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第21話 魔王の大好物(2)

(耐えろ、妾よ。弱みを見せるな。ここで弱みを見せたら、奴らに利用される‥特にアリサは危険だ、妾の弱みを利用して結婚を迫りかねない‥‥女同士が結婚したら魔族王家の後継ぎはどうなるのか?いや、ハクの遺した子がいたはずだが‥ううむ、うう〜っ、とにかく駄目だ!)


まおーちゃんの、ハンバーグを豪快に刺したフォークを持つ手が震えています。

4人の間に、いや、店全体に妙な緊張感が走ります。


1時間後。まおーちゃんの前には、大量の小皿が積み上げられていました。モンブランをたいらげたまおーちゃんは口の周りを汚したまま「次!次はないか!」と店員に声をかけます。


「め、メニューを凝視してたからもしかしてとは思ったけど、ま、まさかあんなに好きだとは思わなかったな‥」


ニナも引き気味にそう言います。


「あははは‥‥」


さすがの私も、そうやって笑うしかできませんでした。

まおーちゃんは、なにかのひもが切れたように、ケーキを無我夢中でぱくぱく食べ始めて追加注文しまくったのです。

呆然とそれを見つめていた私たちでしたが、ニナがはっと気付いて私に耳打ちします。


「えっと‥お金、大丈夫?」

「あっ」


私も顔を青ざめます。私たちは貴族の子供ですが、贅沢できるほどのお金を持っているわけではありません。さっき帽子や服などを買ったので、残金があまりないのです。

ナトリもそれに気付いたのか、引き気味ながら冷や汗をかいているのが伝わります。

と、その時、次のケーキを持ってきた店員が一言、


「申し訳ございません、これで在庫はおしまいになります」


私たちはお互いの顔を見合わせました。お互い、焦燥している様子です。まおーちゃんが最後のケーキを食べ終わったら、私たちはお金を払わなければいけません。一体どれだけの額が請求されるのでしょうか。友達や親にどれだけ借金しなければいけないのでしょうか。


「ぷはーっ、美味であった!」


まおーちゃんが満面の笑みでそう言います。満面の笑みを見るのも初めてでしたが、今までずっと上品に振る舞ってきた人とは思えないほど、口の周りに食べかすがついていました。


「ま、まおーちゃんはケーキが好きなんだね」

「4日間ケーキを食していなかったからな。1日1個はケーキを食べないと死ぬ病なのだ」


そう言って笑うまおーちゃんの口にナプキンをつけて、汚れを取ってあげます。

行儀のことは置いといて、今はそれよりも重大な問題があります。お金どうしよう。

重い雰囲気になっている私たち3人のもとに、店員が来ました。


「ご注文は以上でしょうか?」

「は、はい、でももうちょっとしゃべっていたいなって」


ニナがあわてて取り繕うように言いましたが、その後の店員の言葉で、みんなが目を点にします。


「かしこまりました。これまでのお会計は結構です」

「は、はい?それって、どういうことですか?」

「皆様にお支払い頂く必要はございません」

「えっ、どうしてですか?」


私が意を決したように尋ねると、店員はさらに続けました。


「実は先程、別のお客様がいらっしゃって、この席の皆様の分もお支払いいただきました」

「はい!?え、えっと、どのような人でしたか!?」


私は思わず立ち上がって聞きます。


「ええと‥赤髪でツインテールでしたね。お知り合いでしょうか?」

「ラジカ!?」

「それから、金額はあなた達には伝えないでくださいとも言われております」

「ラジカ!!?」


ニナが顔面蒼白で「メニューの冊子をもう一度見せてもらえませんか?」と店員に尋ねますが、店員は笑顔で首を横に振りました。


「ニナ、最初のショートケーキ、いくらって書いてたか覚えてる?」

「覚えてない‥‥」


私とニナは、お互いの顔を見合わせます。はっと振り返って、まおーちゃんの前に大量に積まれている皿の数を数えようとしましたが、それもしっかり店員たちが手分けして持っていってしまいました。


「‥‥‥‥どうしよう」

「‥‥アリサ、ラジカとは仲いいの?」

「‥‥は、話しかけても無視される程度の関係かな?」

「私も‥‥ぶっきらぼうな人って感じ‥‥ナトリは‥‥?」

「ナトリもあいつのこと、よく知らない‥‥」


ナトリも頭を抱えています。あまり話したことのない相手にお金を全部持たれてしまいました。ラジカは一体どういうつもりなのでしょうか。これからどんな無茶振りをされるかわかりません。

私たちがそんな暗い雰囲気になっているところを、まおーちゃんが声をかけました。


「貴様たち、ケーキを頼んでくれて妾は嬉しい」


魔王らしい気高さもなく、上品さもなく、そこにあったのは、にっこり輝いた普通の女の子の笑顔でした。


「‥うん、まおーちゃんが喜んでくれて私も嬉しい」

「こら、抱きつくな、離れろ!」


まおーちゃんは笑顔から一転、またいつも通りの顔に戻って私をにらみます。全身に電流も走ります。ううっ、抱きつくんじゃなかったな。


「ま、まあ、今から後のことを考えても仕方ないよね!とりあえず、ここ出よ?ねえニナ?」

「うん、それがいいかな〜って」


ニナもナトリもまおーちゃんも立ち上がります。店の人に挨拶して店を出ようとしたその時。入り口から入ってきた少年にぶつかりました。


「この店にいる人たち‥‥そこを動かないでください!」


その少年は、青く格好いい服のうえに、マントをつけていました。

後ろには、魔法使い、戦士、僧侶が控えています。

なんだろう、この4人、会ったことはないけど既視感がします。


「も、もしかして勇者様ですか!?何年か前、王都で壮行会をなさっていた、あの‥‥」


ニナが言うと、勇者と呼ばれた少年はうなずきます。


「えっ、勇者って、あの、魔王を倒すために派遣されたっていう、あの‥?」


私は目をくるくるさせながらニナに聞きます。ニナは「そうだよ」と短く言いました。


「あなたたちも、さっきまで座っていた席に戻ってもらえますか?」

「は、はい」


私たちは、勇者に言われたとおりに席に戻ります。まおーちゃんは、何かを考え込んでいる様子です。


「どうしたの、まおーちゃん?」

「察しろ」


まおーちゃんは苛ついたように、自分の帽子の端を掴んで、下へ引っ張ります。

店員もびっくりしている様子です。


「これはこれは‥‥まさか勇者様でしょうか!?」


勇者と呼ばれた少年は、後ろに控えている魔法使いに尋ねます。


「本当に、ここで間違いないか?」

「はい、ここから強い魔力を感じます。魔王ところか、それすらも超越した強大な‥‥」


魔法使いに確認をとった勇者は、店員や客たちに呼びかけます。


「この中に、強大な力を持った魔族‥‥あえて言うなら、数日前に逃走騒ぎを起こした魔王がいるかもしれません!安心してください、私どもが1人1人調べ、発見次第倒します!」

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