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第280話 ニナの新しい母親

「ほれ、粥だ」


結婚式から3日後の朝、窓からはまぶしい光が入ってきます。

ベッドの横に座ったヴァルギスが、粥を乗せたスプーンを私の口に運びます。


窓際には2人分の黒いラバーでできたボンテージのようなものが脱ぎ捨てられていて、ベッドの中からはものすごい湿気を感じて、何より私の頭がカンカンキンキン痛くて、ふらふらして、視線の焦点も定まりません。スプーンが二重に見えます。

体にも力が入らなくて、石のように動かなくて、粥を食べるところか、指先をビクビクさせるのがやっとでした。


「動けぬか」


ヴァルギスは私の口先を指でそっと開けて、粥を流し込みます。あまり熱くはなくて、私の喉にすんなり入りました。次々と、粥が私の口に入ってきます。


「一生に一度しか着られぬあの服を着た感想はどうだ、妾は気持ちよかったぞ」


ヴァルギスがおとといと昨日のことをまとめて話します。この部屋には2人しかいないのに、なんだか羞恥心が沸き起こってきますが、私にはそれを止める気力がありませんでした。記憶はおぼろげですが、ヴァルギスの証言は私の記憶ともほとんど合っていて、それはヴァルギスとの初夜が夢ではなく現実のものであると認識するには十分でした。


粥を食べ終わった後も、私はしばらく腰が抜けて歩けませんでした。私が何十回も失禁したり、ヴァルギスと一緒に絶頂したりしてびしょびしょにしてしまったらしい布団を取り替えるとき、私は自分が裸であることに気づきました。幸いにも取り替えの作業を行った使用人たちが女性でよかったのですが、それでも自分の裸をヴァルギス以外に見られるのは恥ずかしさがあります。使用人たちはこういうものは慣れているのでしょうか。

替えの着物を用意してもらい、ヴァルギスがそれを動けない私に着せます。


その後も私は歩けなかったので、しばらくベッドの上で本を読みながら過ごすことにしました。しかしその途上、ヴァルギスがまたベッドに座ってきて、私の頬を掴んで無理やりキスしてきます。


「今夜もやりたい」

「わ、私はもう疲れたかな‥しばらくやりたくない‥」

「何を言う、来週にはもうお別れではないか」

「3ヶ月後にはまた戻ってくるよ」

「待てない」


ヴァルギスは何度も舌を入れまくってきます。二晩続けてやったというのに、ヴァルギスはまだ元気があるようです。魔族の性欲って本当に本当にどうなっているのでしょうか。


「待って、私、本当にやりたくない、もう疲れちゃって‥」

「強壮剤を飲むか?」

「これ以上は体が壊れちゃう‥」


荒ぶるヴァルギスをなんとかなだめて、今夜は普通に寝ることになりました。ヴァルギスは肩を落として「そうか‥‥」と言いますが、私の手を掴んで指をしゃぶってきます。まだ諦めてないと言いたいのでしょうか、しゃぶられるとくすぐったくて、また私の中の何かがむすむすしてしまいます。


「股間を舐めていいか?アリサは本を読むだけでいい」

「待って、それはダメ」

「なら乳首でも構わないか?」

「それもダメ」

「頼む、妾に舐められるうちに元気が出るかもしれぬぞ」

「それでもダメ」


食い下がってくるヴァルギスが元気でうらやましいくらいです。「そうか‥」と、しゅんと肩を落とすヴァルギスの唇の谷間を、そっと指でなそります。ヴァルギスがまた指をしゃぶってきたので、私はヴァルギスの体温を感じながら、片手で本をめくります。

でもこうしていると、私、本当にヴァルギスと結婚したんだな、という実感が少しずつ沸き起こってきます。それが何ともいえぬ多幸感となって、私の心を温めてくれます。


◆ ◆ ◆


真っ白で、床も壁もみんなふかふかしている、そんな部屋の中央に柔らかい生地でできたテーブルと椅子がありました。すっかりきれいになった服を着て、ぼさぼさだった金髪もこの日はきれいにまとめられています。その少女は、椅子に座ってゆっくり本を読んでいました。

