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第191話 温泉でスキンシップしました(2)

「え〜〜っと、手を使った遊びだよ。まずこうやって手を合わせて。まおーちゃんも私のマネして」

「うむ、こうか?」


私は両手のひらを合わせます。ヴァルギスも同じようにしたのを確認すると、次は右手のひらをヴァルギスに向けます。


「ここに手を当てて」

「む、こうか?」

「左手じゃない、右手を当てて」


ヴァルギスが手のひらを当ててみます。スキンシップです。えへへ。

そうして、ヴァルギスの手から離れて私はもう一回、自分の手を叩きます。ヴァルギスも私の真似をしたのを確認すると、今度は左手のひらを前に出します。

手を合わせて、今度は両手のひらを前に出して叩きあって、次は手を組んだまま前に出して、ヴァルギスのそれを叩きます。

左腕を直角に曲げてひじの下に右手の甲をつけて、右腕でも同じことをして、両手を腰に当てて、それから。最後が難しいんですよね。右腕を直角に曲げて、右手で左のひじを掴みます。ヴァルギスも同じようにしたのを確認すると、私は左手で、ヴァルギスの右腕のひじを掴みます。ヴァルギスも同様に、私の右腕のひじを掴みます。


「まおーちゃん飲み込み早いね。これを繰り返すんだよ」

「なるほど、腕を使ったダンスのようなものだな。狭い場所で遊ぶことができて、なかなかよい。音楽があればさらにいいかもしれん」


確かにアルプス1万尺には歌詞もありましたね。でも私、そこまでは覚えてません。どうしましょう。


「らんらんらん、でいいんじゃないかな」

「らんらんらん、こうか?らんらんらん‥‥シュールだな」


ヴァルギスは少々不慣れながらも腕を動かしてみせます。私もそれに合わせて腕を動かします。


「らんらんらん、らんらん‥」

「ららら、らんらんらん」


らんらんらんばかりでは変化がないので、適当に変化をつけて歌ってみます。


「何してるの?」


そこにハギスが寄ってきたので私はにっこり笑ってハギスにも言ってみます。


「アルプス1万尺っていう手遊びだよ。ハギスちゃんもやってみる?」

「うむむ‥面白そうなの。教えやがれなの」

「ナトリにも教えるのだ」

「みんなで仲良くやろ!」


他の2人にも遊び方を教えてあげます。

そういえばこの世界にも手遊びはあるんですけど、相手の手が引っ込むのを捕まえるとか、競争系の遊びが多かったように思います。こうやってリズムに乗って、ヴァルギス曰く「腕で踊る」のはなかなか新鮮かもしれません。


「これ、スピード勝負もできそうなのだ」


そう言ってナトリはシュッシュッと手を出したり引っ込めたりします。時間を測って競争するテレビの企画を見かけたこともありましたが、ナトリに教えたら多分話がややこしくなるので今は黙ってみましょうか。


「貴様、この遊びをどこで知った?」

「うーん、ずっと昔かな?」


ヴァルギスに尋ねられたので答えました。ほんとは前世ですけど、そこは濁します。


◆ ◆ ◆


これ以上ラジカを待たせるわけにも行かないので、私たちは湯船から上がります。

例によってヴァルギスはタオルと替えのフートローブを持ってトイレに行ってしまったので、私はハギスたちと一緒に着替えるのですが。


「女の子を好きになるってどんな感じなの?」


ふとハギスがこんなことを尋ねてきたのです。


「うーん、男を好きになるのとそんなに変わらないかなぁ‥‥」

「ウチは女の子を見ても、男の子を見るときのようなどきめきはないなの。お前も姉さんも変わった人なの」

「あのね、ハギスちゃん」


私は身をかがめて、視線をハギスと同じ高さにします。


「好みは人によって違うの。確かに私たちは他の人と比べると変わってるかもしれないけど、私にとって女の子同士で恋愛をするのは普通だよ。ハギスちゃんには分からなくても、私たち本人が理解していて、楽しめていればそれでいいっていうのかな。ハギスちゃんも、くさやのどこがおいしいのか分からないって言われても、自分がおいしいからいいのって胸を張って言えばいいんだよ?」

