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第198話 魔王と一緒に寝ました

寝る時間になりました。メイとラジカはベッドに座って、下半身を掛け布団の下に潜らせています。

2人に挟まれた位置にある私のベッドには、掛け布団の上に私とハギスがちょこんと座っています。


「まおーちゃんは後から来るよね」

「そういう約束なの」

「どうでもいいけど、早く灯りを消しなさいよ」


メイが小うるさく言うので私は「分かりました」と言って、ハギスと一緒に掛け布団の中に入ります。ヴァルギスは私とハギスの間に入るので、私とハギスの間隔は広めにとっています。

さて私が魔法で灯りを消そうとしたその時、ドアが開きます。ヴァルギスでした。


「ん、まおーちゃん、寝る前に何かあるの?」


私が尋ねますが、ドアを閉めて部屋に入ってきたヴァルギスは、自分の枕を持っていました。


「‥今日やることは早めに切り上げた。初日くらいは同時に寝ようと思ってな」

「そうだったんだ。まおーちゃん、ここ入って入ってー」

「うむ」


ヴァルギスは浮遊の魔法でベッドの上に上がり、私とハギスの間に入ります。そうして自分の枕をセットします。

そういえばヴァルギスのパジャマって初めて見ます。上半身は薄い赤色、下半身は薄い黒色でした。薄い黒というのは、白の混ぜられた濁った灰色ではなくて、黒がそのまま薄くなった感じの色でした。


