第25話 魔王と同じベッドで寝ました
「そーいえば、そーだ。ねえラジカちゃん、どーして私の写真を撮ってたの?」
「‥‥‥‥」
ラジカは椅子に座りますが、黙ったままです。
「自分があまり顔も知らない人にここまで写真取られたら、私だったら引いちゃうよ?」
ニナは、ラジカを責めるように言います。ラジカはしばらく考えてから椅子を立って、私の前まで来ると、いきなりひざをついて土下座を始めました。
「アリサ様、無理は承知です。どうか、アタシと付き合ってください!!!」
「‥‥へ?」
突然の告白に、その場が沈黙します。
「アタシ‥アタシ、人見知りで、この学校の入学式で初めてあなたと会った時‥あなたがアタシのハンカチを拾ってくれて、すっごく嬉しかったんです!!女同士ですが、アリサ様がレズなのは知っています!どうか、どうか私と付き合ってください!!」
私の手を握って、ラジカは寮全体に響きそうなくらい大きな声で叫びます。
「ち、ちょっと、ラジカ、うるさいよ、静かにして?」
「テスペルク、ナトリを差し置いて彼女を作るつもりか!?いやナトリも女だけどな!」
ニナとナトリが各自の感想を述べる中、まおーちゃんはなぜか嬉しそうです。
「貴様、よかったな。彼女ができて」
ぽんと私の肩を叩きます。
「ええー、まおーちゃんからかわないでよ!じゃあ私もここで告白するよ!まおーちゃん私と付き合って!私の彼女になって!」
「断る。それよりも貴様、今、最低の振り方をしたぞ‥‥」
「えっ?あっ‥‥」
私ははっと、足元で土下座しているラジカのことを思い出しました。
「ラジカ、ごめん、ごめんね、私まおーちゃんが好きだから、無理で、えっと、ごめんね」
慌て気味に何度もそう伝えます。ラジカはしばらく土下座を続けていましたが、急にぱっと顔を上げました。
「‥‥アタシは大丈夫。最初から分かってた。アリサ様は魔王が恋愛的な意味で好き」
「お、怒ってない‥?」
「怒ってない。アタシはわずかな可能性にかけただけ。後悔もしていない」
「身代わりはっや」
ニナがつっこみます。ラジカはゆっくり立ち上がって、まおーちゃんの方を向きます。
「‥‥魔王。魔王がアリサ様を不幸にしたら、アタシがいつでもアリサ様を奪い取る」
「は?‥‥いや、妾としてはいつでも奪い取ってくれて構わないのだが?」
まおーちゃんは、何を言われているのか分からないという顔をしています。ラジカは、今度は私の手を握ります。
「アリサ様。アリサ様と魔王の恋愛、アタシは陰から応援してる。好きな人と付き合えないのはつらいけど、好きな人が幸せになるとアタシも幸せ」
「あ、ありがとう‥‥」
「おい、勝手に妾の恋愛を応援するな!妾はこやつと付き合う気はない!」
嬉しそうな顔から一転、まおーちゃんはぷんぷん怒り出しました。今日のまおーちゃんは、情緒が安定しませんね。
「というわけてアタシは、アリサ様と魔王の恋愛を記録する。関係を育んで欲しい」
「だから妾はこやつの恋人でもないし、こやつと恋愛する気はない!」
まおーちゃんは騒ぎ続けています。
ニナが目を細くして、割り込んできました。
「‥‥ねえ、恋愛の方は丸く収まったみたいだけど、ストーカーの件はどうするの?」
「丸く収まっておらぬ!」
「え、ストーカーって何のこと?」
私が首を傾げると、ニナはため息をつきます。
「この部屋見たら分かるでしょ?アリサは四六時中、ずっとラジカに付き惑われて写真撮られたんでしょ?怖くないの?恐怖だよ?何か謝罪があってもいいんじゃないの?」
「え、私の恋を応援してくれるから私は嬉しいよ?」
「だから、あれとこれは別で!あああ、もう‥‥!」
