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第3話 魔王を寮の部屋に連れてきました

使い魔召喚の授業は途中で中止になり、生徒たちはいったん寮に戻ることになりました。

エスティクにある恩賜エスティク魔法学校は、男女共学の魔法学校です。地方都市の学校なので生徒数はそれほど多くありません。女子寮は学校の敷地の西にある、4階建てのレンガ造りの建物です。

私も、使い魔のヴァルギスと一緒に、3階にある自分の部屋へ向かっています。他の生徒達は、なぜか私を避けるように距離をとっていて、それが少し寂しいです。


「貴様はなぜさっきから浮いておるのだ?」


寮の廊下でヴァルギスが尋ねました。ヴァルギスはさっきから歩いてきているのですが、私はずっと浮いたまま、地面に足をつけていません。


「私は魔法を使うのがすっごく好きで、魔法を使わずにはいられないの!」

「なるほど‥‥こういうものの積み重ねが貴様を強くしておるのか‥‥」


ヴァルギスは半分独り言のようにつぶやきました。


「ねえねえ、ヴァルギスちゃん!召喚の前は、どんなところに住んでたの?」

「妾をちゃん付けで呼ぶな!沽券が下がるではないか!」

「えー、じゃあなんて呼んでほしいの?」

「魔王ヴァルギス様じゃ、うん」


ヴァルギスはえっへんと、自身ありげな笑顔でこくりとうなずきました。


「長いよー」

「長いではない!妾の部下たちは、みなそのように呼んでおるわい!そもそも、貴様のような人間どもがその名を口にするだけでも畏れ多いのじゃ!畏れよ!」

「えー?」

「呼んでみろ、妾を魔王ヴァルギス様と!」


彼女はくいっと私に顔を近づけました。


「魔王ヴァルギス様‥‥ねえ、やっぱり長いよー」

「いいではないか」

「まおーちゃん、でいい?」

「だから、ちゃん付けをするでない!」

「いいじゃん、かわいいから!ねえ、まおーちゃん!」

「そのように呼ぶでない!」

「えー、今考えたけどかわいいな!かわいい名前だな!まおーちゃん!」

「だからそれは名前ですらない!」

「あっ、ここが私の部屋だよ」

「話を聞け!この矮小な人間が!」


そうして私は、うきうきした顔で、ドアを勢いよく開けました。

部屋の中を見て、まおーちゃんは絶句したようです。


「な‥‥なっ!?」


私の部屋では、ありとあらゆる家具が地面から離れて壁にくっついていたり、天井にくっついていたり。


「どうかな?この私の、3次元空間を有効活用した家具の配置!真ん中のあたりで浮遊の魔法使い放題だよ!」


私はふわーっと、部屋の真ん中に浮き上がりました。


「き、貴様、この家具はまさか、魔法で浮かせているのか?」

「えっ、そーだけど?」

「貴様がこの部屋にいない間も、ずっと浮いているのか?」

「そーだよ?24時間ずーっと、こんなだよ?」

「これは‥‥家具に魔石を使って魔力を注入したのか?それにしても、これだけの量・重さの家具を一度に管理するのには、相当な魔力や国宝級の魔石が必要なはずだ。普通はやらないぞ?」

「えっ、魔石?うーん‥‥魔石に魔力を貯めて電池みたいに魔法使う方法もあるけど、普通の魔石だとすぐ魔力切れちゃうじゃん。魔石なんて使ってないよ?」

「なん‥だと!?」


(魔石なしということは、対象に集中しないまま魔法を使い続けているということか?短時間ならともかく、一日中使い続けるのは高位の魔法使いでも不可能のはず‥‥!

 しかも、24時間と言ったか?就寝中の無意識でいる間もずっと使い続けるなど‥‥こいつ、一体何者だ!?)


まおーちゃんが硬直しているようだったので、私は優しく声をかけてあげました。


「だって私、魔法を使うのが楽しいんだもん!」


そう言って私は、空中でくるっと一回転してみせます。


「あ、ああ‥‥」

「それに私は、素敵な仲間ができて嬉しいな!」

「仲間‥とは?」

「まおーちゃんのことだよ!」


私はまおーちゃんに、くいっと迫ります。


「召喚するのはドラゴンやスライムもいいけど、こんなかわいい女の子が出てくるなんて思わなかったな!私たち、きっと仲良くなれるね!」


そう言って、まおーちゃんをぎゅっと抱きました。


「おい貴様、無断で妾の体に触るでない!」


まおーちゃんが暴れだします。


「‥‥うん?」


暴れているまおーちゃんが、横にある本棚を見て何かに気付いたようです。


「『女の子のお相手はお姫様!?』‥‥『女の子じゃダメですか?』‥‥『姫々の隠し事』‥‥き、貴様、まさか‥‥」

「あっ、えへへ、ばれちゃった?私、百合なの」


前世では男と結婚しましたが、なんか男というのも違うなーと思っていたところ、この世界でたまたま百合の本を見かけてはまってしまったのです。てへぺろ。


「な‥‥っ、これ以上触るな、離れろ!!」

「やーだ。ばれちゃったからには、逃さないよ?」

「離れろ、気持ち悪い!」

「えへー、まおーちゃんいいにおいするなー!くんかくんか」

「くっ、貴様の抱く力が強すぎるではないか!やめろ、こっちくるなーーー!!!」


しばらくまおーちゃんのにおいを堪能してから解放してあげました。


「はぁ、はぁ、はぁ‥‥すー、はー‥‥わ、妾、嫁に行けない‥‥」


まおーちゃんは部屋の隅でうずくまっています。


「えへへ、百合、別にばれちゃってもいいと思ってああやって本棚にわざと並べてるんだけど、他の友達は私の部屋にいると方向感覚が狂うからと言ってなかなか気付いてくれないの。まおーちゃんに気付いてもらえて、嬉しかった」

「お、おう‥‥」

「ねえ‥‥まおーちゃん、そっちの気はないかな?実は私も彼女ができたことなくて、初めてなんだけど、私でよかったら‥‥」

「わ、妾はそういうのは無理じゃ!」

「ええー、じゃあまおーちゃんに、私のこと恋人として好きになってもらえるよう頑張るよ?だってまおーちゃん、今まで見た中で一番可愛かったし‥‥」


召喚した瞬間に一目惚れしてしまいました。はい。


「そ、そんな努力はいらぬ!」


まおーちゃんにあっさり一蹴されましたが、私は諦めませんからね。

と、その時、ドアのノックがしました。


「あら、誰かが来たのかな?」


ドアノブを魔法で操ってドアを開けると、一人の教員が顔を出しました。


「アリサ・ハン・テスペルクさん、校長先生がお呼びです。使い魔と一緒に来てください」

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