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第255話 ニナの洗脳を解きました

私たちは、自分でも信じられない速度で宙を走ります。

太陽が少しずつ下がっていくのが見えます。ニナの馬はどれだけ速いのでしょうか、それとも領主とは別の道を進んでいたのでしょうか。どちらにしろ、王都への近道はここです。この道が一番可能性が高いのです。不安になるたびに私はそう自分に言い聞かせながら、風を切って突き進みます。

普通の人なら魔法を全力で何時間も使い続けると息が切れてしまいます。でもそこは私とヴァルギスです。音も挙げず、自分たちの限界に任せて、とにかく進みます。


空が赤くなる頃、目の前に湖がありました。そして、その手前の木に馬が繋げられています。

倒木に座って、1人の少女が休んでいるのが見えました。


「‥あっ」


日光に反射して紅く光り輝くその金髪は、紛れもなくニナのものでした。


「ニナちゃん!」


私は思わず叫んで、ニナへ近づきます。と、ニナはいきなり立ち上がって振り返ると、私たちをにらみます。


「‥君はアリサだね」

「ニナちゃん、ずっと会いたかったよ。みんな心配しているよ。戻ろう」

「黙れ」


ニナは手に持っていた剣を、私に突き出します。


「私の家は先祖代々、ウィスタリア王国に仕えてきたわ。今更魔族に降伏することは出来ない」

「ニナちゃんは洗脳されているんだよ。私が洗脳を解くから、じっとしてて」

「私は洗脳などされていない。これは私の意思よ」


そう言って、ニナは剣を振り下ろします。

ゴゴゴという地響きとともに、私のいた場所の地面が割れ、大きな亀裂が走ります。


「洗脳を解くには詠唱が必要だろう、先に眠らせろ」


後ろからヴァルギスがアドバイスしてくるので、私はうなずいてニナの体に手をかざします。

無詠唱で魔法をかけた途端、ニナの周りを包む透明な膜のようなものが白く光ります。結界がかかって、私の魔法を弾き返したようです。

私の魔法に対抗できるほどの結界、未だかつでヴァルギス以外では見たことがありません。これはハラスの弟子の力ですね。私はそう直感します。

これは長い戦いになりそうだとも思いました。


「ヴァルギス、離れてて」

「分かった」


ヴァルギスの返事を聞いて少し待ってから、私はニナと目を合わせて、大きい声で言います。


「私はハールメント王国の将軍アリサ・ハン・テスペルクです。ニナちゃん、あなたに一騎打ちを申し込みます。私に負けたら、おとなしく私の魔法にかかって洗脳を解いてもらいます」


