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第256話 ニナの最期

「待ってニナちゃん、私はニナちゃんと戦いたくない‥」


私は弁明するようにそう言いますが、ニナはなおも剣を振り回してきます。


「ニナちゃん、剣を振り回すと危ないよ」

「アリサ、分かってるの?これは命のやり取りよ」


ニナは、私をまっすぐな目で見つめます。

本気です。それも、魔法学校で友達同士で何か勝負するときの目ではありません。

相手が死ぬか、自分が死ぬか、生死に関わる勝負をしている。そんな目です。

ニナがこんな目をしているところ、初めて見ます。


「ニナちゃん、もう洗脳は解けたし、ハラスやシズカの力も抜けたと思うよ。私とはもう戦えないんじゃないかな。だからもうやめよう、こんなこと」


私がそう説明しますが、ニナは私にゆっくり歩み寄ります。

ニナの握る剣が、青色に、赤色に、緑色に、橙色に、黄色に、紫色に、水色に、虹のように光り輝きます。


「私は私の全力で勝負するね」


そう言ったかと思うとニナは剣を両手で握り、振り回します。

私はそれを結界で防ぎます。

私の真下の地面が割れています。

さっきほどの威力ではありませんが、それだけニナは本気だということです。


「アメリ家は先祖代々、ウィスタリア王国に忠誠を誓っている名家なの。私はその誇りにかけて、死んでもハールメント王国に降伏しない。ウィスタリア王国を滅ぼすのなら、今ここで私を殺して」

「そんな、無茶だよ、えっと、とりあえず眠ってもらうね!」


そう言って私は「ごめんね」と言って、魔法を使っているのがニナにも分かるように、人差し指と中指をニナに向けます。

すぐにニナの肩の力が抜けたように下がっていくのですが‥‥また元に戻ります。


「えっ?」


ニナは、右手に持った剣で左腕を切りつけます。流石に切り落としまではいきませんが、服が破れ、多くの血が流れ出ているのを見ると、相当深くまで切り込んだようです。


「‥私は、寝ない」


痛みと眠さで全身を震わせながら、これでもかというように目玉を大きく見開いているニナを見て、私は体が震えます。


「なんで‥どうして‥そこまでするの?私、ニナちゃんとは戦いたくないよ、だって、親友だよ‥‥?さっきのニナちゃんは洗脳されてたから戦う理由もあったけど、今は‥‥」

「私は‥私は‥」


ニナの持つ剣が震えています。


「私だって、ラジカを殺したくなかった!!」


そう叫んで、私のところまで走って剣を振り回します。

左腕は痛みでまともに動かせず、右手だけで握って、よろめきながらもぶんぶん振り回します。


「ラジカはアリサと一緒に亡命した大切な仲間で、私はラジかとあまり仲良くなかったけど、ラジカを殺したらアリサと永遠に離れ離れになるような気がして‥」

「ニナちゃん。私は何とも思ってないよ」

「ラジカは私を許してくれない」


私は、ニナが振り回してくる剣をかわします。私も素人なので分からないですが、ニナの剣の扱いは私が特に魔法を使わなくても見切りやすいですし、私とニナは長い付き合いですが今までニナが剣を扱ったと聞いたこともありません。ニナはどちらかといえば、剣よりも魔法のほうが得意なはずです。ただ闇雲に、感情に任せて振り回しているように見えます。


