第27話 みんなで依頼をこなしました
しばらくして、受付から呼び出されてカードをもらいました。
「えっと、私はGランクか‥」
「妾も同じだな」
「なりたての冒険者はみんなGランク、かな?」
私とまおーちゃんとニナが集まってカードを見せあっているかたわらで、ナトリがラジカに尋ねます。
「ところでラジカ。なぜラジカもナトリたちと一緒にカードを受け取っていたのだ?カードを作るには時間がかかるはずだが‥」
「あーねー、アタシもあんたらと一緒に書類書いてた」
「なるほど‥‥なにっ!?」
それを聞いた私たちも驚きます。私たちが登録届を書いている間、ラジカもそばにいて一緒に書いていたらしいのです。
「うそ、全然気付かなかった‥‥」
ニナが怯えたように言います。
「ふむ、隠密行動ができるとは素晴らしい。使い魔も優秀だし、貴様きっと戦争で役立つな」
まおーちゃんも腕を組んでうなずきます。
一通り話した後、私たちはクエストの貼り付けられた掲示板へ移動します。
「ふむふむ‥Gランク向けの依頼は、薬草採取がメインみたいだね。でも報酬は1000ルビか‥‥」
私がその依頼へ手をかけようとするところを、まおーちゃんが止めます。
「どーしたの、まおーちゃん?」
「妾と貴様は、もっと上位ランクの依頼でもよかろう?」
「えー、私Gランクだけど?」
「クエストのランクに縛りはなく、好きなものを受けて良いと説明されただろう?ほれ、あそこにSランクのクエストがあるぞ。あれが報酬も高い。見に行かんか」
「待って、私そんなに強くないよー」
「魔王である妾を召喚しただろうか。好きな依頼を選べる身分だぞ貴様は」
「えー」
そう言ってまおーちゃんに腕を引っ張られる私。
残った人たちは、(悔しがるナトリを除いて)それを「ははは‥」と見て、GランクやFランクの依頼を探します。
しかしすぐに、まおーちゃんがGランク組に合流します。
「どうした、テスペルクの使い魔、Sランクは受けられないというのか?こっちだと役不足だろう」
「いや‥受けてもいいのだがな、Sランクは魔物討伐の依頼ばかりだ。魔族の妾は気が進まん」
「あー‥‥」
みんな納得しました。一方の私はひとり、Sランクの依頼を探させられています。
「うーん、どれも報酬は2万ルビより大きいから、今日1日で終わりそうなもの‥‥これかな」
◆ ◆ ◆
エスティク市から少し離れた南の方に、お椀のような形をした山があります。平らな場所に、ぽつんとある感じの山です。お椀といっても、最近は登山道が整備されており、階段は多いですが登るのはそこまで難しくありません。木や草が生い茂っています。
「私たちは、この山の頂上近くにいるゴブリンを10匹狩ってって依頼だよ〜」
「妾は薬草採取だ」
「アタシは途中の道の茂みに隠れている緑色の魔物を見分けて駆除してってさ」
ニナ・ナトリと、まおーちゃん、ラジカはみんな、同じ場所でできるクエストを選んだようです。
「そっか、そうすれば今日中に終われるもんね」
私はふわふわ浮きながら移動しています。
「この山、ついさっきから入山規制かかったのよね。なんでも、今日の17時までには必ず下山しなさいって言われちゃったよ。Fランクの依頼なのに、時間制限厳しすぎないんじゃないかな?」
「あははは‥‥」
ニナのぼやきに、私が苦笑いします。
「そういえば、アリサはどんなクエストを受けたの?Sランクって、どの依頼にも時間かかりそうなイメージがあるんだけど、ここまで来ちゃっていいの?」
「ううん、今日1日で終わる簡単なクエストだよ。この山でできるよ」
「え、そんなのがあるの、この山、あまり強い魔物はいないはずなんだけど」
ニナは目を丸くします。
と、「ぷちっ」という音がします。ラジカが、道の茂みに手を突っ込んで緑色の魔物を3つくらい握りつぶしていたのです。
