第18話 魔王と給食を食べました
「‥‥本気か」
まおーちゃんが半目で、机の上に乗っている物体を見ます。
4時限目が終わって、教室に戻って給食の時間です。寮の食堂で作られた弁当が運ばれてきます。私、ニナの前には、その弁当が置かれています。しかし、まおーちゃんの前に置かれているのは。
「雑草‥‥?」
「正確に言うと、野生の魔物が食べるような薬草だな。おおかた、単純に使い魔の食料として用意したものだろう」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
ニナが顔を真っ白にして平謝りしています。
「使い魔にはそれしか用意できない、学費をもらっていない以上規則は変えられないと言われて!」
「まあ、妾もここの生徒ではないからな。致し方ないのう。貴様は悪くない」
そう言って、まおーちゃんは雑草‥薬草?を何枚かつまんで、口に入れます。
「ま、まおーちゃん、それでいいの‥?」
「ああ、貴様らはいつも通りの食事を楽しむが良い」
「まおーちゃん、そんなのダメだよ!ほら、私の弁当食べてよ!」
「それでは貴様の分がなくなるではないか」
まおーちゃんは首を振ります。
「次からはこちらで弁当を用意したほうがよさそうだね。明日、弁当箱も一緒に買おっか?」
「あっ、それいいね、ニナちゃん。それで、今日の分は‥‥」
私はニナに手を合わせます。
「お願い、ニナちゃんの分もわけて!」
「わかったよ、いいよ。えっと‥魔王に近づくの怖いから、薬草乗せてる皿だけこっちに持ってきてくれない?」
「わあい、ありがとう!」
そう言って「妾は別にこれでもいいのだがな」と言うまおーちゃんの皿をとってきて、私とニナの弁当の具を少しずつ乗せました。
「スプーンはニナちゃん、予備持ってたよね」
「うん、貸してあげるよ」
「やったー!ありがとねー!はい、まおーちゃん!」
そうやって私がまおーちゃんに差し出した皿を、横からばしっと奪った人がいました。
「おい、テスペルク!これではいささか少なすぎではないか!よくこれで使い魔の腹を満たせると思ったな?」
ナトリはそう怒鳴って、また自分の弁当から具をさらに追加して、まおーちゃんに渡します。
「えへへ、ナトリちゃん優しいね、ありがとう!」
「テスペルクに礼を言われる筋合いはない」
ナトリは口ではそう言っていますが、表情はなぜか緩んでいます。
「ほら、まおーちゃんもナトリちゃんにお礼を言って!」
「‥礼を言う」
「もう、素直にありがとうって言ってよー」
そうやって、みんなで仲良くご飯を食べた後。
「この数式は、こうだぞ?この変数はそこで代入する。そうだ、そこで積分する」
「くそおおお!!!テスペルクの使い魔は強いだけでなく頭もいいのか!!!」
「妾を誰と心得ておる」
昼休みの間に、まおーちゃんがナトリに勉強を教えていました。
「ふふっ、家庭教師みたいだね」
私も、まおーちゃんと話しているナトリにちょっとジェラシーを感じていましたが、今日はもう仕方ないです。今夜いっぱい抱きついてやりましょう。
「魔王はなんだかんだいって一流だよね」
ニナも付け加えます。
「当たり前だ。一流でないと魔王はやってられんぞ」
「わあい、まおーちゃんかっこいいー!」
「テスペルクもニナもうるさい!ああもう!積分にネイピア数を安易に使うな!混乱する!」
「逆に簡単になると思うんだが」
「黙ってろ、テスペルクの使い魔!これくらいナトリ1人で解いてやる!」
「貴様、この式はここから間違えているぞ、それでも学年ナンバー2か?」
「なにを‥ああっ!?」
5時限目が始まるまでの間、2人で盛り上がっていました。
◆ ◆ ◆
「まおーちゃん、今日の学校はどうだった?」
帰り道。まおーちゃんと私とニナの3人で歩いています。私が尋ねると、まおーちゃんはうなずきました。
空はすっかり赤くなっていて、建物の間から夕日が差し込んでいます。
「悪くはない。面白い奴とも話せたしな」
「ナトリちゃんのこと?」
「うむ」
まおーちゃんの返事とともに、私は「そーれっ」とまおーちゃんに抱きつきます。
「こら、離れろ!どこに抱きつく要素があった?」