「みんな、ニナちゃんの帰りを待っているんだよ」

「黙って」


ニナは、私に今まで見せたことのないような剣幕で返します。

その目からは、ぼろぼろ涙がこぼれ落ちています。


「‥私は、ラジカを殺したの。アリサたちの大切な仲間を殺したの。今さら元になんて、戻れない」

「大丈夫だよ、ニナちゃんは悪くない。戦争が悪いんだよ。私たち、まだやり直せるよ!ナトリちゃんも、まおーちゃんも、みんな待ってるよ!」


私はそう叫びますが、ニナはふうっとため息をつきます。


「‥‥もう遅い」


そう言うときのニナの表情は晴れやかで、何か憑き物が取れたように、涙を流しながら笑っていました。


「えっ?」


ニナは、持っていた剣を放り投げます。

そしてうつむいて、何か呪文を唱え始めます。

ニナの周りに、真っ白な魔法陣が空気の波とともに現れます。


「‥っ、逃げろ!!」


ヴァルギスが大声をあげます。


「‥えっ?」


私はぎょとんとして振り返ります。


ニナはひたすら無心で呪文を唱えます。

ニナの家は、建国当初からずっとウィスタリア王国に仕えてきた名家であり、他国へ寝返ることは先祖の存在を否定することとして忌み嫌われていました。

他国へ寝返ることを強要された時はこれを使えと、先祖代々伝わるものがありました。

ずっとウィスタリア王国の家臣であるために使う、最後の手段。

それは、自爆。


ニナを中心として、半径5キロメートル程度に、真っ白な魔法陣が一気に広がります。

「逃げろ!」と叫ぶヴァルギスの声を、私は呆然としながら聞いていました。


「シュイーサイドボム」


ニナの最後の言葉とともに、辺り一帯は大きな爆発を起こします。

その閃光は夜空を照らすほどで、威力は湖の水を全て吸い上げ、大きな隕石でも衝突したかのような巨大なグレーダーを作るほどで。

大きな光に飲まれて、私は何が起きたか分からず、そのまま気を失っていました。


爆発の燃料は、ニナの体そのもの。

全身の血液を、精神を、そして記憶を一点に集めて。

アメリ家に伝わる一子相伝の奥義は、月の代わりに夜空を照らしました。


◆ ◆ ◆


翌日、私を抱えて幕舎に戻ったヴァルギスは、兵士から呼ばれます。


「魔王様、ハラギヌス、ウヤシルと名乗るお二人様がお会いしたいとのことです」

「ああ、あの2人か、通せ」


かくして幕舎の中に2人は通されます。2人はヴァルギスにひざまずいて、話します。


「約束通り、我々はウィスタリア王国を裏切り、エスティク陥落の手助けをしました。申し上げた通り、我々の待遇をご考慮いただければ嬉しく存じます」

「こちらこそわざわざ挨拶に来てくれて嬉しく思うぞ。これ、誰かおるか?この2人を今すぐ殺せ」


ヴァルギスのその言葉に、2人は顔を青くします。


「ま、待ってください、そういう話ではございません。私たちがいなければエスティクを早くに落とし、ミハナの会盟に間に合うことはかなわなかったはずです」

「確かにそうだ。この戦争における貴様らの功績は大きい。だが、貴様らの罪はそれ以上に大きい」


2人はぎょっとして、全身を震わせます。


「貴様らの罪は3つある。ハール・タ・マジ宮の建設費を中抜きし、多数の国民を苦しめた。王に取り入り、自らの都合のいい政策を実行させ、経済を混乱させた。王がどのような無道なことをおこなっても、諌めなかった。貴様らのせいで、多数の国民が殺された。このような愚行は、エスティク陥落に遥かに勝る。違うか?」


ヴァルギスは一歩踏み出して、2人を威嚇します。2人はすっかり縮こまって、何度も叩頭して、助けを求めます。


「魔王様、お許しを!」

「ここはどうかお許し下さい。いくらなんでも話が違います」


そう言う2人を無視して、ヴァルギスは兵士に命令します。


「このまま連れて行け」

「はっ」


すぐに何人かの兵士たちが集まってきて、2人の体を引きずって行きます。


◆ ◆ ◆


次に私が目を覚ましたのは、それから2日後でした。

私はベッドから起き上がって、周りを見回します。ここは城の中でしょうか、立派な青い壁、そして屋根付きの大きなベッドに私は寝かされていました。

すぐそばにある机の椅子にヴァルギスが座って何やら書類仕事をしている様子です。書類に何か書く手を止めて、ヴァルギスはこちらを振り向きます。


「ああ、起きたか、アリサ」


ヴァルギスは椅子から立ち上がって、私のベッドへ歩いてきます。


「ここは‥?」

「エスティクの領主城だ。アリサは3日も寝ていたのだぞ」

「3日‥ええっ!?」


私が驚く素振りを見せると、ヴァルギスはベッドに座って、私の手を握ります。


「よかった。アリサ、死にかけだったのだぞ」

「えっ?確か私はニナちゃんと戦ってて‥‥」

「うむ。ニナは自爆した。それにアリサも巻き込まれたのだ」

「えっ‥」


私は一気に背筋が凍り、体が震えるような気がしました。ヴァルギスの手を強く握り返します。


「ニナちゃんは‥‥」

「死んだよ」


ヴァルギスは目を伏せます。


「自爆の威力が思ったより強くてな、妾は自分の身を守るので精一杯だった。終わってみると、ニナは全身バラバラになって死んでいた」

「‥‥っ」


私はヴァルギスとつないでいた手を離して、両手で顔を覆います。

ヴァルギスはそんな私の背中を優しく撫でます。


「アリサが生きているだけ、まだよかった。腕と足がもけて、胸に穴もあいていた。妾でなければ治せなかった」

「よくないよ‥ニナちゃん、どうして死んじゃったの‥‥」

「うむ‥」


ヴァルギスも力なくうなずいて、今度は私の背中を抱きかかえます。


「妾も悲しい。5日という短い間だったとはいえ、妾もニナとともに遊んだ。ケーキを注文してくれたことは今でも感謝している。妾の力が及ばず、ニナを守れず申し訳ない」

「ヴァルギスのせいじゃないよ、私がもう少ししっかりしていれば‥‥」


涙が溢れ出ます。

あのときのニナに負けないくらい、溢れんばかりの涙で頬を濡らします。

ヴァルギスはそんな私に後ろから抱きついて、私にしっかり熱を伝えてくれていました。


「ヴァルギス、私、悔しい。戦争なんてなければ‥‥」

「同感だ。ミハナへの出発はあさってにしよう、今は好きなだけ泣け」


ヴァルギスの言葉に、私は返事もせず、ただ声を上げて泣き続けていました。

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