「そうよ。恋愛感情があたしに向きさえしなければ何でもいいけどね」


後ろからメイがハギスの頭をなでて、私に言います。


「言っとくけどあたし、レズはきもいって思ってるからね。アリサと魔王が付き合うことは否定しないけど、あたしに性的な意味で近づいてきたらぶっ飛ばすわよ」

「あはは‥」


私は笑って返します。ちょうど、メイに頭を撫でられているハギスがなんだかかわいらしかったので、やわらかいほっぺたをぷにぷにしてあげます。ハギスはいじられに身を任せていて、とてもかわいいです。


◆ ◆ ◆


着替えも終わらせて、ラジカと合流しようと思ってロビーに出ると、そのラジカはソファーに座って、牛の角と耳の生えた金髪の女性と話していました。

誰かなと顔を覗いてみると‥‥ルナでした。「げっ」と思わず声が出ました。


「げっとは何だ」


ヴァルギスが私の腕を軽くつねります。


「い、いや、だって、あの人は苦手というか‥一緒にいたくないってレベルではないけど、その、なんか‥うわっ!?」


ルナがいきなりソファーから立ち上がって、まっすぐ私を向きます。頬が真っ赤です。絶対飲んでます。


「きゃ〜!アリサちゅわぁん来てたのね!こっち来て来て来てー!こころぴょんぴょん待ち?考えるふりしてもうちょっと近づいちゃえ〜♪」


とか変な歌を歌いながら、くるくる回転して高速で近づいてきたかと思うと、私の腕に抱きつきます。迷惑です。この人絶対前世でオタクやってます。

私の腕に頬をすりすりさせながら、これでもかと恥ずかしい言葉を並べます。


「あ〜心がぴょんぴょんするんじゃあ〜」

「迷惑なんでやめてください。ああっラジカちゃん見てるでしょ、何とかしてよ〜」

「‥アタシはパス。手に負えない。アリサ様に丸投げ」


ソファーのラジカは私の様子を一瞥いちべつして、ぷいっと顔をそらします。


「ええー、ラジカちゃんひどいよ〜!」


私が抗議している間にもルナは私の腕を無理やり引っ張ってソファーに座らせて、キャバクラみたいに横から抱きついてきます。酒臭いです。


「他の人達も見てないで助けてよ‥」


私は振り向きます。

メイが「子供は見てはいけません」とハギスの目を塞いでいるのはいいとして、ヴァルギスとナトリがあからざまに私から目を背けています。


「待って!ナトリちゃん助けてよ!」

「‥テスペルクは尊い犠牲なのだ」

「ひどい!まおーちゃん助けてよー、ルナ将軍苦手なんだけど!」

「‥酒を飲んだそやつは手に負えないのでな」

「ええーっ!!私がルナの女になっちゃってもいいのー!?」

「そ、それはまあ‥‥」


そうこうしている間に、ルナが私の頬に自分の頬をこすりつけてきます。

やめてくださいっ。私にはヴァルギスという女がいるんです。


30分後。

ロビーの端のテーブルに座って、くさやに温泉卵をかけて華麗におやつを楽しんでいるハギスが、それを頬杖をついてジト目で見ているメイに「これはあげないなの!」と言っているのと同じ頃。

ルナにしごかれてすっかり干からびた私は、うつぶせでソファーに横になっていました。その両隣を挟むように、ナトリとラジカ、ヴァルギスが座っています。ちなみにルナはまだ入浴してなかったみたいで、更衣室に消えました。酔った状態での入浴って、危なくないですか?さすがにヴァルギスが止めましたが構わず行ってしまいました。


「‥さっきは悪かった」


ヴァルギスは私の頭を撫でています。


「ナトリも悪かったのだ。足を揉んでやるから許してくれなのだ」

「あ、ありがとう‥‥」


ナトリとラジカは私の足を指で揉んでくれています。無駄に気持ちいいのが腹立たしいですが、怒る気力も起きません。

ロビーの窓から見える外はさっきまで赤かったのですが、今はその光も消えつつあります。


「食事は何時からなのだ?」


ナトリが尋ねると、ヴァルギスはロビーの壁にかかっている時計を見て返事します。


「18時30分からだ。あと30分くらいだな」

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