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第201話 メイの統率(1)

「わ、私、本当にヴァルギスと結婚しちゃうんだ‥‥」


頬を赤らめてうつむいてしまう私の手を、ヴァルギスはさらに強く握ります。


「これはあくまで占いだが、この占いが当たれば、アリサがこの戦争で死ぬことはないと思っている」

「‥‥えっ?」

「考えてみろ。妾とアリサは結婚する運命で、今はまだ結婚していない。戦争中にアリサが死ぬと、妾たちは結婚できず、占いが外れることになる」

「あっ‥‥」


確かにそうですね。その占いが当たれば、私は死なないということになります。でも。


「でも、お姉様やナトリちゃん、ラジカちゃんについては何か言ってたの?ニナちゃんは?」

「そのことについては何も聞いてない。あやつらは生き残るかもしれないし、死ぬかもしれない」

「そんな‥‥」


私は肩を落とします。

メイ、ナトリ、ラジカ。そしてニナ。4人とも、私がよく知っている人です。そんな人たちが死んでしまって、永遠に会えなくなるなんて想像もつきません。

考えたくないけれど、私の両親が処刑されたことを考えると、この問題は身近に、生々しく感じられてくるのです。


「‥だから、友人と過ごす一日一秒を大切に過ごして欲しい。この戦争にはハギスも同行する。大切にしてくれ」

「‥‥分かった」


私は、あまり力はこもってなかったかもしれませんが、おごそかに、真面目に、重い声で返事しました。


「それと、占いはあくまで占いだよ。私も、いざという時にはヴァルギスのために死ぬ覚悟だよ。自分の命も大切にする」

「うむ、いい返事だ」


ヴァルギスはそう言うと、私の手をにぎるのをやめて‥その手でぎゅっと私の胴体を掴むように、強く抱きしめます。


「‥‥死ぬな」

「ヴァルギスこそ、だよ」


私はヴァルギスを抱き返します。


◆ ◆ ◆


翌日。乗馬した私とメイが行った先は闘技場ではなく、王都を囲む長城の東側にある広い荒野です。私たちの後ろには、1000人の人間の兵士たちが列を作ってついてきています。

メイは副将役ですが、メイの主将になる人は決まっていないので、今日は私が代わりを務めます。私も主将あまり経験ないんだけどなー。


「こうして人を率いるのは何度かやりましたが慣れないです」


私が言いますが、メイはあっさり返します。


「あたしは慣れてるから大丈夫よ。こんなにたくさんは初めてだけどね」

「えっ、慣れているんですかお姉様!?」

「ええ。あたし、これでも亡命する前はリーダーをやってたのよ。まあ、同期をまとめる役だけどね。軍隊も5人グループを5つ集めたグループ、それをさらに5つ集めたグループとかがあるんでしょ?あたしの直下の部隊長が8人いるから、彼らに直接指示するだけじゃない。簡単よ」

「うう、そういうものなんですか‥‥」


階層は分かっていても、自分の後ろに100人とかじゃない1000人単位で人がついてくると思うのはやっぱり慣れないです。この人達を私は守らなければいけない、将軍として何かあった時は責任を取らなければいけない。そう思うと、人が多いと多いほどためらってしまうものです。その分、メイは堂々としています。


「それより、アリサ」

「はい?」

「今朝のキスは長すぎよ」


兵士がいるため主語や目的語をぼかして言っていますが、今朝の私とヴァルギスのおはようのキスのことを指しています。今朝はヴァルギスが寝ぼけていたのか、ラジカいわく「2分37秒」の長いキスになってしまったのです。そうでなくても最近のおはようのキスは普通に1分超えとか、長い傾向があるように思います。


「あ、あれは、キスしてきてるのはまおーちゃんのほうだから‥‥」

「主導権がどっちにあっても同じよ。共同責任よ。アリサから相手に直接言いなさい。最悪、また別々に寝てもらうから。人前のキスは10秒まで!できればするな!」

「はい、申し訳ございません、お姉様‥‥」


広大な荒れ地の中で、訓練する場所に到着しました。メイは到着地点に近づくと片手を上げて後ろの部隊長に合図し、円滑に止まれるようにします。


「合図するのは主将であるアリサの仕事でしょ?」

「ご、ごめんなさい、このあたりだったんですね」

「馬の進み具合から大体の距離は分かるでしょ?ほら、あそこが目印になる木よ」

「た、確かにそうですね‥‥」


などと小言を言ってきます。メイはしっかりしているので、逆に主将役の私が引っ張られているような感じがします。

早速陣営が始まります。私はマニュアル通りに8人の部隊長にそれぞれ指示して、幕舎の立ち上げ、柵の設置、周辺の警備などなどをこなして、2000人が収容できる訓練用の小さい陣を作るのですが‥‥。


