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第215話 夜襲には夜襲を

翌朝。私たち前陣の将軍は、マシュー将軍の大きな幕舎に集められます。私とルナの部隊はいつも通り後方支援でしたが、マシュー将軍は前方に配置するいくつかの部隊に命令を下しているようでした。

その頃、オルホンの都市では、そこを守る領主が家臣と相談していました。


「魔族が大軍を繰り出し、砦の前に構えている兵は60万という。対する我々は砦の兵も含めて8万しかいない。王都にも援軍を打診したが断られた。勝つ自信はない、ここは潔く降参すべきだろうか」

「お待ち下さい、領主様。聞くところでは、敵は2ヶ月後にミハナで諸侯と会盟する予定のようです。この予定を潰すだけでも、私たちの勝利ではないでしょうか。会盟がなくなれば敵は増援を失い、退却するしかなくなるはずです。まずは兵を送り、長期戦に持ち込むべきです」

「‥うむ、その言葉、信じていいだろうか」


領主は家臣の言を採用し、砦に援軍を送ることにします。


「ところで旧道だが、あれだけの大軍がいればあそこを通って攻め込んでくることも予想される。砦と違ってこの都市部は無防備だ。旧道の出口も警護すべきだろうか」

「いいえ、我々の兵力も限られ、今は砦を守るだけで精一杯です。敵が旧道を使わないか監視しつつ、今は砦の守備に集中するのが賢明でしょう」

「そうはいっても‥うーむ‥よし、そうだな、罠を仕掛けておけ」

「はい」


別の兵士たちが動員され、旧道の出口付近に落とし穴を掘る部隊が派遣されます。


◆ ◆ ◆


砦を守る総司令官は、60万の大軍を前に会議室で、テーブルを他の将軍たちと一緒に囲み、作戦会議を繰り返していました。


「空堀があるとはいえ、大量の兵力差は覆せない。この砦は確実に破られる。領主様からは2ヶ月以上の長期戦に持ち込めという指示が来ているが、どうしたものかのう」


ここで1人の兵士が入ってきて、総司令官の椅子にひざまずきます。


「司令官様、申し上げます。敵が妙な動きをしています。東側の密林を焼き払っています」

「何!?」


その兵に連れられて、総司令官や将軍たちは砦の城壁の屋上の廊下に出て、敵陣のある北の方を見ます。

確かに、東の方にある密林が燃えています。


「敵は東側からこの砦を迂回しようとしているのか?」


旧道のある西側と違って、東側を通るには大量の有害な寄生虫や猛獣たちのいる密林を通って、崖を上り、桟道を通らないと進むことができません。それでも、一番の障壁となる密林さえ燃えてしまえば、1ヶ月のうちにこれを突破できることは可能になるでしょう。総司令官は燃え盛る炎を見て、焦りをつのらせます。


