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第4話 校長先生に呼び出されました

校長室。

私は成績が優秀なので、たびたび表彰のために呼び出されることもあって、校長先生とは半ば顔なじみのようなものです。


「失礼します」

「おお、テスペルク君か」


机に座っていた校長先生は、くわえていた葉巻を灰皿に置きました。

その日の校長室は何やら雰囲気がいつもと違っていました。ベテランの教員が4人、さらに‥冒険者と思われる男も2人くらいいました。


「私に浮遊の魔法を使いながら挨拶するのは、君だけだよ」

「えへへ」


校長先生は、いつもと変わらぬ表情でニコニコしながら言いました。

私もつられてニコニコ笑いましたが、私の隣のまおーちゃんは、何やら顔をしかめて、校長先生をにらんでいます。


「どーしたの、まおーちゃん?校長先生は悪い人じゃないから大丈夫だよ?」

「いや‥ちょっとな」


まおーちゃんはそっけなく返事しました。まるで、校長先生に呼び出された理由を最初から知っているようです。

校長先生の他に、手練れの教師と冒険者が総名6人揃っている校長室はものものしい雰囲気で、殺気がほとばしっているのでしょうか。まおーちゃんは明らかに警戒している様子でした。

少しの沈黙が流れた後、校長先生は口を開きました。


「今日の使い魔召喚はお疲れ。テスペルク君は日頃より優秀と聞き及んでいたが、まさか魔王を使い魔として召喚するとは思わなかったよ。たまにドラゴンを召喚する生徒も居るが、君がそこまでの使い手だったとはな‥‥王国にも報告させていただくよ。君の表彰も、教員総出で議論しているところだ」

「えへへ〜、私はかわいい女の子と出会えて幸せです」


私は何気なく、にへらと笑いました。

校長先生は、言葉を選ぶようにゆっくりしゃべります。


「ところでその魔王なのだが‥‥この王国が魔王を指名手配しているのは知っているかね?」

「えっ?」


私はぱちくりまばたきをします。


「知らんのかね?授業でも教えていたと思うのだが」

「ごめんなさい、魔法以外には興味なくて」

「はは‥テスペルク君はそういう人だったな。我々人間は、古来より魔族と戦争を繰り広げてきた。現魔王ヴァルギスは300年前に即位してから、何度か我々の王国に侵略してきた」

