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第66話 ハラスの弟子と戦いました(2)

私がこんなに大怪我するのは、おそらく王城で拷問を受けて以来でしょうか。

私は強いと周りからよく言われるのですが、実質、魔法がなければ何もできません。私が今までナトリの無理難題に耐えられたのも、まおーちゃんの攻撃に耐えられたのも、すべて魔法を使って防御していたからです。洗脳の防御など、意識して魔法を使わなくても体内の魔力が勝手に防いでくれる例はありますが、今回のように外圧による攻撃までは防ぎきれません。

魔法を使わない私は、普通の女の子です。少しでも隙ができると、そこを突かれてしまいます。


何ででしょう。今までは、音速で攻撃されるようなことがなかったからなのでしょうか。魔法で結界を作る暇もありませんでした。

私の肩を突き刺した槍は、光の粉となって消えていきます。流れ出る血が、腕をつたってぽたぽた落ちていきます。


「またまたーーっ!!!」


一度呪文を唱えて完成させれば何度でも攻撃できるタイプの魔法のようです。兄の手の間にある光の玉は、次々と音速の槍を繰り出します。私はそれを見てから結界を作ろうとしますが遅く、何本もの槍は私の腕をかすったり、胸を襲ったり、脚を刺したりします。

だめです。攻撃してくると分かってから結界を作るのでは間に合いません。今すぐ結界を作りましょう。そう思って、自分の体を覆い包む球状の結界を作ります。


「次!」


兄が叫ぶと、私の胸の前に大きな光の玉ができます。あらかじめ私の近くに魔力を忍ばせていたのでしょうか、その光は結界の内側で生まれました。


「!?」


私が驚くのと同時に光の玉は音速で結界の中を跳ね回ります。


「きゃあああ!?」


玉が頭をかすります。頭から血が吹き荒れます。体中の皮膚をナイフのように切り取り、私の結界の中が血まみれになります。

結界の中で反射してしまうので、私が結界を解除して玉を遠くへ逃がすのと同時に、また音速の槍が私を襲います。


「くああ、ああああ‥‥」


私は全身血まみれになって、浮遊の魔法を続ける元気もなくなり、そのまま地面に落下して仰向けになります。


「アリサーーー!!!」

「アリサ様!」


メイたちが私を呼ぶ声が聞こえます。

そういえば、私が負けたら出頭して罰を受ける約束なのです。その場合、メイも捕まって私と一緒に死刑にされ、ラジカは私と同行したとして重い罰を受け、ナトリは娼婦にさせられてしまいます。

それだけではありません。私は救世主と言われました。数ある人々の中から、救世主2人のうちの1人に私が選ばれました。ギフやイクヒノのように、クァッチ3世の苛政に苦しんできた人たちは、救世主なくして誰が救うのでしょうか?私にこの世を救う自信も度胸もありませんが、私の代わりに誰がいるのかと考えると、もしかしたら本当にいないのではないかと思ってしまうのです。


「どうした、降参か?私たちは君を殺すつもりはない。降参するなら怪我の治療をしてから王都に引き渡そう」

「魔王と同等の魔力を持つと言うが、当の本人に隙が多くて使いこなせてないな。なあ兄君」


メイたちの悲鳴に混ざるように、兄弟たちの声が聞こえてきます。

分かりました。

やりましょう。


私は地面にあおむけになったまま、言います。


「降参は、しません」


そう言って私は、兄弟たちのいる前の方に平手を向けて、魔力を込めます。


「その格好になってもあくまでもやる気なら、私たちも最後までやらせていただくよ」


兄弟たちは再び、私に槍を撃ちます。


「!?」


槍が、私の手前で反射して、逆に兄弟たちを襲います。


「何だと!?」


弟が体技で槍の方向をそらし、兄を守ります。


「何だと、結界を張った!?だが、まだ光の玉がある!」


そうです。私の体のそばには、たとえ結界を張った後でも、結界の中で反射して私を傷つける玉がついています。また光の玉が私の胸の前に現れ、直接私の体に‥‥ではなく結界の壁を反射して意表をついた方向を攻撃すべく、音速でとんでいくのですが。そのままぴゅーっと上へ飛んでいったまま、帰ってきません。


