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第253話 援軍の裏切り

その日も激しい攻防が展開されました。

その夜、ヴァルギスは幕舎の中で、アリサと2人きりの食事を楽しんでいました。


「ん、ん」


ヴァルギスが食べ物を口にくわえて私に差し出してきます。私はそれを舐めて、かじって、食べて、ヴァルギスと唇がふれあいます。そこでヴァルギスがぺろぺろっと舌を入れてきて、私の口の中をくすぐります。これを食事の最初から延々と繰り返しているわけですが、これって食事メインじゃなくて、キスのついでに食事してるようなものですよね。

すっかり食事は冷めてしまっていましたが、ヴァルギスと私の体温で再び温められて、甘くなって、とろとろになって、おいしいやまずいの概念を通り越した何かになって、妙にくせになってしまうのです。

ミハナの会盟まで、夜になった今日を除くともう8日しかなくて、こんなことをやっている場合ではないと自分に言い聞かせるのですが、体がヴァルギスの言いなりになって止まりません。そういえばヴァルギスと2人きりで食事するの、デート以外では初めてですね。誰も見ていない場所で2人きりになると、こうやって収拾がつかなくなりそうです。


「申し上げます」


幕舎の外から、私とヴァルギスに呼びかける声が聞こえてきます。外を警備している兵士たちは私とヴァルギスが付き合っていることを知っていますから、きっと配慮してくれたのでしょうか、幕舎の出入り口の布には一切触らず、幕舎の中の私達が一切見えない状態で話しかけてくれます。


「‥‥どうした?」


ヴァルギスが私の口から舌を離して、少々不愉快そうに尋ねます。


「はい。敵将からの使者を名乗る男が、至急魔王様にお会いしたいとのことです」

「分かった。食事が終わるまで待て」

「はっ」


急いで食事を食べ終わって、食器を片付けて幕舎の中にその使者を招き入れます。使者は地面に正座したまま頭を下げます。


「面をあげよ。妾はハールメント連邦王国の魔王ヴァルギスである。貴様は誰の使者だ、名乗れ」

「はい、私はハラギヌスとウヤシルの両名より派遣された使者でございます」

「なに、ハラギヌスにウヤシルだと」


玉座ほどではありませんが、テーブルの椅子よりは立派な椅子に座っているヴァルギスは、思わず聞き返します。ちなみに私はヴァルギスの付き人として、そのすぐそばで浮いています。


「はい。魔王様にこの手紙を渡し、お返事を拝聴したいとのことでございます」


そう言って使者は、持っていた洋紙をヴァルギスに差し出します。

数秒の沈黙があって、ヴァルギスは隣りにいる私に小さい声で言います。


「おい、聖女様」

「え、はい、私ですか?」

「付き人だろう?手紙を受け取って開けて妾に見せろ。毒がついてるかもしれぬからな」

「はい」


仮に手紙に毒が塗ってあっても、魔王御用達の医者の集団も従軍していますから大丈夫でしょう。私はその手紙を受け取ります。浮遊の魔法でもできますが、この場合は国と国同士のやり取りになる可能性もありますから、手で直接受け取るのが礼儀なのです。折りたたんであったので開いて、ヴァルギスの目の前に差し出します。

手紙には、こう書かれていました。


『私たちはウィスタリア王国の臣、ハラギヌスとウヤシルです。このたび、援軍としてエスティク防衛の任務につきました。近年の王様の振る舞いは目に余るものが多く、命令に従わない家臣や罪のない一般市民を次々と虐殺しています。このままでは私たちも殺されかねません。そこで私たちは、仁政を行い民をよく治めていると評判の魔王様の家臣の末席にお加えくださり、この世をよくしていくお手伝いをさせていただくことができないかと考えました。現在、魔王様はエスティクの攻略に苦慮されているとお聞きします。私たちが内部から動いてエスティクを撹乱し、魔王軍を迎え入れたく存じます。つきましては、エスティク陥落後の私達の扱いについて、ご一考いただきたく存じます。この手紙にご返答いただければ、折返し作戦内容を急ぎ深夜に返送させていただきます』


