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第193話 温泉でビリヤードしました

「ラジカちゃんは今でも私のこと、好きなの?」


その質問がラジカにとっては不意打ちだったようで、ラジカは大皿から取りかけの食べ物を思わず落としてしまいます。

ラジカはそれを拾わずに、少しうつむいて考え込みます。


「‥‥好き。でもアリサ様は、魔王と幸せになって。アリサ様が幸せになると、アタシも嬉しい」


ラジカは私に後ろ髪を見せながら喋ります。


「ラジカちゃん、つらいなら手を繋ぐだけでも‥」

「余計な気配りはいらない」


なんだか言葉使いが怒っていそうで、私は焦ります。

ちょうどその時、私の後ろから声がします。


「貴様、中途半端な心遣いはかえって人を傷付けるぞ」

「まおーちゃん?」


振り返るとヴァルギスは、手持ちの皿にケーキを2個乗せて、口の周りを食べかすでいっぱいにしていました。よく見ると皿にもケーキのクリームやチョコがいっぱい付いていました。これは2個と言わず何個も何個も食べたパターンですね。

ヴァルギスは「持て。食べるな」と言って私に皿を持たせると、フートの右半分を開いてポケットからハンカチを取り出して自分の口周りを軽く拭きます。それから、ラジカへ近づきます。


「ラジカ」

「‥何」


ラジカは、本当に怒っているのかと思うくらいぶっきらぼうに返事します。

それを聞いて、ヴァルギスは平然と続けます。


「妾とこやつは、結婚を前提に付き合っている」


それを聞いてラジカは目を大きく見開いた後、目を伏せて大きなため息をつきます。


「‥‥わかった」


どことなく力のない返事でした。

一方で慌てたのは私の方です。えっ、えっと、まだ決まったわけでもないのに軽々しく言っちゃっていいんですかそれ?


「待って、まおーちゃん、結婚はまだ決まったわけじゃなくて‥‥」

「貴様は黙れ」


ヴァルギスは私を手で制して、それからまたラジカに言います。


「貴様は最近カメレオンを使ってないようだから教えてやろう。妾とこやつはもう何度もデートしたし、キスもしたし、舌も入れた。なんなら、裸同士でお互いの粘膜をこすりつけあったりもしたぞ」


ちょっと待って、キスも舌もしたけどセックスまではまだいってなくないですか?

私がそう言いかけるのを牽制するように、ヴァルギスは私の持つ皿にフォークを差し込んで、一切れのケーキを口に運びます。


「‥‥どうだ、吹っ切れたか?」


再びヴァルギスが尋ねると、ラジカはしばらく間をおいた後、無言でうなずきます。そうして、皿とフォークをテーブルの上に放置すると、うつむきながら小走りで、この部屋を出ていってしまいます。


「ラジカちゃん‥‥」


ヴァルギスは私から皿を返してもらうと、ケーキの続きを食べ始めます。


「‥あやつは、まだ未練があったようだな。告白の現場まで押さえておきながら、今更という話ではあるが。あやつにとっては残酷な話だが、ここは事実をしっかり伝えるべきだ」


ヴァルギスはいたって冷静でした。

うん‥‥確かにそうですね。本当に残酷な話ですが、ここで隠してあげるよりはきっぱり話してしまったほうがいいかもしれません。‥‥セックスはしてないよね。


「‥‥裸の付き合いはまだしてなかったよね、ちょっと恥ずかしかったな‥‥」

「何言ってるんだ貴様。気づかなかったのか?昨夜貴様の部屋に潜り込んで、貴様が寝ている間に事を済ませたぞ。魔法を使えば何をやっても起きないし楽だな」

「え、ええっ!?」


私はヴァルギスのあまりにも衝撃的な告白に、思わず数歩下がって、自分の体のあちこちをぺたぺた手で触ってしまいます。振り返ってそれを見たヴァルギスはふふっと笑います。