「うーん、ヴァルギスってどっかで聞いたような名前ですね」


隣にいるまおーちゃんは何も言いませんでした。


「うん、そこにいる使い魔君のことだね」


校長先生は小さなため息をついて、まおーちゃんを指差します。


「え、ええっ!?まおーちゃん、300年も生きてたの!?」

「‥‥‥‥」


まおーちゃんはぴくとも動きません。私に返事をするだけで発生する隙すら惜しいといいたげに、校長先生や周りを最大限に警戒している様子です。


「それでだね、魔王ヴァルギスはまた、その気になれば都市をいくつも潰せるほどの力を持っている」

「はぁ、うーん、なるほど、すっごく強いんですね」

「我々の王国も、何度かベテランの冒険者を派遣しているが、皆殺しにされている。魔王ヴァルギスの討伐は、我が王国の宿願なのだよ」

「すごいですね」

「簡単に言うと‥‥テスペルク君、君に魔王ヴァルギスを殺して欲しい」


校長先生の言葉のあと、10秒くらいの沈黙ができました。


「‥‥‥‥え、えええっ!?私がまおーちゃんを、殺すんですか!?」

「やはり‥」


私のリアクションの後、まおーちゃんは冷静に息をつきました。


「貴様ら人間は野蛮だ。勝手に我々魔族の領土を奪っておきながら、我々のせいだというのか。魔族は、取られたものを取り返そうとしているだけだ」


まおーちゃんがぎゅっと握ったこぶしから、妖しい光が出てきます。足元に小さな、黒く光る魔法陣が現れました。

それを見て、6人の教員と冒険者たちが、構えます。


「魔王ヴァルギス、ここにはS級の冒険者が6人いる。対してお前の味方はここにいない。いくらお前でも、無援護ではこれに耐えられまい」


校長先生は、先程の優しげなトーンから一転、背中に火のオーラのようなものを出しています。


「さあね。妾が勝つか負けるかは、妾が決める!」

「テスペルク君。奴の魔法陣はまだ完成していない。奴を倒しなさい!」


校長室は完全に、まおーちゃんとそれ以外全員が対決する、険悪なムードになっていました。

なので私は、まおーちゃんをぎゅっと抱きしめました。同時に、まおーちゃんの足元の魔法陣も消えてしまいました。


「まおーちゃん、大丈夫だよ。私がついてるよ」

「むはっ!?何をする、貴様!!」


校長先生が勝ち誇って、椅子から立ち上がりました。


「よくやった、テスペルク君!そのまま魔王ヴァルギスの息の根を止めなさい!」

「えっ、何でですか?」


私は真顔で校長先生を見ました。


「‥‥は?」


場が一瞬、固まりました。


「こんなかわいい女の子を、どうして倒さなくちゃいけないんですか!?」

「さっきも説明しただろう!?そやつは魔王で‥‥」

「だったら何だというんですか!?この子、こ〜〜んなにかわいいし、守ってあげたくなるじゃないですか!」

「おい貴様、頬ズリするな!こんな状況で頬ズリするか普通!離れろ!」

「‥‥それに、私の大切な大切な恋人なんです!」


また場が固まりました。校長先生や教員、冒険者たち、そしてまおーちゃん、私以外全員が目を点にして口をあんくり開けています。

最初に声を発したのは、まおーちゃんでした。


「‥‥‥‥お、おい、貴様、妾は貴様になど興味ないぞ!」

「いつかきっと結ばれる運命だよ、私たち。絶対まおーちゃんを振り向かせてみせる」

「だから妾は百合に興味ない!そんな顔で妾を見るな!離れろ!気色悪い!」


まおーちゃんがあまりに暴れるので、私が抱きしめた手を離してあげると、まおーちゃんはそのまま壁に背中をあずけてぜーはー息をつきはじめました。

次に声を出したのは、校長先生でした。


「‥‥‥‥テスペルク君」

「はい」

「女性同士の恋愛など聞いたことはないのだがそれは差し置き‥‥魔王ヴァルギスを殺しなさい」

「嫌です」

「このままだとテスペルク君は国賊として死罪になる」

「まおーちゃんがかわいいから!かわいい女の子は私が守ります!ほら、このつのとか、しっぽとかキュートじゃないですか!」


私は声を大にして言いました。


「‥‥ええい、仕方ない。教員と冒険者だけで仕留める!テスペルク君はさがっていなさい!」


校長先生の言葉とともに、教員や冒険者が一気に魔法を撃ち始めました。


「サンデクスペル!」

「水の精霊よ、我に加護を!ルザ・オ・ミュル!」


色とりどりの呪文によってできあがった魔力の塊が、まおーちゃんに向かって勢いよく駆け出します。

まおーちゃんが危ないので、私は瞬時に結界を作って全部弾き返してあげました。

ばしーんと、勢いのいい音とともに、魔法は光となって消えました。


「‥‥なっ!?」


冒険者や教員たちが、また呆然として私を見つめます。


「お、おい、私は20年くらい冒険に出ているが、S急冒険者6人の魔法を全部弾き返す人は初めてだぞ‥‥!」

「しかも瞬時に!?詠唱している様子などなかったぞ‥!」


にわかに騒ぎ始めた矢先、校長先生がぱんと机を強く叩きます。その顔は、明らかに怒っているようでした。


「テスペルク君。なぜ邪魔をする?」

「だって、まおーちゃんが危なかったから。私が守ってあげたの」

「貴様‥‥」

「テスペルク君、もういい、君は、ーー‥‥何だね?」


校長先生のもとに1人の教員がかけより、耳元にささやきます。


(校長先生、まずいです。魔王を召喚した以上、テスペルクさんは魔王と同等かそれ以上の使い手ということになります。魔王が2人いるようなものです。ここでテスペルクさんを敵に回すのは得策ではありません!)

(む‥むむ‥‥)

(2人一緒に捕まえるよりも、この場は丸く収めて、テスペルクさんを後日あらためて説得して味方につけるのが得策かと)

(むう‥‥)


校長先生はしばらく両手で頭を抱えてうなっている様子でしたが、やがてため息をついて言いました。


「‥‥‥‥本日の用件はここまでだ。2人とも、寮に戻ってよろしい。明日の授業も頑張りなさい」

「はあい!」


私は何事もなかったように明るい声で返事をし、呆然と立ち尽くしている冒険者達にもぺこりと礼をしてから、まおーちゃんと一緒に校長室を出ました。

寮へ戻る道中、まおーちゃんはちらちらと私のことを見ている様子でした。これは、脈アリなんでしょうか!?


(こいつ、思ったより強い‥‥さすが妾を召喚しただけのことはあるな。さっきの奴らはこいつがいる限り妾に手出しはできない様子だった。‥‥ここにいる間、こいつを利用させてもらうか)


魔王は、当面の作戦が決まったかのように、顔に不敵な笑みを浮かべていました。

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