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第214話 幕舎で魔王と話しました

メイとの話を一通り終わらせた後、私はその幕舎を離れて、いつものように、ヴァルギスのいる幕舎へ向かいます。魔王というだけあってさすがにその幕舎は厳重に警備されていて、しっかり周りを見張る兵士が多いです。私から声をかけるまでもなく、複数の兵士たちのグループが私の行く手を阻むように質問してきます。


「魔王様に何か御用ですか?」

「はい、お会いしたくて」

「失礼、面会の記録を取りますので、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「アリサ・ハン・テスペルクです」

「アリサさんですね‥ああ‥」


兵士たちは何かを察したかのように私に頭を下げます。それから少し気まずそうに、道を開けてくれます。


「現在、来客はございませんから‥‥一応、取り次いで参りますね」


私は「ありがとうございます」と言って、取り次ぎに行った兵士を見送ります。私とヴァルギスの交際の話、ここまで広まっているのでしょうか。出陣して1日目の面会の時もこんな調子でしたし、知られていると思ったほうがいいですね。心なしか、私とヴァルギスが幕舎の中で2人きりでいるときに兵士が取り次ぎに来たことはこれまでなかったような気がします。これは多分、夜遅いからですね。

私は兵士から許可をもらって、ヴァルギスの幕舎に入ります。


「待っておったぞ」


ヴァルギスはテーブルの椅子には座らず、幕舎の入り口近くに立って、私をぎゅっと抱いてきました。ヴァルギスのさわやかな香水の香りと、それに混じった汗の匂いで、私は全身がむすむすするような不思議な感じにとらわれます。私もヴァルギスを抱き返します。ヴァルギスとは丸一日会っていなかったので、お互いの愛情を確かめあってしまうのです。


「‥こんなところ、取り次ぎの兵士に見られたら‥どうしようかな」


私は頬を赤らめながら言うのですが、それに対してヴァルギスはばっさり答えます。


「安心しろ、監視の兵たちには交際のことを伝えている。アリサがここを出るまで、誰も取り次ぎに来ないぞ」

「え、ええっ、ヴァルギスがばらしたの!?」


私は目を丸くして、思わずヴァルギスの体から離れます。


「うむ。一応他言無用とは言っておるが、この話が広まるのも時間の問題だろう」


そう言ってヴァルギスはテーブルの椅子に座って、私にも椅子に座るよう手招きします。私も招かれるように座ります。


「‥でも、一体どうして」

「言わなければあらぬ推測もされかねないからな。噂が暴走するのは避けたいところだ」

「で、でも、伝えたら余計広まったりしない‥?」


今まで私が話していた兵士たちも、私とヴァルギスの交際のことを噂越しではなく明確に知った上で対応していたのでしょうか。そう思うと、恥ずかしくなってきます。私は肩を丸めて、ヴァルギスの返答を聞きます。


「それはそうだ。だが、この周囲には信頼できる兵士だけを配置しておる。もともとそういう予定だったが、妾が副営長に命令して兵士たち1人1人の忠誠心を細かく厳しく調べ上げた上で選定した。兵たちの口は固いと信じておる。少しは噂が広まるのも遅らせられるだろう」

「そ、そういうものかな‥‥ねえ、マシュー将軍にはばらしてない?」

「ばらしたのは監視の兵だけだ。マシュー将軍は噂を聞かない限り知らないはずだ。もっとも忠臣は妾に関する悪い噂は否定するだろうがな」


そう言ってヴァルギスは、テーブルの上に置いてあったコーヒーカップにコーヒーを入れます。それから1つ、何か小さい袋の封を切って、白い粉末をさらさらと入れて、私に差し出します。


「飲め」

「ありがとう」


私はそう言って、コーヒーを一口、二口飲みます。


「これ、おいしいね。ねえ、さっきの白い粉は何?砂糖かな?」

「惚れ薬だ。媚薬ともいう」


ヴァルギスがあまりにも平然と返したので、私は「へえ、そうなんだ」と言ってもう一口飲みかけて、慌ててカップをテーブルに置いてゴホゴホと咳き込みます。


「え、ええ、ちょっと待って、惚れ薬なの?」

「だから惚れ薬と言っておる。飲んだな?」

「ちょっと、あっ‥‥」


私は手で自分の胸を押さえます。ヴァルギスの顔を見るたび、心臓の鼓動がさらに荒ぶってきます。顔が真っ赤になってくるのが分かります。私は「あ、う‥」と変な声を出して全身を震え上がらせます。

