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第197話 魔王と一緒に寝る事になりました

ニナは全力でその老人を不審がっていました。

ニナにとっては、いきなり現れて、敵国に帰順しろと言われた挙げ句、帰順しないと死ぬだとか、来世の話をされているのです。電波です。渡された手紙は確かにアリサの筆跡でしたが、それ以外は全てが信用できません。このデグルという人間は耄碌もうろくしています。それか、何か怪しげな宗教にでも騙されているのでしょうか。

心の中でそう思いましたが、口には出しません。ニナは背筋を伸ばして、そのデグルという老爺と目を合わせます。


「私はウィスタリア王国の臣として、いかなる理由があっても王国をお守りします。確かにアリサやナトリは私にとって大切な人ですが、ウィスタリア王国には及びません。その気持ちは変わりません」

「‥‥そうか。何を言っても無駄なようだな」


デグルは肩を落として、ため息をつきます。

ニナは一刻も早くこの老爺を追い出したい気持ちでしたが、それを見透かしたようにデグルは言います。


「君が死んだ後、つらいことがあればラジカを頼れ。ラジカは君にとって最後の希望になるだろう。それではわしはこれで失敬する」


そう言い残して、ぷいっとニナに背を向けます。そのままドアを開けて、部屋から出ていってしまいます。

ニナの腰は椅子から浮いていました。デグルが最後に言い残した言葉‥‥ラジカが自分の最後の希望になるのでしょうか?アリサでもナトリでもなく、ラジカ?自分はほんの少ししか話しをしたことのない、アリサのストーカーであるあのラジカでしょうか?そのことを詳しく聞きたいと思いましたが、それを聞いてしまうと自分がこの老人の戯言に乗せられた形になってしまいます。それで聞くのをためらってしまったのです。

ニナはもう一度椅子に腰をつけて、ふうっとため息をつきます。


「‥‥もう、どうなってるのよ、一体」


◆ ◆ ◆


昨日送ったニナへの手紙が今日届いた、あの馬車の御者がデグルだったなどということはつゆ知らず。

その日の夜。夕食を終えた私は、ヴァルギスの部屋へ入ります。ヴァルギスは机の椅子に座って、頬を赤らめてうつむいていました。

私は何も言わず、ヴァルギスの隣まで行きます。


「‥‥すまない」


ヴァルギスはぷいっと、私から顔を背けます。

私に内緒でやっていたという後ろめたさがまだあるんですね。その気持ちを払拭しないと。なので私は、褒めてみました。


「ヴァルギスにも、かわいいところあるんだね。私がいないと眠れないなんて」

「‥‥なっ!?」


ヴァルギスは明らかに上ずった声で返事します。


「‥‥いつから気付いてた?」

「うーん、おとといの夜かな。温泉行った日の夜」

「何か‥眠れないことでもあったのか?」

「うん、ナトリちゃんとラジカちゃんと一緒に、ニナちゃんへ手紙書いてたの。書き終わって寝る時に、ヴァルギスが来たの」

「そうか‥‥」


ヴァルギスはまた気まずそうに、机の上で手を組んでいます。


「ヴァルギス、いつからキスしてたの?」

「‥‥今年の冬からだ」


まだハラスと戦っていた頃ですね。


「その、何だ、アリサと会えない日が続いて寂しかった。だから週に一度、人の目を盗んで城門近くへ行って、アリサにキスしに行った。最初はこの1回きりでやめるつもりだったか、いつの間にかやめられなくなっていた」

「そうだったんだ」


私は、まだ気まずそうにしているヴァルギスの頭をなでてあげます。


「ヴァルギス、前に言ってたでしょ。ヴァルギスをおそれずに叱ったり、一緒に楽しく騒いたりできるのはこの世界で私だけだって。今はお姉様やナトリちゃんたちもいるけどね。他の人とはどうしても政治的、事務的な付き合いになってつまらないって」

「う、うむ、言ったな」

「‥‥本当は寂しがりなのかな?」

「な‥っ」


そこでヴァルギスは言葉を途切れさせます。

反論しようにも口が思うように動かない、そんな様子でした。

私はずいっと、椅子に座っているヴァルギスの正面まで回って、椅子の肘掛けを両手で掴みます。


「寂しくなったら、いつでも私に言って。毎晩こっそりキスしてくれるの、私は嬉しかったけど、ヴァルギスが後ろめたいって思うんだったらそれはよくないよ。ヴァルギスのために私にできることがあれば、何でもするから。なんなら‥私、ずっとそばにいてもいいけど?」


