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第189話 湯船に入りました

私も着替えを終わらせました。バスの中で袋の中を覗いた通り、薄いピンクの布を囲むように赤い紐がついています。ビキニっぽい水着です。あ、ビキニってのは前世の地名に由来するから、この世界では何か別の呼び方があるかもしれませんね。でも、それを言ったらネイピア数|(第1章参照)も前世の人名に由来するものですし、どうなんでしょう。

ちょうどその時、トイレで着替えを終えたヴァルギスが戻ってきました。ちゃんとフートローブの色が紺色に変わっています。スク水っぽい生地はしていますがさすがに水着やタイツみたいに体に密着するデザインではなくて、普通のフートローブみたいにたゆみを持たせています。ただ、フートをかぶる時に羊型のツノが引っかかったみたいで、右側のツノに引っかかるようにフートの一部が引っ張り上げられているようです。


「引っかかってるよ」


私はヴァルギスのツノに引っかかったフートの布を取り外します。


「ああ、すまない」


ヴァルギスも返事して、私がフートを触る手を撫でます。


「‥そういえば、ハギスちゃんは顔を隠さなくてもいいの?同じ王族なんだけど」

「うむ。妾は式典などで顔を見せる機会が多いが、ハギスにはまだそれがないからな。名前は知っているが、顔を知らない国民も多い。王族の狭苦しさはまだ経験すべき時ではないのだ」

「へーえ」


そういえば遊園地の時も隠していませんでしたね。ビリヤードのグラブに入る時は、本名でエントリーしたのでしょうか。クラブの人たちがハギスに気を使ってあまり持ち上げないようにしたり、周囲に教えないようにしたりしているのでしょうか。私がそうやって想像をめぐらせていると、ふと更衣室の片隅で丸くなってうずくまっているラジカに気づきます。ラジカも着替えを終えたのか、ビキニ姿になっていて、丸くなっている背中から背骨が浮き出ています。


「ラジカちゃんどーしたの?具合でも悪いの?」


しかしラジカは顔をこちらに向けず、膝の間に埋まらせたまま答えます。


「‥‥‥‥その、アリサ様の水着がエロい‥‥」

「え、ええー?ラジカちゃんとは一緒に裸で風呂入ったりもしたじゃん、今更何言ってるの?」

「裸は潔いからまだいい‥その‥‥大切なところをピンポイントで隠すのがエロい‥‥」

「ばっかなこと言ってないで、さっさと入るわよ」


横から割り込んできたメイがラジカの体をゆすりますが、振り返ったラジカはどばどば鼻血を流していました。ええっそこまでなんですか私の水着!?


「きゃっ、鼻血拭きなさいよ、ティッシュ取ってくるから!」


メイは慌てて、自分のロッカーまでかけていって鍵を開けます。


「う、うむ、ラジカは別行動にしたほうがよさそうだな‥‥」


ヴァルギスも少し困った顔で言います。


◆ ◆ ◆


薄いピンクの生地を赤で縁取ったビキニを着た私に対して、ハギスは薄い水色のスク水。

メイは紫色の花柄模様付きのビキニで、ナトリは緑色のスポーツブラとスパッツを組み合わせたビキニみたいなものでした。


「その水着、ナトリらしくてかっこいいね」

「テスペルクのピンクもかわいいのだ。これは比較のジャンルが違うな」


ナトリはそう言った後、ヴァルギスに目をやります。スク水の生地を使ったやわらかく触り心地の良い布でフートローブを作って、それで全身を覆っています。中身の水着は‥‥真っ赤なビキニでした。


「私と水着の色似てるね、赤系だし」

「うむ」


ヴァルギスは指でフートの先を軽く引っ張って顔を隠しながら返事します。

やはり温泉というだけあって、室内ではありますが、湯船は岩で囲まれています。さっと見て、学校にあるプールの3分の1くらいの広さはありますね。狭くも広くもない感じです。

そして、温泉にはすでに何人かが入っています。


「‥うむ、客足はあまり戻っておらぬな。まあ、戦争も終わったばかりだし仕方はないか」


ヴァルギスは何やら、温泉の室内を見回している様子でした。

やがて、ヴァルギスの近くで座っていた私のところまで寄ってきて、言います。


「他の客に聞きたいことがあるから、貴様、妾の代わりに聞いてくれないか」

「分かったよ」


私はヴァルギスと一緒に近くの客に質問してみます。

戦争が終わった直後になぜ温泉までやって来たか、戦争中の生活はどうだったか、何か困ったことはないか。質問内容はヴァルギスが耳打ちしてきました。私が代わりに質問したので、相手には魔王がいるとはばれなかったみたいです。


「都市を包囲されるとやっぱり他の都市からの客がなくなるから、商売あがったりでさ。仕入れも難しくて」

「そうですか、それは大変ですよね」


話はいつしかその客の身内の話になっていきます。

ヴァルギスに耳打ちされてそろそろ話を切り上げようと、私が何か言いかけた時。

視界の端から、何やら白いボールのようなものがいくつも入ってきます。あれは‥‥卵ですか?


