々の敵ではないか、一応知りたかったのだ」

「気持ちは理解できます。クァッチ3世の悪行については、私も聞き及んでいます。同じ人間として悔しく、申し訳ない気持ちです‥」


そう言って、私はうつむいてしまいます。王様が取り繕います。


「‥‥まあまあ、暗い話はここまでにして、パーティーの準備をしておいた。遠慮なく食ってくれ」


私たちは別の広間に通され、そこで料理を振る舞われました。魔族は魔族らしく、コカトリスの卵による玉子焼き、ドクツルタケを無害化させ炒めたもの、魚の魔物の卵など、そうそうたるものが並んでいました。初めて食べるものばかりでしたがどれもおいしく味わったり、王様のほかにお姫様、王子様まで紹介されて通訳ナトリを介して話したり、魔族に代々伝わる音楽を聞かせてもらったり、楽しいひと時を過ごしました。

暗くなると城の中で泊まってくれと言われたので、せっかくならと世話をしてもらい、豪華な客人用の部屋に通されます。


「すごかったね」


私が言うと、ナトリは腕を組んで眉をひそめます。


「テスペルク、少しは気をつけたほうがいいぞ」

「ん、どうかしたの?」

「あの王はテスペルクに媚びている感じがした。テスペルクはハールメント王国に向かって旅をしている。つまり、テスペルクを厚遇することは、ハールメント王国に対して恩を売るということ。お前は魔王と同等の力を持つ者として、早くも外交に利用されているのだ」

「ええっ、私ごときが外交に利用されるなんて‥‥」


ナトリはぽんと、私の肩を叩きます。


「自分を見くびるな。それだけお前は価値ある人間ということだ。まあ、このナトリには及ばないがな。ナトリは風呂に行ってくる」


そう言って部屋を出ていってしまうナトリの背中は、どこか淋しげに見えます。まるで、友達が遥か雲の上に行ってしまった時のライバルの心境というか‥‥。


「私も一緒に風呂入る〜!」


そう言って、私はナトリの肩に手を回します。


「‥おい、いきなり触るな、テスペルク」

「いいじゃないの、いいじゃないの」


にこ〜っとナトリに言います。それでナトリも折れたのか、「‥‥来い、テスペルク」と短く答えます。


◆ ◆ ◆


翌朝。


「それではお世話になりました」


城を出て出迎えてくれた王様達に挨拶をして、いっかくウサギのツノを生やした家来からお金入りの封筒をもらいました。ハールメント王国の王都ウェンギスまでの旅費です。

私は王様達に何度も感謝を述べて、馬車に乗ってその場を後にしました。王城から馬車でいくらかいけば、ハールメント王国との国境です。この馬車をひいているのは、普通の馬ではなくて馬の魔物です。とても力強く、通常の馬車では出せないスピードで走ってもらったので、速かったです。私も思わず「わー!すごーい!」なんて言ってしまいました。特別なお客様にしか使わない馬車だそうで、私のために準備してくれて頭が下がります。


私たちは国賓としてハールメント王国に行くわけではなく、馬車も王族の所持物なので、このままウェンギスまで乗せてもらうと国債外交上ややこしいことになるそうです。そのため、国境まで乗せてもらうことになっています。

馬車から下りて、私たちはハールメント王国入国の検問にかかります。といっても同じ魔族のハデゲ王国から入ったため審査はそこまで厳しくはなく、すぐ終わりました。


「さあ、行こう!」


私たちは検問所を後にして、ハールメント王国内に入ります。

森に囲まれた道です。私は、歩きながら少しずつ胸をときめかせていました。


この国にまおーちゃんがいるんだ。ずっとずっと会えなくて寂しかったけど、まおーちゃんにやっと会えるんだね。早く会いたい。

私の顔はいつの間にかにやけていました。


「アリサ、顔きもっ!」


横からメイがかけてきた言葉が刺さります。


「あ‥あの、私、この国に想い人がいまして、その‥1週間以上も会えなくて寂しくて、やっと会えると思うと嬉しくなっちゃって‥‥」


どきどきしながらメイに事情を説明しますが、メイの返事は冷たいもので、


「‥‥魔王のことでしょ?ラジカから聞いてるわよ、アリサ、魔王に求愛したんだって?女同士なのに?」

「‥あっ、そういえばお姉様や家族には伝えていませんでしたね、私、そ、その、レズなんです‥‥」

「きっも」

「ひどいですお姉様、私、まおーちゃんのことこんなに大好きで‥会えなくて寂しいなってずっと思ってて、やっと会えるのに‥‥」


私が泣きそうになって言いますが、メイは立ち止まって、私にさらに追い打ちをかけます。


「あのね、アリサ。真面目な話、魔王って、ひとつの国の王様でしょ、仮に女同士で結婚するとして後継ぎはどうするの?」

「そ、それは、ええと、なんとかなるかなって‥」

「よくないわよ。王室が後継ぎの問題で混乱して、それが政治に影響でもしたらどうするの?それこそ第二のウィスタリア王国よ!」

「ううっ‥‥」


泣きそうになっちゃいます。お姉様、ひどいです。


「まあまあ、メイ。正論はそこまでにして」


ラジカがメイをたしなめます。


「‥‥まあいいわ、今はとにかく住居と仕事を提供してもらえればそれで十分だし、早くウェンギスに向かうわよ」


メイも切り替えていきます。

その日の夜、私たちはノーダンという町に着きました。しかし、ここで問題が起きました。ハデゲ国の家臣からもらったお金が4万ベルしかなかったのです(ベルは魔族の国の共通通貨)。


「こ、これじゃ今夜の一泊しかできないじゃない!」


一度借りてしまった宿屋の部屋で、メイが絶望に震えます。お金がないと旅もできず、目的地のウェンギスまで行けません。私たちは「うーんうーん」と頭を抱えます。

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