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第243話 エスティクを目指して

降伏や占領から数日後、私たちはデ・グ・ニーノを出発して、エスティクへ向かいます。

ミハナで諸侯と会盟することになっているのですが、そのミハナまでの道中にエスティクは位置します。言わずもがな、私とメイの生まれ生活した土地であり、魔法学校でみんなやヴァルギスと出会った、思い出深い土地でもあります。


「結局、手紙の返事来なかったなあ‥」


私はぼんやりと上を仰ぎ見ます。私たちは戦争の前にニナへ手紙を送ったのですが、その返事がまだ来ていません。まあ、戦争の混乱もありますから本人には届いてないかもしれないですし、仮に届いていても返事の手紙が行き違いでウェンギスに着いてしまったのか、それとも途中で捨てられたか。戦争中だから仕方ないとは言え、返事が来ないというのは私たちを不安にさせるには十分でした。


昼食休憩の時、ルナに「ずっと魔法を使っていて疲れないの?」と聞かれました。この手の質問は聞き慣れていますので、いつも通りの内容を返答しているところへ、ラジカが駆け寄ってきました。私はルナとの話を中断して、ふわりと浮き上がってラジカと同じ目線まで浮きます。


「どうしたの、ラジカちゃん?」


ラジカはこくりとつばを飲み込んでいます。何か重大な話をするかのように、真剣な眼差しで私を見つめています。それを見ましたから私は地面においてあった自分の食事を浮き上がらせて、ルナに「すみません、入用が出来ました。失礼します」と言います。

ラジカが勝手に歩き出したので、私もその後についていきます。けっこう早足で、周りに兵士のあまりいないすいているエリアを意識して選んでいるようでした。


「どうしたの?」


ラジカの足が止まると、私は尋ねます。ちょうどここは中陣の近くのエリアで、向こうの方にはナトリもちらちら見えます。ナトリがこちらに気づいたようで「どうしたのだ?」と駆け寄ってきましたので、ラジカは手招きします。


「マシュー将軍には伝えたけど」


ラジカはまず前置きして、それから何か言おうとしたところで、またためらうようにそっぽをむきます。


「言いたくないなら言わなくていいんだよ」


私が声をかけますが、ラジカは首を横に振ります。


「これは、アリサ様もナトリも、もしかしたら魔王も、みんな知らなければいけないことだと思う。魔王にはマシュー将軍を通して報告が行くと思うけど」

「うん」

「アリサ様もナトリも、よく聞いて。アタシたち、これからエスティクへ攻め込むでしょ?」

「うん」

「その大将が、ニナ」

「‥‥えっ?」


私はナトリとお互いの顔を見合わせます。そして、すぐさまラジカをむきます。


「本当?」

「うん。カメレオンで探ったけど間違いはない」

「え‥ええっ、じゃあ私とナトリちゃんとラジカちゃんのみんなで行けば、降伏してくれるかな?」


私は期待を込めて明るい声で言いますが、ラジカはまた首を振ります。


「洗脳されている」

「えっ?」

「ニナは洗脳されている。頭の周りに、黒いもやが見えた」

「そ、それって‥‥」


私は自分の声が震えているのに気づきます。

ニナの洗脳を解かないと、ニナと戦うことになってしまう。

私にとってニナは古くからの友達で、親友でした。勉強を教え合ったり、寮や学校の情報を交換し合ったり。エスティク魔法学校にいる間、私の生活はニナと切って離せないものでした。ですから、そのニナと戦うことになると聞いても、すぐにぴんとはきませんでした。あまりにも非現実的な響きがしたのです。


「‥‥ま、まあ、なんとかなるんじゃない?」


私はごまかすようにピーナッツをかじってから言います。が、ラジカは再三首を振ります。


「そんな甘い話ではない」

「えっ?」

「これはまだ報告してなくて、調べている途中のことだけど、ニナはハラスとの繋がりがあることが分かっている」

「ハラスって、確か‥‥」


ウィスタリア王国建国時からずっと王国の守り神であった神獣です。ウィスタリア王国最後の忠臣と呼ばれ、神獣由来の絶大な力を持っていて、ヴァルギスですら対抗の難しい難敵でしたが、ハノヒス国で殺されました。

