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エピローグ

メイと、メイのそばにいたいと言うナトリを城に置いて、私、ヴァルギス、ハギス、ラジカの4人で、あの丘に行きました。いくつもの墓標の真ん中に置かれた、ラジカとニナの立派な石碑に捧げられる花は、どれも立派なものでした。ちょうど何人かの平民が墓参りをしているところでした。墓地は平和の象徴として整備され、今でもここにお参りする人は後をたたないようです。


「自分の墓に来るのも変な気持ち」


ラジカがぼやきます。


「全然変じゃないよ。ラジカちゃんもニナちゃんもよく頑張ったから、お疲れって感じかな」


私は持ってきた花を花瓶に入れます。


「やめて、恥ずかしいから」

「いいって、いいって」


抗議してくるラジカをなだめて、私達3人は黙祷します。

黙祷が終わって振り向くと、ラジカは後ろの方で、バツが悪そうに腕を組んでました。


「‥終わった?」

「終わったよ」


ラジカは私の返事を確認してから、我先にと歩き出します。


「ラジカちゃん」


私が呼び止めると、ラジカは立ち止まります。


「地獄でニナちゃんの世話をしてくれてありがとう」

「‥‥アタシも、ニナの世話ができてよかった」


ラジカはそう言って、振り返ります。

その顔は、ひとつの大きな仕事を終えたときのように淋しげで、これからまた大仕事が始まるときのように緊張に満ちていて。

多分、私達もこれから大変になるでしょうけど、私達ならきっと乗り越えられるような気がします。


ニナとラジカの墓に供えられた赤い花が、風に揺られているのが見えました。

おそらく私達は、もう二度とここへは来ないでしょう。


◆ ◆ ◆


メイに双子の子供が生まれたことは、すぐに国中の知るところとなりました。誰もが喜び、競うように祝いました。長女はアン、次女はニナと名付けられました。

私もラジカも、しばしば城へ訪れてニナをかわいかりましたが、アンが嫉妬するとメイに言われたので2人一緒にかわいかりました。子育ては大変ですね。


ニナはやはり心が弱くて、すぐに落ち込んだり、悲観的になったり、時には家出騒ぎを起こしたりしました。そのたびにメイも、私達も苦労しましたが、愛情を込めて懸命に世話すると大人になる頃には親しい外国の家来と面会できたり、交際相手も作れるようになっていました。やはり前世のニナの面影があって、特に私はニナの一挙一動を見て懐かしんでいましたが、現世のニナは現世のニナです。自分の理想を押し付けたりせず、メイと一緒に大切に育てました。


私は聖女として各国の王族と仲良くするよう務めました。姉メイの後継ぎとなるアンとも、関係を切らさないように務めました。メイは58歳のときに崩御し、アンが後を継ぎました。メイの崩御から8ヶ月後、後を追うようにナトリも死にました。死に際に「テスペルクより長生きするつもりだったのだ」と笑顔で言っていたのが忘れられません。

アンが即位した後も、私は引き続きアンやその子との交流を続け、政治で必要な助言があれば積極的に奏上しました。

ノスペック王国は建国から十数年間はレジスタンスによる反抗などで混乱が続いていた地域もありましたが、メイやアンの尽力により平和になったようです。代わりに一部の魔族の国が勝手に人間の国に攻め込もうとする動きを見せたので、ヴァルギスからの依頼もあってこれを誅しました。


メイが国王に即位した頃から200年くらいは経ったでしょうか。すっかり人間の中年のような見た目になったヴァルギスと私は、魔王城の一室で2人になって、お茶を飲んでいました。


「もう妾たちも長くない」

「人間の寿命で考えると十分長いと思うけどね」


私がお茶をすすりながら言うと、ヴァルギスもふふっと笑います。

最後にセックスしてから何十年がたったのでしょうか。ヴァルギスにもうそんな元気はないようで、以前とくらべるとだいぶおとなしくなりました。私としてはほっとした反面、老いや寂しさも感じます。ちなみにラジカは年を取らないようで、ずっと少女のときの姿のままです。ちなみに最近は天使の仕事で忙しくて慣れてしまったのか「ラジカ」と呼んでもすぐに返事しないときが増えたので、私達も「ユアン」と呼ぶようになりました。


「そろそろ魔王の座をハギスにやって、妾は引退しようと思う」

「ハギスちゃんも、すっかり立派になったよね」

「うむ」


最初に出会ったときは人間の10歳の姿だったハギスも、今はすっかり18歳のような姿に成長しました。見た目も中身も、立派になったと思います。


「この200年で世の中はすっかり平和になった。だが、世間が勝手に平和になるのではなく、妾たち為政者、そして聖女の働きがあってのことだ。聖女アリサよ、一国の王として礼を言わせてもらいたい」