ドアのノックがして、程なくしてラジカがその部屋に入ります。


「‥薬の時間」


ラジカは手提げかばんを床に置いて、薬を取り出します。今は合計12錠を1日3回飲んでいます。発作がひどいときは20錠を超えることもありましたし、嫌がるニナの口を無理やり開けて飲ませて、口腔を隅々まで確認することもありました。すべてラジカがつきっきりで世話してあげて、今は少し落ち着いたので体の拘束を解くことができたものです。

一通り薬を飲んだニナは、はあっと息をついてコップの中の水を飲み干すと、ラジカに返します。それを受け取ったラジカは、一応ニナの口の中を確認してからそれをかばんに入れ、ニナに尋ねます。


「気分は落ち着いた?」

「落ち着いてきた」

「アリサに会いたい?」


ニナは無言で首を強く振ります。ラジカはかばんのチャックを閉めると、また続けて尋ねます。


「天国に行く?」


ニナがまた首を横に振ったので、ラジカはふうっとため息をつきます。


「本来天国に行くべき人を、いつまでも地獄に置くわけにはいかないとお達しが来た」

「‥‥」


ラジカはテーブルの上に手を置いて、少し身を乗り出して、ニナの目をじっと見ます。


「ニナ。今決めて。天国に行くか、それとも生まれ変わるか」

「‥‥っ」


ニナは少しラジカから目をそらして、逆に質問します。


「‥スラム街で虐げられながら生きたい」

「それは無理。罪もないのに地獄にいる以上、来世は幸せになる義務がある」


これはラジカの嘘ですが、事実、好きな環境を選んで生まれる権利がニナには与えられていました。


「‥‥‥‥」


ニナは黙ってうつむいてしまいます。

ラジカはまたかばんを開けて、何枚かの写真を取り出します。


「天国に行きたくないなら、来世でニナの母親になって欲しい人をここから選んで」


そこにはやはり、ラジカの知っている人の写真だけがありました。ラジカはそれを1枚1枚、テーブルの上に置きます。


「このナトリという女性は、8年後に出産する」

「別の人がいい」

「なら、エスティク魔法学校の同級生のこの子はどう?7年後に出産する」

「私の知らない人がいい。優しくされたくない」


転生先の周囲の人にとって、前世のニナのことは知りようがないのです。ラジカは少し困った顔して書類をばらばらめくりますが、ふと1枚の書類に気づいて、それを取り出してテーブルに置きます。


「このメイ・ルダ・ノスペックという女性は、3年後に出産する。この女性は知ってる?」

「‥‥知らない。誰?」


それを聞いて、ラジカは少しだけ口角を上げました。ニナはメイとほとんど面識がなく、国王に即位して苗字まで変えてしまったためにアリサの関係者だということも分からないのです。


「‥‥この女性にはすでに他の人も予約を入れているから、双子として生まれることになるが、それでもいいか?」

「構わない。できれば私が妹になりたい。長女だと、とにかく大切に育てられるから‥‥」

「分かった」


すべての話を済ませて書類や荷物をかばんにしまって、ラジカはニナから離れます。

ドアを開けて部屋から出る瞬間に、ラジカはまた後ろを振り返ります。そこでは、ニナが寂しそうに、ラジカの背中を見届けていたところでした。


「ニナ、覚えてて」

「何を?」

「ニナが生まれ変わっても、アタシはずっとニナを見守ってあげる」

「‥自分を殺した人に復讐したいの?」

「それは来世になれば分かる」


もう前世の記憶が残っている今のニナに自分を信じてもらうことはできないでしょう。

ラジカはそう言い残して、ゆっくり部屋のドアを閉めます。部屋にはまた静寂が戻りました。

次回、最終話です。

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