ヴァルギスはしばらくそれを眺めていましたが、やがて口角を上げて微笑を浮かべます。


「もういい」


ヴァルギスが合図すると私は手紙を引っ込めて、折りたたみます。


「使者よ、妾から返事の手紙を書く。少し待て」


そう言うと椅子から降りて、テーブルの椅子に座ります。私も紙とペンを用意して、ヴァルギスに差し出します。ヴァルギスはそれを受け取って、返事をすらすらと書き並べます。私はそれを横から覗きますが、2人の提案を受け入れるという内容でした。

ヴァルギスはそれを折りたたむと私に手渡します。私はそれを持って使者のところへ行って、また手渡します。ヴァルギスが言います。


「この手紙をハラギヌス、ウヤシルに渡してくれ。作戦の詳細を待っていると伝えろ」

「ははっ」


使者は深く礼をした後、立ち上がって幕舎を出ていきます。その様子を見て、私はつぶやきます。


「裏切りが出るなんて、ウィスタリア王国も終わりかな‥‥」

「ふふ、あやつらの場合はただの裏切りではないだろう」


ヴァルギスは冷めた声で言います。


「どういう意味?」

「デグルの話を覚えているか?亡命する前に魔法学校の寮で昔話をされただろう」

「あ、うん、覚えてる」

「あの2人はクァッチ3世の家臣の中でもとりわけ有名な奸臣だ。最近も悪事を繰り返して私腹を肥やしていると聞く。そんな奴らが簡単に改心するとも思えぬからな。妾の家臣になったあと、妾を利用してまた私財を肥やそうという算段だろう」

「じ、じゃあ‥」

「うむ。あの2人を妾が逆に利用する。エスティクを開城してくれるのはありがたいがな。その後は別の話だ」


ヴァルギスは肝が座っているように見えます。それを見て私は口をつぐみます。ヴァルギスは相当の覚悟を持ってあの手紙に返答したのだと思いました。なので私は、それ以上深くは突っ込みませんでした。


2時間くらい後、私とヴァルギスはパジャマに着替えることが出来ないのでテーブルの椅子に並んで座ってお菓子を食べながら会話を楽しんでいるところに、また兵士が走ってきます。


「来たか」


取り次ぎに来た兵士と入れ替わりに入ってきた使者が、ヴァルギスに手紙を渡します。

それを読んだヴァルギスは、深くうなずきます。


「了解したと伝えろ」


使者が幕舎を去ると、ヴァルギスは私に「近くの兵士を捕まえて連れてこい」と伝えます。私に連れられて入ってきた兵士に、ヴァルギスは「明日、起床の時刻に将軍を急ぎここに集めろ」と伝えます。


◆ ◆ ◆


翌朝、いつもより30分くらい早い時刻に、私はヴァルギスから叩き起こされます。


「あ‥もう時間?まだ暗いけど」

「あと30分でここに将軍たちが集まるのだ。パジャマを見せていいのか?」

「あ‥う、うん、そうだね」


私は起き上がるとヴァルギスとキスして、急いで着替えます。

果たして集まってきた将軍たちに、ヴァルギスは端から順番に命令していきます。作戦の準備は整いました。


魔王軍は20万程度の兵士を引き連れて、前陣の門をくぐって、エスティクの砦の前へ集まります。

案の定、砦の上にいる敵兵から矢が浴びせられてきます。私たちはそれを防衛したり、逆に矢を下から射上げたりして抵抗します。大量の矢が行き交います。その中には、魔力の加わった速い矢、遠くまで届く矢、火のついた焼夷弾のような矢も多く混じっていましたが、そこは私やルナたち魔術師が懸命に働いて防ぎます。

そうして、約束の時刻が来ました。

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