「‥すまん、冗談だ」

「もう!冗談がきついよまおーちゃん!」


私も笑います。笑って、少しはリラックスできたようです。ヴァルギスはまた真顔に戻って、私に言います。


「ラジカには今まで通り友として接してやれ。ただし中途半端な気遣いはいらん。言うべきものは言って、断るべきものは断れ。それが優しさだ」

「うん、分かったよ。私はまおーちゃん以外の女には絶対になびかない」

「うむ」


ヴァルギスは微笑んで、またケーキを食べ始めます。


◆ ◆ ◆


その建物の2階は、遊技場でした。卓球のようなものができるスペースのほかに、部屋の3分の1くらいを占めるビリヤード台の隊列が広がっています。


「ここはウチもクラブの人達とよく来るなの。この店はキューにこだわりがあるなの」


夕食の時はくさやの食べ過ぎで食欲なさそうにしていたハギスが、今は元気よくはしゃぎ回っています。焦げ茶色の柄を使っていてどこか高級感漂うキューを持ち上げます。


「誰かウチと勝負しやがれなの。あっ、ハンデとして常に2回行動していいなの。その代わりウチは本気でやるなの」


というふうに、プロレベルの腕前を持ったハギスが言いたい放題言っています。ううーっ。


「私がやる!負けないよー!」


私もキューを構えて応じます。それを見たメイが、他の人達に言います。


「じゃああたしたちは別の台で1ラックしましょ。‥‥どうしたの、みんな?」


事情を知らないナトリを尻目に、ヴァルギス、ラジカが目を細めてメイに鋭い視線を向けます。


「‥メイの相手は、ファウルしたらもう1回行動できるルールに変えたほうがいいと思う」

「うむ、妾も同感だ」

「ええっ、それってどういう意味!?」

「どういう意味なのだ?」

「ナトリはやってみたら分かる。メイ、別の意味で本当に上手いから」


4人いるのでヴァルギスとラジカ、ナトリとメイに分かれて2台使って試合を始めます。‥‥が、すぐにナトリの悲鳴があがってきます。


「メイは上手すぎるのだ!どんな人生を送ったらこんなプレイができるのだ!?」

「ねー、メイは本当に上手いから」

「貴様も分かったか?」


そうやって4人が騒いでいるのを見て、私は「ははは‥」と呆れたように笑います。ちなみにハギスとの試合は4ラックやって完敗でした。まだ3〜5個しかポケットインしてない段階でランアウトを3回もやられました。とほほ。


「テスペルクの姉のプレイ、ウチも興味あるなの」


ハギスが興味津々そうな顔をしてメイへ果敢に挑みましたが、しばらく経つとふらふらになって私のところへ戻ってきました。横顔をぺったりテーブルの端につけて、うわ言のように繰り返します。


「あれは芸術なの‥‥腕前とか関係なく、もはや芸術的な何かなの‥‥」

「そんなにすごいんだ、お姉様のプレイ‥‥」


私は見たことないので何とも言えません。みんながここまで言うなら興味が出てくるのですが、みんなの反応を見ているとなんとなく恐ろしさというか、狂気みたいなものを感じて、躊躇してしまいます。

でもそれでも一応、ハギスがナトリの半分くらいの時間で試合を終わらせてしまったことは、ハギスはとても上手いということの証明ですね。


組み合わせを交代して、私の次の相手はヴァルギスになりました。


「まおーちゃんもハギスちゃんくらい上手いの?」

「いや、妾はあまり嗜まないのでな。接待できる程度にはいけると思うのだが」

「私もそれくらいかな。負けないよっ」


ということでき始めます。そういえばヴァルギスとなにか勝負するのって、決闘大会の個人戦決勝以来ですね。決勝では私の負けになってしまいましたが、ビリヤードはどうでしょう。

と思ったら、ギリギリ、あと一息で勝てそうなところでヴァルギスにランアウトをとられました。「あーっ」と思わず声に出してしまいます。


「ここは妾の勝ちだな」

「うーっ、もう1ラック!」


2ラック目でもギリギリの勝負が続いて‥‥結果、何とか私が勝ちました。これで1対1ですね。

ヴァルギスが珍しく、らしくない声を張り上げます。


「もう1ラックだ!」

「望むところだよ!」


3ラック、4ラック、5ラック、と試合はするする続いていって、私が勝ったりヴァルギスが勝ったり、ギリギリの戦いが続いて‥‥。


「何ラックやってるのだ?」


そうナトリに言われて、びっくりしてはっと気付いて振り返ります。慌てて壁にかかっている時計を見ると、もう21時です。もう帰る時間です。


「うわあ、こんな時間‥‥帰らなくちゃ」

「‥そうだな。今日の勝負はお預けだな」


ヴァルギスも肩を落としてうなずきます。

ストック分、完結しました。全281話+エピローグとなります。

このペースでの連載となりますと、6月下旬〜7月上旬ころまでのお付き合いになりますがよろしくお願いいたします。

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