ヴァルギスはしばらく私と目を合わせていましたが、私の言葉が終わるとすぐにそっぽを向きます。


「‥‥それは配偶者の仕事だ。今やると周りから関係を疑われる」

「そっか‥じゃあ、夜だけでも一緒に寝るのはどうかな?」

「‥‥っ!」


ヴァルギスはびくんと動いて、再び私の目を見ます。


「私、毎晩この部屋に来て、あそこにあるベッドで一緒に寝るの。どう?」

「そ、それは‥‥」


そこまで言いかけて、小さく首を振ります。


「毎晩この部屋で妾と2人きりであれば、さすがに関係を疑われるだろう」

「んー、そうかな?女同士だし、友達って思われるのかも」

「世の中には色々な人がいる。穿うがった見方をするやつも現れるだろう」

「そういうものなのか‥‥うーん、友達だと周りから思われる方法‥‥」


私はしばらく天井を仰いで、それから何かを思いついて、ずいっと自分の顔を突き出します。


「ヴァルギスが私たちの部屋で寝るのはどう?」

「えっ?」

「お姉様、ラジカちゃんも一緒にいる部屋なら、さすがに同性愛までは疑われないんじゃないかな?」


そこでヴァルギスは何度かまばたきします。


「‥悪くないな。それなら、友達として付き合っていると押し通すことも可能だ」

「そういうこと!」


私は何度もうなずいて、ヴァルギスの椅子の肘掛けから手を離します。


「それと前から気になってたけど、ハギスちゃんとは部屋が別なの?」

「うむ、別々の部屋で寝ている」

「ハギスちゃんも一緒に来るのはどうかな?今ならナトリちゃんのベッドも空いてるし、家族くるみの付き合いだと思われたらますます疑われないんじゃないかな」

「‥‥そうだな」


私と目を合わせたヴァルギスは微笑みます。


「それなら疑われない」

「じゃあ、早速今夜から寝よ!」

「分かった。ハギスにも言っておこう」

「私もみんなに言ってくるね!」


やることは決まりました。その後も1時間くらいヴァルギスと言語の勉強をしたり雑談をしたりした私は、うきうきしながらその部屋を出ていきます。


◆ ◆ ◆


「魔王が?今日からこの部屋に?」


ベッドに座っていたメイは、向かいのベッドに座っている私の説明を聞くと面食らった様子でした。


「はい、お姉様。私たちが寝静まった後になりますが、この部屋に来て寝ることになりました。朝起きる時はまおーちゃんも一緒です」

「え、ええっ?」


メイはまだ信じられないというように、私を睨んでいます。

その時、ドアのノック音がして、見た目10歳くらいのかわいい女の子が入ってきます。ハギスでした。片手で脇に枕を抱えて、片腕を伸ばして元気よく言います。


「今日から姉さんと一緒に寝るなの!」


そうして、一目散に私のベッドへダイブしてきます。ぽふんと、ベッドの中央を陣取ります。


「真ん中に姉さんが寝て、ここはテスペルク、ここはウチが入るなの!」

「ち、ちょっと待って、ハギスちゃん、1つのベッドに3人で寝るつもり?」


これは豪華で大きいベッドですが、もともと1人用です。庶民や下流貴族にとっては2人入るくらいがちょうどいいサイズですが、3人はちょっと狭いかもしれないです。

そもそも私は、ハギスはナトリのベッドで寝るだろうと思っていました。3人が同じベッドで一緒に寝るのは想定外です。それでもハギスは、さも当然かのように返します。


「姉さんと同じ部屋にいて、姉さんと違うベッドで寝たことはこれまで一度もないなの。ベッドが狭いならベッドを変えれば済む話なの」


うう、ハギスを誘ったのはちょっと失敗だったかもしれません。


「うう、仕方ないな‥‥でもこれだと狭くてまおーちゃんがひと目見てどこで寝ればいいかわからないから、私、ちょっとまおーちゃんに伝えてくるね」

「あっ、ウチも一緒に行くなの!」


部屋を出る私の後を、ハギスがついてきます。

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