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第47話 王様に会いました

翌朝はいつもより早く起きました。夜ふかししてしまったので、余計眠いです。

私はふわふわ浮きながらあくびをして、くるりと一回転します。


ベッドには‥‥誰もいません。

たった5日間の出来事でしたが、まおーちゃんがいないと、心のどこかにぽっかり穴が空いたような気がします。

涙が出そうになりましたが、ぷんぷんと顔を振ってこらえます。


私の部屋では、ほとんどの家具が浮いています。天井に張り付いているもの、床から離れているもの、みんな私の魔法です。私はとにかく魔法を使い続けていたいのです。

寝ているときといい、外出している間に家具が落下しないことといい、意識せずに魔法を使い続けるのはとんでもないことだと、まおーちゃんに言われました。果たしてそうなのでしょうか?という感じは強いけれど。

どうして私が、当たり前のように浮いている家具たちのことを今更気にしたかと言うと。


「‥‥私、本当に投獄されるのかなぁ?まおーちゃんの国に逃げなくちゃいけないのかなぁ?」


私も万能ではなく、まおーちゃんの国に行って長く滞在するようなことがあれば、いずれこれらの家具の魔法も切れて全部どすんどすんと落ちて壊してしまいます。周囲の部屋の人が驚いてしまうでしょう。

でも、それ以前に、昨夜のデグルとまおーちゃんの話を素直に信じられずにいる私も、まだいます。


「‥‥一度下ろしたほうがいいよね」


まおーちゃんがあまりにも真剣に話をしてきたので、まおーちゃんのことを信じたいと思っている私もいます。

この部屋に再び戻った時に、家具も戻してあげましょう。そう思って、私は家具を1つ1つ、ゆっくり床に下ろしていきました。

そうだ、ついでにニナやナトリやラジカに挨拶しましょう。‥‥この時間だとまだ寝ていますね。起こすのも悪いから、置き手紙しましょう。


お金や小さいかばんを持って学園を出て、エスティク市の領主様が急遽用意してくれた立派な馬車に乗りました。

服装は‥‥よそゆきの立派な服もあるのですが、私はあえて制服を選びました。エスティク魔法学校は恩賜のものであり、これも立派な正装です。まおーちゃんが窓から出ていった後、デグルにこれを着るよう言われたのです。余計な装飾もないので、逃亡生活を送りやすいらしいのです。逃亡前提で考えていても仕方ないと思うのですが、一応従うことにしました。

御者が質問してきます。


「お一人ですか?2人とお聞きしていましたが‥‥」

「いいえ、特別な事情があって私1人になりました」

「わかりました」


私は差し障りのない用に答えます。馬車が出発しました。私は窓から風景を眺めます。

見慣れた服飾店、見慣れた書店、あっ、あれはまおーちゃんが馬車から張り付いていたお菓子店でしょうか。あそこで売っているケーキはおいしいのです。もう少し時間があれば、まおーちゃんに食べてもらえたでしょうか。あのケーキを食べたまおーちゃんは、どんな反応をしていたでしょうか。ふふ。

まおーちゃんの言葉を信じていたいもう1人の私が、馬車から見えるいつも通りの光景を1つ1つ、目に焼き付けていきます。


エスティクから王都カ・バサまでは、馬車で10時間くらいかかります。早朝に出発しても、着いた頃にはもう夜です。

王都は最近新しい建物が増えたらしく、いろいろな建物が夜景を彩ってきれいです。人もいて、賑やかです。エスティクとは全然違います。


「うわあ‥‥」


最近できたばかりの新しく立派で贅沢で豪華な建物を、私は窓から眺め続けます。私もあの建物の中に入ってみたいのですが、明日も早いのでこうして見ていることしかできないのが歯がゆいくらいです。

指定された宿で寝て、王様に謁見するのは翌朝です。


「はぁ、疲れた‥」


宿の部屋に着くと、私は部屋の真ん中でふわーっと浮いて、くーっと腕を伸ばします。一日中馬車に乗っていたので、肩が凝ってしまいます。

宿には、2人で予約されていたのでしょうか、ベッドが2つ用意されています。どっちみち片方は使いませんし、もう片方もまおーちゃんがいないので使いません。


「まおーちゃん‥今、どうしてるのかな‥‥」


たった5日間の出来事でしたが、私のそばにはまおーちゃんがいるのが当たり前という感覚が、全身に焼き付いています。

大切な想い人を失った喪失感がします。


「まおーちゃん、きっとまた会えるよね」


今はそう信じるしかありません。私は用意されたご飯を食べて、眠りにつきます。


◆ ◆ ◆


「やれやれ‥‥」


その隣の小さな宿では、ラジカがベッドで横になっていました。

まおーちゃんと別れた私は、そのショックと喪失感からラジカのカメレオンがその場にいることをすっかり忘れていました。ラジカはその日のうちに深夜の割増運賃でエスティクを出発し、王都へ先回りしていたのです。