ニナは興奮しすぎたようで、頭を抱えます。そんなニナを落ち着かせるべく、ナトリがぽんと肩を叩きます。
「ニナよ、このナトリにも専属のストーカーがつけば丸く収まるではないか。まずはナトリのストーカーを探すのだ」
「うん、そうだね‥‥って違うよ!?何でそうなるのかな!?」
「うん、ストーカーの話も丸く収まったな。ナトリは天才だな」
「いつ、丸く収まったのかな!?」
ニナが抗議しますがナトリはガン無視して、それから、ラジカに話しかけます。
「話は戻るけど、ケーキの代金を払った理由は分かった。でも、大金をはたいてもらうとこっちが申し訳なくなって、ラジカと付き合いづらくなるんだ。人見知りのラジカも、それは怖いだろう。どうか、金額を教えて欲しい」
ラジカはぽすんと椅子に座りました。
「‥そこまで知りたいなら教えるんだけど。確か6万ルビくらい」
◆ ◆ ◆
ニナやナトリとお金を出し合って、6万ルビのうち4万ルビが集まりました。残りの2万ルビは、明日稼ぐことにしました。
「ニナちゃんは、冒険者ギルドに行こうって言ってたね。今月のおこづかいも貯金も今のでなくなったから、ついでに稼ごうって話になったのよね」
「うむ、そうだな。人間はギルドからの依頼で魔物を倒すという。妾も魔物に関係する場所には興味がある。‥‥ところで、貴様、なぜ妾のベッドの上に座っておるのだ?」
ここは私の部屋。寝る時間、私はまおーちゃんのベッドに乗って話しています。
「ええー、ダメだったかな?一緒に寝たかったんだけど‥」
「駄目に決まっておろうが!昨日も説明しただろう?もう忘れたのか?」
「でもでも‥あっそうだ、今日、私、まおーちゃんの戦略魔法を防いだよね?」
まおーちゃんが都市全体の住民の記憶を操作するために戦略魔法を放っていたのです。それを私は結界を張って耐えました。
「う、うむ‥‥た、確かに一緒に寝たかったら妾の戦略魔法を防げ、とは言ったのだが‥妾に勝ったわけではなかろう」
まおーちゃんは何かを迷っている様子で返事します。
あれ、まおーちゃんが迷ってるってことは、私がもうひと押しすれば許してくれるパターンでしょうか!?
「ねえねえ、まおーちゃん。戦略魔法ならまおーちゃんにも勝算があるって言ってたよね?」
「う、うむ‥」
「私、その戦略魔法を防いだよね!?」
「むむ‥い、1回だけだがな‥」
「一晩くらい一緒に寝てもいいよね!?」
「むむむ‥‥」
まおーちゃんは頭を抱えだします。
「‥‥仕方ない。魔王として、頑張った者には褒美をやらねばならん」
「やったー!まおーちゃん大好きー!」
そう言ってまおーちゃんに抱きつこうとしますが、すり抜けられました。
「おい、貴様、妾を抱いていいとは言っておらぬ。ベッドの端にいろ。妾も端で寝る。今夜は一緒に寝てもよいが、貴様が妾の体に触れることは許さん」
「え、待って、まおーちゃん」
「妾は寝る」
そう言ってまおーちゃんは布団に潜り込んでしまいました。
「うう‥‥」
これはこれで寂しかったけど、何はともあれ、まおーちゃんと同じベッドで寝られます。初めてです。やったー。
私は胸をどきどきさせながら、布団の中に入りました。
「おやすみ、まおーちゃん」
月の光が、私とまおーちゃんを優しく照らしていました。
この小説のジャンル、最初は「異世界(恋愛)」にしていましたが、
続きを書き進めていくうちに、この話のメインはもしかしたら恋愛ではなく戦争のほうではないかと思ったため、
「ハイファンタジー」に変えさせていただきます。恋愛要素は引き続き入れていきます。
連載途中のジャンル変更となり申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。