「だって‥まおーちゃん、私、寂しかったんだよ?まおーちゃんがナトリちゃんと話してたから‥‥まおーちゃんがナトリちゃんにもってかれるような気がして‥‥」
「貴様も別の女と話していたではないか。‥‥人の独占欲に素直に従った者は、視野の狭い寂しい奴になる。お互いが不幸になるだけだ」
「ううっ‥」
「あれほど妾を信じると言ったのに、こういう時に限って信じられないのか?」
「それは‥」
「それに、妾は貴様のことなど恋愛という意味ではなんとも思っておらぬ。潔く諦めることだな」
そう言って、まおーちゃんは手で私の体を払います。
「絶対、私のこと好きになってもらうんだから!」
私の負け惜しみに、まおーちゃんは少し何かを考えてから、ふふっと笑って返事しました。
「精々頑張ることだな」
「う〜〜っ!まおーちゃんのいじわる!」
「待て、こら、もう一回抱きつくな!ええい、離れろ!」
そうやって帰り道でも騒ぐ私たちでした。
「‥‥む?」
まおーちゃんが何かに気付いたようです。
「どーしたの?」
「何でもない」
まおーちゃんは何事もなかったように言ってから、ふと茂みのほうを向きました。
(あの茂みの中にあるのは‥‥)
茂みの中から、緑色のカメレオンが私たちを監視していたのです。それに1人気付いたまおーちゃん。
(‥これは、ラジカとやらの個体だな。王国のものではあるまい。しかし、なぜこんなものを寄越す‥‥?ふふ、気が向いたら調べてやるか)
◆ ◆ ◆
「まおーちゃん、ここの生活には馴染んできた?」
「ああ、おかげで馴染みつつあるぞ。ところで貴様。なぜ妾のベッドに座っておる?」
自分の部屋で、体に布団をかぶせて寝る支度をしていたまおーちゃんのベッドに、私がぽんと飛びかかったのがついさっき。
「えへー。今日は一緒に寝ようと思って!」
「レズと一緒に寝るなど気色悪い」
まおーちゃんがあっさり切り捨てました。
「ええー、なんでなんでなんでー?ニナちゃんは、使い魔が大好きだから一緒に寝るって言ってたのにー!私も使い魔のまおーちゃんのこと大好きだから一緒に寝たいよー!」
ニナは、使い魔の猫が大変気に入って、使い魔を超えてペットとして飼うことにしたそうです。今夜はベッドに猫を入れて一緒に寝るそうです。なら、私もまおーちゃんと一緒に寝ていいよね?使い魔とか主とか本当はどうでもいいけど、都合のいいときだけ主としての権利を主張します。えへん。
「あの猫は魔物、妾は魔族じゃ!魔族は高度な戦闘能力はそのままに、人間と同等程度の知能を持ち合わせておる。魔物と一緒にするでない!」
「ええー、ひっどーい!ぷーっ!まおーちゃんは私の使い魔!私はまおーちゃんのご主人様!権利主張しちゃいまーす!」
と、私はまおーちゃんを抱いて押し倒しました。
「都合のいいときだけ権利主張するでない!妾は確かにあの時使い魔になるとは言ったが、まだ貴様を絶対服従の主として認めとうない!離れろ!」
「えー、どーすれば服従してくれるのー?」
「むぅ‥とにかく離れろ」
まおーちゃんは手で押して私を引き離します。
「妾と戦え。そして勝利しろ。それで晴れて貴様に服従してやる」
「ええー!じゃあ、私がいつか勝つから主の権利を先取り先取り」
「認めん!」
私はまおーちゃんに頬ずりしようとしましたが、強い電流が全身を走った痛みで諦めました。
「戦うって、どーやって戦うのー?腕相撲?」
「魔法対決だ」
「今ここでやる?」
「できるはずないだろう。下手すればこの町全体の人間が消し飛ぶ。妾は戦略魔法をいくつか心得ておる。1万人の兵士を一撃で倒せるものもあるぞ。貴様と戦うには、数万の軍勢が結集できるような広大な場所がよい」
まおーちゃんは自慢げに腕を組みます。
「わあい、なんかわからないけどすごーい!今すぐ見せて見せてー!」
「こら、抱きつくな、離れろ!それから、貴様と妾の実力だと、今すぐ戦うと今夜ところか三日三晩の激闘になるかもしれんぞ?」
「ええー、しあさっての授業に出れないよー!それと、大好きなまおーちゃんと戦いたくないよ!」
「分かったら今夜は諦めて1人で寝ろ!」
「まおーちゃんのいじわるー!」
「いじわるではない!」
そのあとも私は何回かまおーちゃんに抗議したのですが、結局別々に寝ることになりました。
ストックがかなりたまってるので、当面の間、土日も含めて投稿します