ニナは「ふ‥ふふふっ」と肩を震わせた後、顔を上げて、私の目をじっと見ます。


「私はウィスタリア王国の将軍、ニナ・デゲ・アメリ。あなたは魔王と同等の力を持つという。国のためにも、ここで倒す」

「分かったよ。恨みっこなしだよ。でも私はニナちゃんを絶対に殺さないから」


私はそう宣言すると、自分の周りに結界を張って呪文を唱えます。

ニナはその結界を割って、私に剣を振り回します。

私の結界を壊せるのは、ヴァルギスだけでした。

ハラスは一体、どれだけの力をニナに注ぎ込んだのでしょうか。


「‥‥この瘴気は、ハラスの魔力だけじゃない!?」


私はニナの攻撃をかわします。ニナの剣が地面に突き刺さると、地面は隕石でも落ちたかのように地響きとともに大きなクレーターを作ります。


「その通りよ。ハラス様だけでなく、シズカ様も巨大な力を私にお授けになられた」


あの時。私たちがハールメント王国に亡命した頃にニナはハラスから手紙を受け取りましたが、それと同時に別の手紙も届いていました。シズカからの手紙でした。

シズカは、ハラスがニナをかわいがっていることを知って、これを利用してニナをウィスタリア王国最後の砦に仕立て上げようとしたのです。

そして、ニナを洗脳したのも、シズカでした。

思えば、人格者、ウィスタリア王国最後の忠臣で知られる神獣のハラスが人を洗脳することも、その能力もありません。シズカの策略だったのです。


「そうだったんだね。シズカの力なんだ、すごいね」


私はその一言の間に、自分の周りに何重もの結界を作ります。

ニナは大きな衝撃波を作って、その結界を一枚、一枚、割っていきます。


「残念、その私は残像だよ」


残像の結界に集中していたニナの背後に私は回って、大きな炎の剣を作って、ニナに切りかかります。

ニナはそれを結界で防ぎます。

ニナが攻勢に回り、私が攻勢に回り、攻勢は目まぐるしい勢いで入れ替わります。

私の攻撃がニナの肩に切り口を作ると、ニナも負けじと私のひざを切ってきます。

いつの日かヴァルギスと戦ったときのように、私トニナは激しくぶつかり合います。


夕日が沈みます。

空には少しずつ星が広がっていきます。でも戦局は平行線をたどっていて、どちらへ傾くということもありません。

それだけシズカという人の力は強いのでしょう。私ですら互角ですから、最後はヴァルギスと力を合わせなければいけないでしょう。私はそう予感しました。でも今はニナに集中です。シズカのことは後でヴァルギスと相談しましょう。


戦いの様子を見ているヴァルギスもそんな予感はしていたらしく、つばを飲み込んで私たちを見つめます。

私の結界を割った人は、この世の中に2人しかいません。ヴァルギスと、シズカの力の一部を借りたニナです。他の人たちは、私を傷付けることはあったものの、結界を直接壊したわけではありません。ハラスでさえもトリッキーなやり方で私の結界を破きましたが、ハラスの魔力で直接壊したわけではないのです。

私の結界が傷付けられるということは、それだけヴァルギスと私にとって重大な事件なのです。


すっかり空は暗くなり、夜になりました。

私もニナもお互いに攻撃魔法をぶつけ合います。


「‥っあっ!?」


剣で何度も切り裂いてぼろぼろになった地面に転がった石を間違って踏みつけてしまい、ニナの体がふらつきます。

私はその隙を見逃しません。

早口で呪文を詠唱します。


「洗脳、解くね!」


私は右手を緑色の光で包みます。

そしてその右手をけんこつにして、ニナのほうへ向けます。

緑の光が次々と、柄がにょろにょろ曲がる槍のような形になって、ニナの体を包みます。


「く‥くっ!?」


ニナが何か声を出すのと同時に、ぴかりと大きな白い閃光が輝きます。

夜空が一瞬で真っ白になるような大きい衝撃とともに、ニナは「ああああああああああ!!!!!!」と断末魔のような悲鳴をあげます。


光が消えました。

全てが終わりました。

ニナは膝をついて、そして、うつぶせに倒れ込みます。

私はニナの方へ近づきます。


「大丈夫、ニナちゃん?」

「ん‥‥」


気絶したかと思っていましたが、ニナはわずかに体を動かして返事します。そしてふらふらと身を起こして、私を向きます。


「‥‥アリサ?」


その目は潤んでいて、今にも泣き出しそうでした。目尻が震えています。

表情豊かなのを見て、私は洗脳が解けたと確信しました。


「ニナちゃん‥ニナちゃん、よかった!」


私はそんなニナに抱きつこうとしますが、ニナは持っていた剣を振り回します。びっくりした私が離れると、ニナは剣を杖代わりにして、ゆっくり立ち上がります。


「‥‥確かに私は洗脳されていたわ。アリサに魔法をかけてもらって、なんだか体が軽くなったような気がする」

「じ、じゃあ‥」

「でも私は‥アメリ家の長女として、ウィスタリア王国を裏切ることはできない」


そう言って、立ち上がりきったニナは、杖代わりにしていた剣を地面から引っこ抜いて、私に向けます。


「私はウィスタリア王国のために、この命を懸けてアリサ、あなたを倒します」

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