「効率悪いわね」


兵士たちが幕舎を組み立てている傍ら、メイがあっさり言い捨てます。


「えっ、どこがですか?」


私はともかく、メイに戦場の経験はないはずです。でもメイは兵士たちを指差して、丁寧に説明します。


「ほら、あそこ。柵を作る部隊を3つも作ったせいで、作の建設が早く終わってあの兵士たち暇を持て余してるわよ。部隊多すぎないの?」

「あれは、陣の領域を早く確定させて幕舎を作る場所の目印にしたり、旅人や扮装した敵のスパイが紛れ込んで来たりしないように多めに部隊を割り当てているんです」

「じゃあ、作業が終わったらさっさと幕舎設営に回さないの?」

「柵の周辺の警護も兼ねているので、多すぎるくらいがちょうどいいんです」

「実際の戦争では他にも部隊がいるんでしょ?設営を待ってるだけの部隊もあるんでしょ?そこにお願いすべきよ。横の連携をもっとしっかりとりなさいよね」

「うう‥」


はい、おっしゃる通りです。訓練なのに本番のことをしっかり考えていて、メイはすごいです‥‥などと感心している場合ではなく。


「ちょっと!そこのあんた!部隊長でしょ?」


部隊長の1人に直接声をかけに行ってしまいました。あわわ。私も慌てて後を追いかけるのですが。


「あそこの兵士たちがさぼってるわよ。休憩時間はまだじゃないの?」

「あっ、あそこの兵士たちは普段から態度が悪く、我々も手を焼いていて‥‥」

「分かったわ、あたしが何とかするわ」


魔族ならともかく、人間を相手にすると怖がりには見えません。でも、あまりにメイが堂々としすぎて逆に殺されないんじゃないかなと私は不安になって、おそるおそるメイの後を追います。メイは幕舎の裏で休んで談笑している3人の兵士たちの前に仁王立ちして、甲高い声を張り上げて言います。


「あんたたち、働きなさいよ。休憩時間はまだでしょ?」

「へいへい、働きますでぇ」


兵士たちは笑いながら手を振って立ち上がり、その場を立ち去ろうとするものの。


「待ちなさい。あんたら反省してないでしょ?」


メイはその兵士たちのところへ近づくと、3人いた兵士のうち1人にくいっと近づきます。


「お、おい、何だよ」


その兵士が一歩後ずさりしたタイミングで、メイは右脚を大きく蹴り上げ、豪快にその兵士の股間をキックします。

内臓が潰れる音が、嫌でも私の耳に入ってきます。


「お、お姉様!?」

「う、う、ううっ‥」


兵士が顔を真っ青にして股間を押さえ、がくんと膝をついたところで、メイは腕を組んでその兵士を見下ろします。


「こんなこと、普通は軍法に基づいて公開処刑よ?私個人の判断で許してもらえるだけありがたく思いなさい。反抗するんなら、そのち○こもぐわよ?」


え、ええっ!?

メイが私の想像を超えて過激な言葉を言ってしまったのに理解が追いつかず、私は思わずあたふたしてしまいます。全然そんなことを言うイメージじゃないです。職場のメイってここまでスパルタだったんですか!?

ていうかメイ個人の判断って、主将は私なんですけど‥‥。私は慌てて止めに入ろうとしたのですが、メイはそんな私を手で制します。


「軍法で裁かれたくなければ、さっさと持ち場に戻りなさい」


それはこの上なく威厳のある、はきはきとした話し声でした。メイはまっすぐな目で、3人たちをしっかり睨んでいます。その迫力に押されたのか、3人の兵士のうち1人が「お、おい、行こうぜ‥」と言うのと同時に、3人がその場を立ち去り、幕舎を設営している兵士たちの中に消えます。

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