「‥アリサ様も着いたか」


アリサの荷物の中に忍び込ませたカメレオンと視覚、聴覚、意思を共有しているラジカは、自分の部屋から、アリサの部屋の中を見渡します。

本当に、王が用意しただけあって、豪勢な部屋です。壁には派手な装飾が施されていますし、著名な画家による壁画もあります。まさに、王に呼び出された人にふさわしい待遇です。


ラジカは、昨夜の私ことアリサとまおーちゃんとデグルの話を振り返ります。

本当にアリサは投獄されるのでしょうか?そもそも、王様はまおーちゃんの命を狙っているのでしょうか?ラジカにとっても半信半疑でした。宿の部屋を見ても不審な点はなく、確証は持てません。

ラジカ自身も王様のことは信頼しています。魔族のことが怖いという気持ちはあり、まおーちゃんを避けるようなこともしましたが、アリサやナトリがあまりにも平気そうにしているので、少しは安全かな?でもやっぱり実際に対面すると怖い、というのが正直な感想です。もしかしたらラジカ自身にも、デグルが話していた洗脳の影響があるかもしれません。


「‥まあ、明日のことは明日になってから考えよ」


カメレオンを通してアリサの手紙を覗き、明日の日程を確認したラジカはころんと寝返りを打ちます。


◆ ◆ ◆


翌朝、私は従者に連れられて、王城に入りました。

さすが人間最大の王国というだけあって、王城は立派な豪邸が何十も入るくらい広いですし、巨大な建物になっています。

私は宙に浮くのをやめて、地面に足をつけました。あまり上品な歩き方はできません。そういえば、領主様のところへ行った時はまおーちゃんに手をつないでもらったのでした。それを思い出すだけでも、まおーちゃんがいないのが一気に寂しく思えてきます。


大広間へ着きました。立派な赤い細長い絨毯がしかれており、それを挟むように多くの家臣が並んでいます。その先には、玉座に座っている王様、その隣には一人の女性も座っています。

私は王様に会ったことはありませんが、その隣りにいる女性‥シズカ様とは会ったことがありますし、一言挨拶もしたことがあります。王様もシズカ様も、25年前に即位した中年であることを全く想像させず、大変りりしい顔をなさっておいてでした。


私は一歩、一歩、絨毯を進み、王様の前までくるとひざまずきます。


「アリサ・ハン・テスペルク、お招きにあずかり、ただいま参上いたしました」


初めての謁見なので緊張します。できるだけうやうやしくなるよう気をつけて、言葉を発しました。


「顔を上げろ」


私は顔を上げます。王様の顔は、間近で見るとやはりりりしいです。立派な装飾がなされてきらきらしている銀色の服をまとっています。

王様は私の顔をひと目見て少し驚いたような顔をしていましたが、すぐに表情を戻して続けます。


「‥君は魔王と関係があると聞いたが、どのような関係かね?」

「はい。つい数日前に見て知った程度の仲ですが、わけあって同居しています」


私はぼろを出さないよう、丁寧に返します。本当は想い人だけどね。うぐぐ。


「魔王が一緒と聞いていたが、来ないのか?」

「はい。まおーちゃ‥‥魔王は、急用があると言って急ぎ国へ帰りました」

「な‥なに!」


王様が怒鳴ります。家臣の1人が言います。


「この女は命令に従わず、魔王を連れてきませんでした。これは国家安全に関わる問題であり、この女を厳重に処罰するべきではないでしょうか?」


えっ、私、いきなり処罰されちゃうんですか!?

と思ったのですが、王様は少しの間じーっと私の顔や体を舐めるように見てから、言いました。


「‥いや、それには及ばん」

「で、ですが!」


慌てる家臣とは裏腹に、私はほっと胸をなでおろします。

王様は、私に話しかけます。


「それより、アリサ君といったね」

「は、はい」

「この城は初めてか?」

「はい」

「城内の各所に興味はないか?わしが直々に案内してやろう」

「は、はい、ありがたきお言葉でございます」


あれ、なぜ急にこういう話になったのでしょうか?

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