そのハラスの弟子となれば、ハラスの力の一部を分けてもらっているので、さそ強い力を持っているのでしょう。


「‥大丈夫だよ。私はハラスの弟子を何度か倒してるし、ニナちゃんも絶対に倒して、洗脳を解いてやるよ。ラジカちゃん、安心して」

「‥‥」


私が軽い調子で言いますが、ラジカはまだどこか不満げに、眉をひそめています。そして、「う‥うん」と、半ば渋々うなずきます。


◆ ◆ ◆


エスティクの領主城では、大広間で玉座に座る領主に、ニナがひざまずいていました。


「ニナといったか」

「はい。今回のエスティク防衛戦の総大将をつとめる、ニナ・デゲ・アメリでございます」


その名を含むように確認して、領主は尋ねます。


「防げると考えるか?」

「はい。ハラス様から授かったお力があれば、必ず」

「そう言えばお前はハラスの弟子と聞いたが」

「はい。幼少時に武芸を教えてもらっておりました。その時にハラス様から、私はウィスタリア王国危機のときに重要な役割を担うだろうと予言され、去年にはハラス様から手紙を通してお力を授かりました。今、その力を活かす時が来たと考えます」

「ほう、楽しみにしているぞ、ニナよ」


領主はまた笑います。ニナは「必ずや」と答えて、頭を下げて大広間を出ます。


あの時。私たちが亡命した時、ニナのもとにハラスから一通の手紙が届きました。そこには、もうすぐウィスタリア王国は崩落の危機に陥ること、その時に使えと指示された魔法陣が記されていました。その魔法陣を起動すると、ニナは不思議と体の奥からみるみる力が湧いてきました。それと引き換えに。


大広間を出てからそう回想していたニナとすれ違ったメイドが、急にふらついて、お盆に乗せていた紅茶のポットを落とします。


「あ、ああっ」


ポットはニナの足元まで転がりますが、ニナはそれを踏みつけます。

ガチャンという音とともにポットが豪快に割れますが、ニナは立ち止まりもせず、そのまま先を進んでいってしまいます。


◆ ◆ ◆


魔王軍は、数日後にエスティク郊外まで到着しました。

エスティク。亡命してからもう1年半になるでしょうか、私が倒した山の残骸、そしてはるか向こうには私とメイの生家もあります。陣営の途中、私は魔法を使って早々に自分の幕舎を組み立て終わると、ふわりと高くへ浮かび上がります。少しずつ高度が上がり、兵士の頭上よりも高くなって、エスティクの町全体が見える‥‥と思ったのですが、エスティクの都市部の前には、今まで見たことのないような立派な砦がそびえ立っていました。その砦には、ウィスタリア王国の青い旗がそびえ立ち、何人もの兵士たちが警備していました。

おそらく今回の戦争をうけて急造された砦でしょうか、それにしてはよくできています。砦は魔王軍の進軍を妨げるほどには横に長くて、エスティクの都心部をしっかりガードしていました。

戦争がなければ、こんな悲しいものもできなかったのに。砦ができる前のエスティクの町を知っている人として、私はやりようのない失意とともに、大きくため息を漏らしたのでした。


同じ頃、その砦の屋上に、ニナは立っていました。ニナは、敵陣の中から1人浮かび上がる私を見つめていました。

あの人は敵。友達などではない。

遠く私を見つめるニナの表情は、どこか淋しげで、悔しそうで。


「大丈夫でしょうか、ニナ様?」


近くにいた兵士がニナに尋ねます。


「大丈夫よ、問題はない」


ニナはそう言ってぷいっと方向転換して、砦の階段をゆっくり下ります。

忙しくて更新できてなかった‥‥すみません。。

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