ヴァルギスが配偶者らしくなくぺこりと丁寧に頭を下げるので、私は少し慌てましたが、何度かうなずいて返事します。


「私も、ありがとう」

「えっ?」


ヴァルギスが顔を上げると、私は続けます。


「私、ヴァルギスに出会わなければ、普通に生きて普通に人生を終えていたかもしれない。ヴァルギスや他の人達に会って、一緒に苦労したり楽しんだりしてきたから、いま聖女として活動できている。ヴァルギスがいなければ、今の私はなかったかな」

「それはお互い様だ。妾も、アリサには救われた」


ヴァルギスはお茶をすすります。


ヴァルギスがハギスに譲位する頃には、私の代わりになる聖女が2人くらい現れていました。私は彼女たちに祝福を与えたあとは聖女としての旅に出るのをやめて、代わりにヴァルギスと2人で老後を楽しみました。時々ラジカも来て、そのたびに思い出話をしました。

ハギスが魔王に即位した後は、なぜかくさやの生産が増えた以外はいつも通りでした。ヴァルギスはハギスの家臣たちに、くだらぬことに国費をつき込まないよう見張って欲しいと何度も釘を刺していました。


私はヴァルギスと一緒に、世界一周旅行へ行きました。どこの人たちも、聖女の私に感謝しているようで次々とお礼を言われたり、追加の依頼を受けたりしました。ヴァルギスはそのことも織り込み済みだったようで、聖女である私を手伝ってくれました。

この頃になると魔法だけでなく科学も発達を始め、石炭や石油が生産されるようになりました。内燃機関を使った自動車や汽車が走っているのを見るたび、前世のことが思い出されます。


その100年後、私とヴァルギスはベッドの上でお互いの手を握り、ハギスやハギスの子ベルギス、家臣たちに見守られながら薨去こうきょしました。平和の礎となった2人の死に、世界中が悲しみ、葬式は大々的に行われました。ハギスはまだ幼いベルギスを葬式に引っ張り出して、さらにメイやアンの末裔であるノスペック王国の王と一緒に3人で恒久の平和を誓いました。


◆ ◆ ◆


天国で、豪華な料理でいっぱいの丸いテーブルに腰掛けた私とヴァルギスは、少女の姿に戻っていました。


「子供って体が軽いんだね」

「うむ。歳を取ると若さを忘れていけないのう」


そうヴァルギスと話していたところへ、その部屋に何人かの少女たちが入ってきます。


「あっ、いらっしゃい、ラジカちゃ‥ユアンちゃんと、ほかは‥ええと、誰?」


私の死と同時に天使の任を解かれたラジカの後ろについてきたのは、狐の獣人の少女、そして紫のロング、金髪のショートの見慣れない少女たちでした。


「みんなアリサ様の知ってる人だけど、誰だと思う?」


ラジカたちが椅子に座ったので、私は「うーん‥‥」と獣人の少女を見ます。


「もしかして、ナトリちゃん?」

「メイよ。最後に死んだとき、獣人だったの」


メイと名乗る少女は、ふんと鼻を鳴らします。隣の金髪がナトリでした。


「こら、笑ってるのか?」

「だって、ナトリちゃんが金髪っておかしい‥‥」


ギャップに笑ってしまったので、ナトリから睨まれます。

そして、その隣の紫のロングの少女は。


「ニナちゃん?」

「‥‥うん」


ニナが小さくうなずいたので、私は自分の椅子を動かしてニナに近づきます。


「ねえ、ニナちゃん、久しぶり。私のこと、わかる?」

「‥‥うん」


ニナは若干気まずそうにしていましたが、私が肩に手を置くと、ニナは私の目を見ます。


「大丈夫。私は怒ってないから」

「‥‥」

「もしかして、ずっと気にしてたの?」

「‥‥」


ニナは静かにうなずきます。私はうつむくニナの顔を覗き込むように言いました。


「私はニナちゃんに会えて嬉しい」

「アリサ‥」

「できれば来世は、ニナちゃんと一緒に生きたい。敵同士ではなくて、一緒の時を生きる仲間として」


私がニナの手をにぎると、ニナははっと驚いたように、私の顔を見ます。

そんなニナに、心いっぱいの笑顔をみせてあげます。

ニナはしばらく唇を噛んでから、ぼろぼろ涙をこぼして、泣き出しました。


大きな声をあげて、泣き崩れました。

私はニナの体を支えるように、頭を抱き上げて、何度もさすります。


「つらかったでしょ?もう大丈夫」


ニナの母メイももらい泣きをしたようで、ナトリに介抱してもらっていました。

ニナにもヴァルギスにも会えてよかった。

ここにいるすべての人に会えてよかった。


そんなことを思いながら、250年ぶりの食卓につきました。

この場にハギスはいませんが、代わりにニナがいて。

みな、前世や前前世の思い出話に花を咲かせて。




ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回作(続編)「百合姉妹が最強の魔力と技力で宇宙戦争を勝ち抜くようです」もよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n4064gx/

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