「そ、その‥妾から1つお願いがあるのだが‥」


ヴァルギスが頬を赤らめて、躊躇して言います。


「どうしたの、おやすみのキスなら約束通りしてあげるよ」

「そうじゃなくて、そ、その‥おはようのキスもさせて欲しい」

「なんだ、そういうことかー。してあげるよ!」


私は明るく返事します。

と、なんか冷たい視線を前後から感じます。メイとラジカが、私とヴァルギスを睨んでいると言うか、呆れた表情で見つめています。


「‥アリサ」


後ろからメイの声がしたので振り向きます。私が思わず「ひっ」と声を出したように、メイは掛け布団を掴んで、明らかに不快そうな顔で私のことをじーっと見ていました。


「急に魔王が一緒に寝るというから何事かと思ってたけど、そんなにくだらない理由なの?」

「く、くだらなくないです!まおーちゃんは寂しがりで、私とキスしないと眠れないんです!」

「あ、あっ、莫迦、ばらすな!」


ヴァルギスが慌てて私の腕を引っ張ります。

メイは「そうなんだ、はぁ、そうなんだ、はぁ」と何度もため息をついた後、びしっと私を指差して言います。


「はっきり言うわ、あんたら、バカップルよ!」

「え、えええええっ!?」


こんなにはっきり言われるなんて思わなかったです。ぴえん。


「ち、違います、私たちバカップルとかじゃなくて‥」

「じゃあ何でアリサが魔王の部屋で寝ないの?2人きりならやりたい放題でしょ」


メイは腕を組み、ふんと鼻を鳴らします。


「そ、それは‥」

「それは私とまおーちゃんが付き合っていることが城の人にばれないようにするためです。一晩くらいならいいけど、毎晩毎晩寝ていると疑われる可能性もありまして」


ヴァルギスが何か言いかけたところを遮るように、私ははっきりした声で返事します。恥ずかしいなら無理しなくていいからね、私もできる範囲で助けてあげますから。

この時のヴァルギスは、珍しくいつもの威厳はなくて、か弱さを感じます。


「それで、その‥まおーちゃんと一緒に寝るにはこうするしかなかったのです」

「くだらないわ。イチャイチャするなら、せめて布団に潜ってやってくれない?」


メイはぷんすこ怒って上半身も掛け布団の中に入れ、私に背を向けて横になります。あーあ、怒らせました。


「‥すまぬ。妾のわがままのために貴様らに迷惑をかけて‥」


ヴァルギスは一度設置した枕をまた取って、胸に抱きかかえています。

私はそっとヴァルギスから枕を抜いて、また元の場所に設置し直します。


「お姉様には後で私の方から謝るから、今夜は一緒に寝よう」

「う、うむ‥」


ヴァルギスは唇を尖らせます。かわいいです。

‥‥と、メイとは反対側の方から殺気を感じます。ラジカです。ラジカが睨んできています。怖いです。

あと、ハギスも殺気というほどではありませんが、物欲しげな顔をしてヴァルギスを見つめています。


「姉さん、ウチにもおやすみのちゅーとおはようのちゅーをしてほしいなの」


そうやって、ヴァルギスの腕に抱きついてせかみます。


「これは恋人のちゅーではないなの。家族としてちゅーしやがれなの‥‥ウチ、寂しいなの」

「‥今まで1人で寝ていたではないか」

「寂しいものは寂しいなの。家族とはおやすみとおはようのちゅーをするなの。ウチ、新しいことを覚えてまたひとつ賢くなったなの」

「はぁ、やれやれ‥‥」


ヴァルギスは困り顔をしてため息をつきます。

一方の私は、ラジカに応対します。


「ら、ラジカちゃん‥何をそんなに怒ってるの‥?」

「怒ってんじゃないんだよ、悲しいんだよ」

「あうう、今の言葉で私、何かを失ったような気がする‥‥」


ラジカの表情が緩みます。ラジカはそのまま掛け布団に上半身を滑り込ませて横になって言います。


「イチャイチャするのはいいけど、アタシたちに見えないようにやって。おやすみ」


そう言って、私たちに背を向けます。

ラジカ、なにげに私と失恋しているので、温泉でいろいろあった直後にこう言えるあたりメンタル強いのかもしれません。

一方のヴァルギスは、ハギスと何やら交渉しています。


「ハギスはほっぺにキスでもいいか‥?」

「だめなの、唇にキスしやがれなの。姉さんだからって容赦はしないなの」


交渉は平行線をたどっているようです。


「‥‥おやつのくさやを1枚増やすぞ。さらに生クリームもおまけする」

「やったなのー!それならほっぺでいいなの!」


おやつに釣られるハギスもハギスです。かわいいです。私は声を出さないように、ふふっと息で笑います。

ヴァルギスはまず、ハギスの頬に唇を近づけます。ハギスが「ん〜〜」っていう顔で目を閉じて待ち受けているのがさらにかわいいです。抱きたいくらいです。


「さあ、次は貴様の番だ」


そう言ってヴァルギスがくるりとこちらを向いてきます。


「うん。半年前からずっとやってたことだよね」

「だ、だから‥‥夜這いのことは忘れてくれ」

「えへへ。私は知った時とっても嬉しかったからいいじゃない」

「もう、貴様は‥‥」


ヴァルギスは私の頬を掴みます。そして、一気に顔を近づけ、唇を押し当ててきます。

ふわふわするような、暖かいような、股間がむすむすするような、そんな時間をしばらく過ごした後、ヴァルギスは私から顔を離します。


「‥‥おやすみ」


照れくさそうに言うヴァルギスがかわいいです。


「おやすみ」


私はにっこり笑って言うと、指を天井に向けて軽く呪文を唱えます。部屋の明かりが消え、真っ暗になります。

さあ寝ましょう。私は目を閉じます。‥‥その時、隣りにいるヴァルギスの手が何かを探しているように掛け布団の中をまさぐっているのに気づきます。その手は、私の左手を見つけるとぎゅっと握ってきました。


「まおーちゃん‥?」


私は左を見ます。横になっているヴァルギスと目が合います。

ヴァルギスは恥ずかしそうに目をそらし、口を真一文字に閉じています。

私は右手でヴァルギスの頭をなで、それから手を頭の後ろに回して、抱き寄せます。

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