その翌日、砦を守る兵士たちの中では妙な噂が流れていました。敵陣は東側のほうにだけ関心が向いていて、西側の警備は薄いということです。

総司令官は次に、斥候を放って敵陣の様子を探らせました。


「確かに敵陣の西側は警備が手薄ですし、幕舎もまばらです。西側からは誰も襲ってこないと思っているようです」

「なるほど。西側に隠れている旧道には気付いていない様子か?」

「はい、間違いはないと思います」


斥候の報告を聞いて総司令官はほっと一息つきます。


「司令官様、我々は寡兵、敵は大軍です。ここは敵の虚をついて西の旧道を使って夜襲を行い、大きな損害を与えましょう」


将軍たちの中からこのような意見が出てくるのも時間の問題でした。総司令官は「うむ」とうなずきます。


◆ ◆ ◆


その話し合いの様子をカメレオンを通してぱっちり把握していたラジカは、すぐに幕舎へ行って、マシュー将軍に報告します。


「なるほど。領主が旧道の出口に落とし穴を掘るのは考えていなかったが、おおむね想定の範囲内だ。ソフィーよ、どうするか?」

「プランBでいきましょう。夜襲には夜襲で返します」

「うむ。今すぐ将軍を集めろ」


こうしてマシュー将軍の幕舎には、私を含む将軍たちが集められます。


「情報源によると、敵軍は今夜夜襲を仕掛ける。おそらく我々が大軍であることから、敵はほとんどの兵を使って襲ってくるだろう。我々は西側で待ち伏せし、敵を十分深くまで引きつけてから襲う。その間に別の部隊は敵の砦を攻め落とす。これから個別に指示を出す。二度は言わないからきちんと聞け」


そうして、マシュー将軍は個々の将軍に指示を出します。ルナと私の部隊は、普通に後方支援でした。うん。まあ、閃光弾で敵の視力を奪うのも敵の夜襲軍に気付いて城まで引き返される可能性がありますし、浮遊魔法を使って空挺兵っぽいことをやるのも閃光弾が使えない以上敵兵も夜目を利かせるでしょうから見破られる可能性ちょっとあります。

それにしても、今日は夜襲があるからヴァルギスと会えませんね。夜襲の日は会わないとあらかじめ約束していますし、マシュー将軍の作戦はヴァルギスにも報告が行くでしょうから私から連絡しなくても大丈夫ですね。でもメイのところには昼間でもいいから行っておきませんと。


◆ ◆ ◆


誰もが寝静まったであろう午前1時頃。

砦の総司令官は、ほぼ全員である7万の兵を引き連れて、旧道を通ります。もちろん旧道の入り口に領主によって落とし穴が仕掛けられていることは事前に共有済ですから、総司令官はそれを避けて進みます。

そうして旧道を進みます。はじめは狭い道でしたが、少しずつ道幅が広くなっていきます。


「うむ、報告通り敵陣は西側がスカスカだな」


茂みの間から敵陣を覗いた司令官は、斥候の報告が正しかったことを認めます。篝火かがりびはありましたが幕舎の数自体が少なく、疎らになっていて、見回りする兵士もほとんどいません。


「行け!」


総司令官の号令とともに、兵士たちが喚声を上げて陣の中へ駆け出します。篝火を倒して幕舎に火をつけ、逃げ惑う兵士たちを追いかけます。陣にいた兵士たちはみな同じ方向に逃げていましたが、総司令官は大軍に切り込むことに緊張感を持っていたため、それには気づきませんでした。

馬に乗った総司令官は逃げ惑う兵たちを次々と斬り伏せ、後続の兵たちを誘導します。


「‥‥うん?」


その時、軍鼓ぐんこの音とともに、右から、左から、前から、部隊が現れます。

奇襲したにもかかわらず用意周到に三方から一斉に攻めてくる敵を見て総司令官は罠だと確信しましたが時すでに遅く、夜襲部隊の先頭にいた兵士たちは悲鳴を上げて、次々と陣の兵士たちに倒されていきます。

総司令官は馬から落とされ、そのまま捕縛されました。


夜襲部隊の後ろの方にいた将軍や兵士たちは前方の異変に気づき、砦に戻ろうと、慌てて旧道に駆け込みます。

しかしその兵士たちを待っていたのは、敵軍ではなく、自身の領主が掘った落とし穴でした。統率する将軍はもちろん落とし穴がどこに掘られているかを把握していましたが、混乱の中で後ろから逃げてきた兵士たちが次々となだれ込み、背中を押してくるため、前の方にいた兵士たちは悲鳴を上げて次々と穴に落ちていきます。

それを乗り越えた後続の兵士たちを待っていたのは、ハールメント王国の深紅の旗が刺さった砦でした。


「敵兵だ、射よ!」


先回りして砦を陥落させていたハールメント王国の将軍・カインが兵たちに命令して、城壁の上から矢の雨を降らせます。驚いた兵士たちは、次はオルホンの都市部に戻るべく、急いで南へ駆け込みます。

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