その様子を見ていたヴァルギスはふふっと笑って、両腕を広げます。


「アリサ、貴様の意思で妾にキスしてくれ。生まれたままの姿で交わろうではないか、過ちの責任はもちろん一生かけて償ってくれるな?」

「ち、ちょっと、こんなの、私の意思なんか、じゃ‥‥」


そう言いつつも、私の体は勝手に椅子から立ち上がり、ふらふらとヴァルギスの方へ、酔っぱらいのような足取りで近づいていき‥‥。

あとちょっとでキス、といったタイミングでヴァルギスはいきなり頬杖をつきます。


「冗談だ」

「‥‥え、え、ええっ‥?」

「ただの砂糖に決まっておるだろう。アリサは騙されやすいから面白い」


ヴァルギスはそう言って自分のコーヒーを入れ、小袋に入っていた白い粉の残りを入れてスプーンでかき混ぜて飲みます。

それを見て私はもっと恥ずかしくなって、手で顔を覆って自分の椅子に戻ります。


「ひどいよ、ヴァルギス、嘘を付くなんて‥‥」

「‥‥まあ、本物の惚れ薬があったとしても、あれの原理は魔力だ。アリサには効かないだろう、安心しろ」

「むぅーっ‥」


私は唇を尖らせて、コーヒーの残りを飲みます。


「‥して、前陣の様子はどうだ?」

「えっ?それってマシュー将軍のほうから報告してくるんじゃないの?」

「雑談だ、雑談」

「うーん、みんな変わりなく仲良くしてるよ」

「ふむ、そうか」


そう言ってヴァルギスは、安心したのか微笑みます。


「あっ、今日は私、兵士たちを連れて狩りに行ったんだよ。いつも乾燥した食事ばかりじゃなんだから、敵兵が視察に来てないかの調査も兼ねて、いくつか獲物を捕まえて、それでね‥」

「ほう、それは妾も食べたかったな。献上なら疑われないだろう。今度、アリサのとった個体を献上してくれ、マシュー将軍にも話は通しておく」

「えへ、嬉しいな、そうするよ」


そうやって、しばらくの間、話が弾みます。その日あったこと、天候、敵の動きや自分たちの作戦、兵士やルナと雑談した内容など、愛する人との話題は尽きません。


「‥そろそろいい時間だね。私、そろそろ帰るよ」

「待ってくれ、帰る前にいつものを‥」


ヴァルギスがうつむいて、頬を赤らめて言います。


「うん、分かってるよ」


私とヴァルギスは椅子から立って、近づきます。

ヴァルギスが私の頬を両手ですくい上げるように掴んで、自分の唇をきゅうっと私のそれに押し付けます。

しばらく、ヴァルギスの体温が唇越しに伝わってきて、何とも言えない快感が私の中をくるくる回ります。


「んっ‥んんっ‥‥」


出陣して2人きりでキスするようになってからは、ヴァルギスは舌を入れてきます。熱くて、くすぐったくて、むすむすして、ぬるっとしたその感触は、どうしても慣れられなくて思わず声が出てしまいます。

ヴァルギスは私の口の中を全部舐め回します。ヴァルギスの手はしっかり私の顔を掴んで離しません。私はふわふわ浮き上がってしまいそうなほど何とも言えない快楽に襲われて、少しでも油断したら気を失いかねない快楽に襲われて、じっと集中しているしかありませんでした。


「ぷはっ‥」


長い長いキスが終わって、ヴァルギスはやっと口を離します。


「‥明日の夜まで会えないと思うと寂しい」

「ハラスとの戦争中は何日も会えなかったでしょ?」

「うむ‥う‥最後の方は毎晩夜這いしてたがな」


ヴァルギスはそれだけ言って、微笑みます。私も笑って、「それじゃおやすみ、ヴァルギス」と言って、幕舎を出ます。ヴァルギスも手を振り返してくるのが見えました。

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