それを見て、ニナはみんなに言います。
「‥同じ山だけど、みんなが同じ場所でクエストするわけでもないし、このあたりで一旦解散したほうがいいかな〜って思う」
「分かったよー」
「じゃあ、16時に山のふもとで」
そういって、みんな、それぞれの場所へ向かいました。私はやることもないので、一足先に山の頂上へ行きます。
「わあ‥‥」
頂上から眺めるエスティク市には、様々な色をした建物が建っています。前世のスイスやイタリアなどヨーロッパの歴史的な風景を彷彿とさせます。
忘れてたけど、ここ、剣も魔法もあるファンタジーの世界です。そんな世界に転生させてもらえて、魔法が使える私って、なんて幸せなんでしょう。
私がしばらくぼうっとしていると、背後からまおーちゃんに声をかけられます。
「貴様、面白い依頼を見つけたな」
振り返ると、まおーちゃんは少し笑っている様子です。
「うん。今日1日で終わる依頼がこれしかなかったの」
「この規模の依頼は、おそらく30人かかりでやるものだろう。封印も強固で、1人だけだと封印を解くことすらできぬぞ。あのギルドの受付も、1人ではそもそも何も起こらないと思って通したのだろう。今日の17時からだろう?貴様の実力を見せつけてやれ」
「うん、わかった」
私はぐっと握りこぶしを高く掲げます。
「そーいえばまおーちゃんはクエスト終わったの?」
「うむ。あまり妾を甘く見ないて欲しい」
まおーちゃんはそう言って、集めた薬草を私に見せつけます。
「うわあ‥私、薬草の勉強あまりしなかったから、どれが薬草か分かるまおーちゃんってすごいなー」
「ふふ、薬草採取だけでなく、調合なども鍛えられておる。何のための英才教育なのだ。妾は賢いんだぞ」
「わー、すごい、ぱちぱち」
私は手を叩きます。
「ねーねー、まおーちゃん、まおーちゃんが今まで住んでたところって、どのあたりかな?」
「方角はあそこだ」
まおーちゃんが、はるか遠くを指差します。
「妾の城からこのウィスタリア王国の王都まで、急げば7日、普通に行けば2週間から3週間くらいだ。ここからは見えぬほど遠くにおる」
「すごいなー」
「貴様に召喚された時は一瞬だったがな」
「あはは」
そのあともまおーちゃんと2人でいろいろなことを話しました。まおーちゃんが住んでいる場所のこと、まおーちゃんの家族はどういう人だったのか、私の親や姉のこと、私の実家での生活のこと。
「まおーちゃんって、すごいところに住んでたんだね。たくさんの魔族を従えていて‥‥」
「うむ。魔族の長だから当然だろう」
「そー‥なんだ」
まおーちゃんは、ハールメント王国という名前の、魔族の国の女王です。
まおーちゃんにもたくさんの部下がいます。まおーちゃんを慕う魔族が、私の想像できないほどの数だけいるのです。300年も前から付き添ってくれている部下もいます。一番の忠臣ケルベロスたちは、まおーちゃんがいなくなったことをひどく心配しているのでしょうか。そんな魔族たちを差し置いて、私がまおーちゃんを独り占めしていいのでしょうか?
少し、罪悪感がします。
「まおーちゃん‥‥」
「うん、どうした?」
「な、何でもないよ」
このことをまおーちゃんに聞いたら、きっと「妾は今すぐ帰りたい」と言ってくるでしょう。私にはそれを聞く度胸がありませんでした。心の準備ができません。あんなに大好きだったまおーちゃんと離れ離れになってしまうのです。
せめて、今まおーちゃんと一緒にいられる時を楽しもう。そして。
「‥ねえ、まおーちゃんが私のことを好きになってくれたら、私、まおーちゃんの城で、ずっと一緒に住める‥‥かな?」
しかしそれがあまりにも小さい声だったため、まおーちゃんには伝わらなかったのでしょう。
「うん、どうした?」
「あ、なんでもない!」
まおーちゃんが振り向いたので、私は慌てて否定します。




