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第5話 魔王と入浴しました

大浴場は、女子寮の1階につながる渡り廊下の先にあります。

恩賜エスティク魔法学校は、もともと女子校だったこともあり、女子の浴場はかなり広いのです。そのぶん掃除も大変ですが。

今夜の大浴場も、たくさんの女子で賑やかなようです。


「そういえば、知ってる?テスペルクさんのこと」

「テスペルク先輩って、あの、無重力部屋の先輩ですか‥?天然の変人だと聞いたことはありますが」

「知ってるー!今日、使い魔の授業で、魔王を召喚しちゃったらしいね」

「ええっ、それ危なくない?魔王は還したの?テスペルクさんは生きてるの?ていうか、私たちも危なくない?怖いんだけど」

「もしかして、今日臨時休校になった理由ってそれですか?えっ?」

「先生たちも騒いでたしねー」


そうなのです。私がまおーちゃんを召喚したあと、その場にいた生徒たちはみんな寮に戻ったのですが、そのあと学校は臨時休校になってしまったのです。そこまで重大なことなのでしょうか?

先輩も後輩も、寝耳に水だった臨時休校の話でもちきりでした。


「あたしは休みが増えてよかったわー」

「よくないわよ!魔王がこの学校に来るってどういうことかわかる?私たちも死ぬ可能性あったんだよ?」

「下手すればこのエスティク市全体が吹き飛びかねないわ、恐ろしい」

「一応明日からは普通に授業再開するようだけど、先生たち、ちゃんと対策してくれたのかな?」

「絶対そうだと信じたい。魔王は危険だから、きっと手練れの冒険者達が討伐してくれたはず」

「それにしては、大規模な戦闘があったようには思えないけど」


そのような話で盛り上がっていたところを、私は引き戸を開けてお邪魔しました。

体を洗っている人も、湯船に浸かっている人も、全員が私に視線を向けました。


「あれ、アリサちゃん?ここで会うのは久しぶりだね」


クラスメイトのニナが声をかけました。金髪でショートヘアの子です。

そうなのです。私は姉が卒業してからはずっと、自分の部屋で湯のボールを作って、その中に入って入浴の代わりにしているのです。

湯船に湯を張るのは、魔法ではなく物理です。シャワーも、原理自体は魔法が関わっていますが、シャワーから出た後の水は物理法則に従って自由落下します。そんなの魔法使いっぽくない!というわけで、フルで魔法に囲まれた入浴がしたかったのです。

今日ももちろんその入浴をしようとしましたが、なぜかまおーちゃんが気持ち悪そうなどと言葉を並べて拒否するのです。そういうわけで、今日は仕方なくここに来たのです。


「うん、そうだね!」

「いつもは自分の部屋でお湯沸かしてたじゃん、今日はどうしたの?」

「えへへ、ちょっとね」

「そういえば今朝、魔王を召喚してたよね?大丈夫?何かされなかった?」

「ん、私は大丈夫だよ」


そう言って浴室に入る私の後ろに、1人の女の子が続いているのにニナは気づきました。


「‥‥あれ、見ない顔だね、ここの生徒だっけ?」

「この子?まおーちゃんだよ」

「まおーちゃんって‥誰?」

「私が今日召喚したの」


まおーちゃんは軽く警戒しているような目つきでニナを見ていました。


「あっ、使い魔だね、使い魔の入浴って先生の許可いるよね、‥‥って、え、ええええええええええええ!?」


ニナはどすんと激しく尻もちをついたあと、後ずさりします。浴室の入り口近くで体を洗っていた人たちも総立ちになって、一斉に私から距離を取ります。


「そ、その人が、ま、魔王?」

「うん、そーだけど」

「そ、そ、そ、それって、ものすっごく危ないんじゃないかな?先生が対策したと思ってたんだけど‥‥」

「ふん、人間から嫌われるのは慣れておる」

「ま、魔王が喋った!!」

「なんじゃ、妾が喋っちゃいけないのか?」


服を脱いで生まれたままの姿でいるまおーちゃんは、羊の角や2本のしっぽがかわいく強調されていて、なんていうか、えっちです。すごくえっちだと思います。


「ねーねー、どう?裸のまおーちゃんもかわいいよね?」


私の呼びかけに、ニナは顔を白くして、


「ね‥‥ねえ、その魔王、襲ってこない?」

「ふん、安心しろ。もし襲ったらこいつと三日三晩かけた大戦闘が待っていそうだからな」

「えー、まおーちゃん優しいよ?」

「妾が優しいのは魔族に対してだがな」


そういうやり取りをして、私とまおーちゃんは空いている席に行って体を洗い始めました。

その間に結構な数の人が出ていったようで、洗い終わった後、浴室は湯船に数人が残るのみとなっていました。


「‥‥あれ、空いてるね。さっきはもうちょっと人がいたと思うけど」

「‥‥妾は嫌われるのは慣れておる。貴様はそうではないのか?」


まおーちゃんは平然と湯船に入り、湯船のふちで浮いている私を見上げます。


「そうでないなら、使い魔にするのを諦めて妾を元の場所に返す選択肢もあるぞ?その場合、妾が魔族の国に到着するまで、ここの人たちは害さないと約束しよう」

「えー、まおーちゃん帰っちゃうの?嫌だー!」


私は湯船に入って、まおーちゃんを抱こうとして‥‥


「こら、無断で妾の体に触るでない!」


今回は逃げられました。ううっ。裸だと逃げ足速いのかな?


「‥ね、ねえ、大丈夫?」


浴室に数人残ったうちの1人、ニナが私に声をかけます。


「ん、大丈夫だよ?まおーちゃん、かわいいし」

「えっと、そういう問題ではないような‥‥」


ニナは、まおーちゃんを避けるように歩いて来て、まおーちゃんのいる右手とは反対側の左手に腰掛けました。


「魔王について、先生と何か話したりしたの?」

「うーん、まおーちゃんを殺せって言われた」

「やっぱり‥‥それで、どうしたの?」

「私、まおーちゃんが好きだからって言って断っちゃった!えへへ」

「好きなんだ」

「うん、もちろんライクじゃなくてラブだよ!」


ニナは首を傾げます。


「ライクじゃなくて、ラブ?え、女の子同士で‥‥?」

「うん!」

「貴様!気色悪いことを言うな!」


まおーちゃんが顔を真っ赤にして怒鳴ります。その声に、周りの人たちはびびります。


「あー、まおーちゃん照れちゃって、かわいい〜!」

「照れてなどおらぬ!」

「かわいいよねー、ねえニナちゃ‥‥」


そう言って私がニナの方を向くと、いつの間にかニナはもう少し離れた場所まで遠ざかっていました。


「どうしたの、ニナちゃん!?」

「だ‥だって、魔王が怒るの、怖い‥‥」

「え、そんなに怖くないよ?」

「それはアリサちゃんだけだと思うよ?」


ニナが指摘すると、まおーちゃんはふふっと笑いました。


「まあ、妾もこういうのには慣れておる。今ここで貴様に手を下すことはないから安心しろ」

「魔王が、わ、私に向かって話したぁぁぁ‥‥」


ニナはまた顔を真っ白にして、石のように固まりました。


「大丈夫、ニナちゃん!?のぼせたの?」


私はその後、ニナちゃんが意識を取り戻すまでの少しの間、介抱していました。

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