第49話 投獄されました
この話にはレイプ/強姦表現が含まれます。苦手な方はご注意ください
そのあと、私は別の庭まで案内されました。デグルの話にあった、ガラスでできた巨大な円柱の建造物も見ました。その円柱の中に何があったかは、読者のみなさんの想像にお任せします。
私はすっかり王様への忠誠心をなくしていました。さっきまでは王様のことを信じて、王様と楽しくお話をしていました。それが今では、一刻も早くこの場を逃げ出したい気分になっていました。デグルの昔話は、信じられないような内容でしたが、本当だったのです。
回廊を歩いている時、王様が私に声をかけました。
「城の中を歩き回って疲れただろう。わしの部屋で休まないか?」
「あ‥あの、それでは王様にご迷惑がかかってしまいます。や、宿に戻ってお休みいたします‥‥」
「いやいや、そんなに気を使わなくともよい」
「でも、王様に気を使わせては‥」
「いいから、いいから」
そうやって、半強制的に王様の部屋へ案内されます。
さすが一国の王の部屋というだけあって広大で、大きな本棚、立派な鏡や机、きれいでぴかぴかな窓など、色々なものがありました。
と、王様がいきなり私の手を掴みます。
「何を‥ああっ」
王様に引っ張られて、私はベッドの前に立たされたかと思うと、王様に押し倒されます。
正直、知らないおっさんに押し倒されて気分悪いです。でもそこは、目上の方ですから、くっとこらえます。
「あ、あの、王様、何を‥?」
「君は‥初めて見たときから、いいと思っていた」
「は‥?」
王様は興奮気味に、私の体をぎゅっと抱きます。
「君の見た目、華奢な体、かわいい声‥素晴らしい逸品だと思った」
「王様?」
「わしだけが聞ける声も、聞かせて欲しい。鳴いて欲しい。わしのために尽くして欲しい」
やっと、王様が何を考えているのか気付きました。
あんな残酷なことをする王様と一緒に過ごすなんて、何かの間違いであってほしいです。
「嫌です」
王様には従いなさい。王様は世界一偉いのですから、言うことを何でも聞きなさい。
親からそう教育されて育ってきた私は、ここで初めて王様を拒絶してしまいました。
お父様、お母様、ごめんなさい。
でも私、これ以上は嫌です。
「君は素直じゃないね?大丈夫だ、ここを触れば、そんな気持ちもなくなる。わしは上手い」
「嫌です!どいてください!」
私はぱんと、王様の胸を押します。脚もばたばた動かします。
しかし、デグルから魔法を使うなと禁じられている手前、私も所詮はただの女です。力強い男に敵うはずもなく、王様は私の服のボタンに手をかけます。
「遠慮するでない。一度わしの味を覚えれば、君も他の男には満足できなくなる」
「嫌!嫌です!やめてください!それに、私にはまおーちゃんがいるんです!」
「‥ん?まおーちゃんとは、君の彼氏のことかね?そんな男のことなど、忘れなさい。君はこれからわしの女になる」
「だから‥まおーちゃんは女で、私の大切な人で、将来の結婚相手なんです!ここに連れてくることはできなかったけど!」
「‥‥うん?」
王様が私のボタンを外す手を止めました。私は急いでボタンを結び直して、起き上がります。
王様は私の体から離れ、ベッドの前に立っています。
「‥‥それは、魔王のことかね?」
「あっ‥‥」
勢いに任せて、まおーちゃんのことを喋ってしまったようです。王様は眉をひそめます。
「君は、我々人間の敵である魔王と結婚を考えるほど仲がいいのだな?数日前に見て知ったというのも嘘で、本当は魔王に忠誠心があるのだな?」
「ああ‥」
「そして、魔王のスパイとしてここに来たのか?違うか?」
王様は、さっきまでの好意的な態度から一転、とんでもない事実を知ってしまったかのように、怒りをあらわにしています。
「ち‥違います!私はただ、まおーちゃんと一緒に遊んでただけで‥」
「おい、来い」
王様の声とともに、何人かの兵士が、ドアを開けて入ってきます。あっというまに私は兵士たちに両腕を持ち上げられ、捕らえられます。
「そいつは魔王のスパイとして潜入した可能性がある。美人で残念だが、やむを得ない。徹底的に調べ上げた上で殺せ」
「王様!違います、私はただ‥」
「言い訳は見苦しい。早く連れて行け」
私は兵士たちに引きずられて行きます。
◆ ◆ ◆
王城にはいくつか棟がありますが、そのうちの1つの棟は監獄や拷問室などがまとめられたものです。
その廊下には重苦しく、生暖かい空気が流れています。いくつか部屋が並んでいますが、どの部屋からも悲痛な叫び声が聞こえてきます。それだけで私は、もう震え上がってしまいます。
「入れ」
