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第194話 ニナに手紙を書きました

温泉旅行気分はバスの中でも続いていて、私にもたれるようにすやすや眠っているハギスと、誰にもかからず背もたれにもたれて寝ているメイ以外は、まだ会話が弾んでいました。

泉質の話、ビリヤードで誰が強いか、他の教義もやってみたいなとか。


「こうやってみんな揃って遊ぶのは楽しいのだ。またやりたいのだ」


ナトリがそう言って、ラジカが目立たないようにこくんとうなずきます。


「うん。ナトリちゃんの任務や戦争が終わったらまたこうしてみんなで‥‥あっ」


私がまとめようとしたところで、ふと急に何かを思い出します。

みんな?私、ナトリ、ラジカ、メイ、ハギス、ヴァルギスの他に、また誰かがいたような気がします。


「‥‥まだ全員じゃないよ。ニナちゃんがいるじゃん」

「あっ」

「あ」


ナトリもヴァルギスも思い出したように声を出します。

ニナは私たちが亡命する時にウィスタリア王国に置いていってしまいました。今頃元気でやっているのでしょうか。


「‥どうする?ニナちゃんを下手に戦争に巻き込むのも嫌だし、今から手紙書いて呼び出す?」


私が言うとナトリは少し首を傾げます。


「うーん‥」

「どーしたの、ナトリちゃん」

「テスペルクはウィスタリア王国で重罪人なのだ。ナトリたちもおそらく魔王の家臣になったことでウィスタリア王国から敵視されている可能性もある。果たして手紙が届くだろうか」

「やってみないと分からないよ!」

「‥‥そうだな。やってみるのだ」


魔王城に戻った時にはもう夜も更ける時間になっていましたが、私・ナトリ・ラジカは紙とペンを持って、ベッドで寝てしまったメイを置いて、部屋の片隅に灯りをともして、それぞれが思い思いの内容を書きました。


ニナちゃん、元気にしてる?

私も元気だよ。

私たち、今、ハールメント王国でまおーちゃんに仕えているよ。

戦争もあったりで悲しい体験を何度もしてるけど、それでもナトリやラジカたちと一緒にいろんなところへ行って、楽しんでいるよ。

ニナちゃんもおいて。絶対楽しいよ。


私たちは手紙を書いているうちに、ニナと過ごしたあの日々を1日1日、つまびらかに思い返していました。

ニナと一緒に料理した日。ニナと初めて授業を受けた日。ニナに勉強を教えてもらった日。ニナと2人でお出かけした日。私がヴァルギスを召喚した後は、5日という短い間でしたが、ニナも含めて一緒にお買い物に行ったり、弁当を分けてもらったり、使い魔を召喚したり。ニナの使い魔って、猫の魔物でしたっけ。今はもう1年以上昔の話になってしまいましたが、そういった古い記憶が次々と思い起こされていきます。


「‥ニナがいないと寂しいのだ」


手紙を書き終えたナトリが、紙を三つ折りにします。


「そうだね。ニナちゃんと過ごして大変なこともあったけど、やっぱり、私、ナトリちゃん、ラジカちゃん、ニナちゃんの4人がいないと始まらないよ。それに‥‥」


私は自分の手紙を三つ折りにしながら言葉を続けます。なぜか目頭が熱くなります。


「‥‥ニナちゃんは、魔法学校で一番仲が良かったから。まおーちゃんが来るまでは、ニナちゃんと一緒に食事したり、2人きりで楽しんでたりしたんだよ」

「2人の仲の良さはナトリも知ってるぞ」

「アタシも、魔王が来るまではニナがライバルだったな」


ラジカはそう言って、ふふっと笑います。

そうやって少しの間、3人でしんみりしていましたが。


「‥早く寝よう。ナトリちゃん、明日は早いよね」

「ああ、そうだな」


3人の手紙を便箋に入れて、私たちは「おやすみ」と言い合って、2人はベッドに入ります。私はいつものようにふわりと空中に浮き上がって、そのまま目を閉じます。


‥‥それから2〜3分が経ったのでしょうか。私はまだ目を閉じたまま寝付けていませんでしたが、部屋のドアが開く音が耳に入ります。メイがトイレに行ったのでしょうか。私はそう思って何も気にせずそのまま目を閉じてじっとしていましたが‥‥。