「な‥!?」


兄弟たちは目を丸くしています。メイたちも、何が起きたか分からないまま驚いています。


「く、くそおお!兄君は玉を強化してろ!私は直接攻撃する!」

「わかった!」


兄が再び詠唱を始め、手に込めている玉を強化します。そうして弟が私のところへ駆け出してくるのですが‥‥ある一点で、弟が何かにぶつかったように動きを止めます。

壁です。見えない壁があります。


「見えない壁がある!これは結界か!?」

「何だと!?球体でない結界を作ることは不可能だ、結界の形を探れ!」

「わかった、兄君!」


結界は球体のような形をしていなければいけません。シャボン玉と同じで、与えられた魔力量に応じて、その立体は必要最低限の表面積であろうとします。立方体や直方体の結界を作ろうとしても、すぐに球体になってしまいます。つまるところ、結界で壁を作ることなど不可能なのです。

弟は壁を伝って走りますが、「ない、ないぞ!どこまでいっても平らな壁だ!」と壁を叩きながら叫ぶだけです。


私は手を肩や胸にあてて、全身に治癒魔法をかけます。傷口がどんどんふさがっていきます。服についた血や、流れ出てしまった血は戻らないので、少々貧血気味でしょうか、頭が少しくらっとします。

そうして、私はゆらりと立ち上がります。兄弟が私に注目します。


「この結界、壁だと思いました?球体です。この私たちがいる星‥‥この世界でも地球っていうんですかね?地球の4分の1くらいの大きさにしてみました」


私はにっこりと、そう言います。私は結界の中心ではなく端っこにいて、しかも結界は地球を基準にした大きさだというのです。

これくらい大きな結界を作れば、さっき私の結界に潜り込んできたような反射する光の玉による攻撃も無効化されます。ですが兄弟たちはまだ信じられない様子です。


「な‥バカな、ありえぬ!そんな大きな結界は聞いたことがない!」

「あっよかったこの世界でも地球で通じるんだ、あと町の人達は結界を行き来できるようにしたので、この結界によって影響を受けるのはあなたたち2人だけです」

「もっとありえない!そんなこと、人間には不可能なはずだ!!きっと何かトリックがあって‥‥」


結界で人を通すことはできても、特定の誰かを通さないことはできないのです。つまり、結界を通る人達をいちいち許可しなければいけません。実際、私は自分の見えない場所で誰かが結界の壁に近付いているのを感知し、通してあげているのです。でもそれにもそれなりの魔力を使うので、貧血の私には長くは持ちそうにありません。


「ありえないが、本当に地球規模の結界を作ったとしたら、膜は薄いはずだ!強力な魔法をぶつければ!」

「わかった、弟君!早急に作る!」


兄弟たちが図星な会話をしているのも不安要素です。早めに決着をつけましょう。私は目を閉じて、両腕をゆっくり広げます。私の背後に、ゆっくりと大きな魔法陣ができて、風が巻き起こります。

ドラゴンなら余裕で入れてしまいそうなくらい巨大な水の塊が、次第に膨れ上がっていきます。

攻撃を受けながらであれば作れなかったものが、余裕をもって生成されてゆきます。

魔力をふんだんに使ったからか、魔法そのものによって増殖されたのか、体中に力がみなぎります。


「フルア・ド・ジェネレル・イリム・ハームドール」


それから私は目を開いて、結界の向こうにいる対象に手をかざします。


「ビーム・オフ・ウォーター」


水の塊から、木の枝くらいに細い水鉄砲が、信じられないくらいのスピードで吹き出します。音速を超えたのでしょうか、ものすごい轟音がします。強い風も吹き荒れます。

無数の水鉄砲は地にぶつかり、石を砕き、土で固められている地面を走り裂きながら、兄弟を襲います。


「うああああっ!?」


兄は慌てて、手に込めている魔力で反射してくる水を防ごうとしますが、あっさり貫かれてしまいます。

容赦ない水の線が、2人の全身を襲います。


「あああああああああ!!!」

「ハラス様ああああああああ!!!!!!」


少しが経ちました。

風が止む頃には、水鉄砲を出し切った水の塊は、すでに消え失せていました。結界も消しました。

そのあとに残ったのは、数え切れないほどの地面のひび割れ。深くえぐり取った線もありました。

全身を血だらけにした男2人の荒い息が、その場全体の音を満たしていました。


「す、すごい‥‥」


声を失っていたメイが、やっと言葉を絞り出します。ナトリも唖然としています。

ラジカは座っていた岩から飛び降りて、私に歩いてきます。


「アリサ様、すごいとは思っていたがここまでとは思わなかった。初めてアリサ様の本気を見た気がする」


その言葉に、私は笑顔で振り返ります。


「ラジカちゃんありがとう!えへへ、私頑張っちゃった!」

明日の朝は都合により更新をお休みします。

明日の夕方頃に次話を投稿し、あさってからはいつも通りの更新に戻ります。

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