一室につれてこられました。薄暗く、石壁でできていて、小さい窓から差し込む光がかろうじて視界を保っていました。
私の服は脱がされ、手は縛り上げられ、全身が宙吊りの状態になります。
肩が脱臼しそうです。上半身を裸にされ、恥ずかしいという気持ちよりも、腕や肩の痛みと、これからされることに対する恐怖がゆうに勝っていました。
「い、いや、こんなの‥‥」
「嫌だと思うなら、早く吐くんだな。お前は魔王のスパイか?」
そこに待ち構えていた執行人たちが、私に声をかけます。
私の目から涙が溢れ出ます。
「ち、違います!」
「魔王とはどんな関係だ?」
「ただの友達です!スパイとかそういうのは一切なくて‥!」
「おい、体に聞け」
執行人の手下が、勢いよく私の背中に鞭打ちます。
「ああああ!!」
かなり強いです。鞭打たれるたび、背中だけではなく全身に激痛が走ります。全身に強い電気が流れたかのように、汗が一気に出て、口からよだれが溢れ出ます。
鞭叩きがやみました。私は「はぁっ、はぁっ‥」と、初めての感触に心臓をパクパクさせて、全身を震わせていました。背中にはまだズキズキ痛みが残っています。汗でしょうか、それとも血でしょうか。背中をつたう液体がしみてきます。
「だ‥だから、違うんです、私は、その‥‥」
「おい、もう一回叩け」
◆ ◆ ◆
夜になりました。気がつくと、私は狭い部屋のベッドの上で横になっています。小さい窓から月光が差し込んでいます。
先程の拷問室とは違う部屋でしょうか。私は起き上がり、そして。
「うああ、ああっ!?」
背中に走る激痛で悲鳴をあげて、またベッドに倒れ込みます。「はぁ、はぁ‥」息切れさせながらよく見ると、私の上半身は裸ですが、包帯がまかれています。背中だけでなく前の方も叩かれたのでしょうか、胸の方からもじんわり血が出ています。
私は拷問の途中で気絶してしまったのでしょうか。辺りを見回すと、小さい机の上に私の上着とブラが雑に乗せられています。
ここは牢獄でしょうか。ベッドで足を向けている方向には、壁ではなく檻があります。私は、投獄されたのです。
「はは‥全部、デグルの言うとおりじゃん‥私、こんなところに来るんじゃなかった‥‥」
私はぼろぼろ涙を流していました。
王様のこと、信じていたのに。
私たち国民のことを大切に考えてくれている、とてもすごい人だと信じていたのに。
この王様の統治する国にいられて、自分は幸せだと信じていたのに。
あんなことを、なさるなんて。
私は背中の痛みも忘れてうつぶせになり、石のように硬く冷たい枕に自分の目を押し付けて、声を少し押さえながら泣き続けました。
それから何時間がたったのでしょうか。泣き疲れて寝てしまった私の頭を何かが叩いたり、怪我した背中の上を這い回って刺激したりします。それで私は目が覚めました。夜も更け、未明といったところでしょうか。
「何‥?」
私が体を少し動かすと、それに気付いた何かが、ぴょんと私の目の前に現れます。緑色のカメレオンでした。
「‥ラジカちゃん?ラジカちゃん、いるの?」
カメレオンは私のその言葉を聞くとその場から離れ、ぴょんぴょんとはねて、壁を這い上がって、天井近くにある小さな窓へ着いてから、しっぽを何度も振り回します。
「‥‥ここから出ろって、言ってるの?」
私が言うと、カメレオンはしっぽを止めて、首を大きく上下します。その瞳に、私の顔が反転して映ります。
「で‥でも、私が逃げたら、家族がどんな目にあうか‥王様の誤解も解かないと‥‥」
私の言葉を聞いたカメレオンは、壁を這い下りて、再び私の手元にあらわれます。それから、しっぽで私の手の甲に文字を描きます。
「生」「き」「ろ」
それは、まおーちゃんと別れる時に言われた言葉でした。
妾と貴様は、きっとまた会える。貴様は生きろ。生きて妾の国へ来い。
「まおー、ちゃん‥」
ここにいれば、私は本当に殺されるかもしれません。
でも、私にはまだ、まおーちゃんという存在がいたのです。
私は目に残っていた涙をその手の甲で拭くと、自分の体に回復魔法をかけます。ぽうっと私の上半身が光ります。
包帯がはだけ、元通りきれいになった私の肌が顔を出します。
立ち上がって、机の方に行きます。
ブラをつけて、シャツを着て、制服の袖に腕を通します。
「‥こんなところでめそめそしていられないもんね」
私はカメレオンを片手で持つと、ふわりと自分の体全体を浮遊させます。
そして、もう片手で壁に手をかざします。音もなく、壁が崩れ落ちます。
「行こう」
自分に言い聞かせるように、カメレオンを見て言います。
そのまま、私は外へ出ていきました。