「すまんな。今日の夕食で言ったことは、半分は冗談だが、もう半分は本当なのだ」


そういう小さい声が耳に入って、吐息が私の顔にかかります。

え、ヴァルギスが真近にいるんですか!?ていうか、ヴァルギスの顔、至近距離にあるんですか!?匂いでも分かってきます。ヴァルギスの高級な香水を使った、暖かく美しい匂いがしてきます。私は目を開けそうになりましたが、なぜか開けちゃいけないと言っているもう1人の自分がいます。

ヴァルギスが私の頬にそっと手を当てます。触覚が私の全身に伝わります。


「‥もう何度目になるかも分からんな。妾は貴様とキスしないと寝られないのだ。妾はアリサの優しさに依存している、それが妾の弱いところだ。アリサはきっと、こんな妾でも受け入れてくれるだろうが‥‥」


えっ、待ってください、ヴァルギスはこれから何をしようとしてるんですか!?

でもなぜか私の体からは抵抗する気力が起きません。そのまま体の力が抜けて、ヴァルギスに全てを任せようとしています。これって危なくないですか?と思ったけど、緊張で体が動きません。指一本動きません。心臓がものすごい勢いで動いていますが、ヴァルギスはそれに気づかないように、私の頬を両手で掴みます。

熱い、柔らかい感触がまた私の唇を包みます。しばらくそれは続いて、ぷはっとそれは離れます。


「‥おやすみ、アリサ」


ヴァルギスの熱と匂いがなくなってきます。

しばらくして、ゆっくりドアが開いて閉まる音がしましたので、私はそこで目を開けます。

顔だけでなく全身が真っ赤になっているのを感じます。思わず口を手で覆います。いろんな考えが頭の中をくるくる回ります。頭の中がこっちゃになります。


◆ ◆ ◆


顔にばしゃーっと冷たい水がかけられて、私は「はひゃっ!?」と言って目を覚ましました。

例によって天井近くを浮いている私のすぐそばに、メイが浮遊の魔法で浮いていました。ジト目で私を睨んでいます。


「あ、あっ、お姉様おはようございます。起こしてくれたのですね。ナトリちゃんはまだいますか?」

「‥‥もう昼」

「え、えええええっ!?」


メイと一緒に床に着陸すると、私は窓の外を見ます。すでに太陽が空高く上がっています。


「えええええっ‥‥」

「他の人はもう仕事に行ったわよ。アリサも早く仕事行きなさいよ。ほら、パンあげる」

「は、はい、お姉様、ありがとうございます‥‥」


昨夜、ヴァルギスからキスされたことでずっと悶々としていて、未明までずっと眠れませんでした。そのせいで寝坊です。やってしまいました。


「あたしたちは朝に何度も起こしたわよ、でもなかなか起きないから」


メイが呆れ顔で言うので、私は何度も頭を下げて「ごめんなさい、ごめんなさい!」と繰り返します。


パンを食べながら廊下を走って大広間に着いてこっそり絨毯をなそるように並んでいる家臣の列に割って入るのですが、玉座に座っているヴァルギスが「遅い」と言ってきました。その一言で他の家臣たちも笑います。私、きっちり見張られちゃってます。ううっ。


「も、申し訳ございません、魔王様‥‥」

「次からは気をつけろ」


ヴァルギスはふふっと笑います。昨夜のことを悪びれている様子は全く無いです。まさか本当にヴァルギスは毎晩私たちの部屋に潜り込んでキスしてたんでしょうか。戦争の時とかはどうしてたんでしょうか。うう、恥ずかしいけど聞く勇気もないし、このままでいいのかな‥‥。

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