「ああーっ、温泉卵のネットがきちんと固定されてなかったなの!悪いけどその卵をよこしやがれなの」


ハギスが慌てて私と客の間に入って、流れてきた卵を1個1個拾って、また向こうへ走っていきます。


「‥‥後でお仕置きが必要だな」


ハギスの様子を見て、ヴァルギスがぼそっとつぶやきます。

メイは湯船の端にもたれてじっとしていますが、ナトリは泳ぎだしています。ナトリは仰向けにぷかーっと浮いて、水しぶきをあげないように湯の中で足を小さく動かしています。ラジカはそんなナトリを横から眺めています。

そういえば温泉って塩分が多いから浮きやすいのでしょうか。


「私も浮けるかな」

「肩の力を抜けば浮けるぞ」

「私も浮いちゃおっかな」

「まだ1人しか聞き込みしてないぞ。遊ぶ前にあと何人かと話をしよう」

「はーい」


そうやって私とヴァルギスは一緒に、他の客からも最近の状況を聞いてみたり、雑談してみたりします。

どうこうしているうちにハギスの温泉卵作りが終わったようで、ハギスも笑顔で温泉に入って、すいーっと手をかき分けながら進みます。


「姉さんも早く泳ぐなの!」

「うむ、分かった。そんなにはしゃぐな」


ヴァルギスも誘いに乗る形で、湯に上半身を浸らせ、ハギスみたいにすいーっと手をかき分けて前に進みます。

私はナトリと同じように仰向けになって、水面に浮いてみます。なんだかプールみたいで、でもプールと違って水面から湧き出る湯気が暖かくて、心地よかったです。


「‥‥あれ、ラジカちゃんもうあがるの?」


ふと湯を囲む岩を上って床に出たラジカを見かけたので、その背中に声をかけてみます。


「‥‥うん。アタシ、その‥アリサ様の水着が耐えられなくて‥‥先に上がってロビーで休んでる」


後ろ向きなので顔は見えませんが、手で鼻と口を覆っているようです。私の水着、そんなにいやらしいんですか!?


「分かったよ、みんなにも言っとく」

「ありがとう」


ラジカはそのままドアを開けて更衣室に戻ってしまいました。

私はラジかと話しているうちに浮くのをやめて地面にひざをつけていましたので、また上半身を水面に水平になるようにしてゆっくり浮き上がります。ちょうどナトリが近くにいたので、話しかけてみます。いなくなる直前ですし、たくさん話すに越したことはありません。


「ナトリちゃん、グルポンダグラード国ってどんなところ?一回行ったんでしょ?」

「あ、ああ。実はあそこには家族と一緒に何回も行っているのだ。ナトリのご先祖様の墓があるのだ」

「なるほど、そこからギフへ移住したんだね」

「ああ。グルポンダグラード国は獣人そのものを観光資源にしていて、建物にはケモミミが生えていて、キツネやイヌなどのぬいぐるみがたくさん売られているのだ。よかったら土産を買ってこようか?」

「わあい、お願い!」


獣人そのものを観光資源ってすごい国ですね。前世で例えると、アフリカの国が黒人そのものを売り出すようなものですよ。真っ黒なフィギュアやぬいぐるみを次々と作ってく感じです。自分自身を売るって発想、実はなかなかできないんじゃないかなあ。


「自分で自分を売り出すってすごいね」

「うむ。ケモミミとしっぽがかわいいと、人間からも魔族からも言われているのだ。耳としっぽは獣人自慢のパーツなのだ」

「確かに見た目かわいいもんね。ねえ、私もナトリちゃんの触っていい?」

「1000ベルだ」

「金取るの!?」


そこに、すいすいーっと水をかき分けて進んできたハギスが話に加わります。


「話は聞かせてもらったなの。代わりにウチのツノを触ってみるなの?」

「わあい、ハギスちゃん触らせて触らせてー!」

「1万ベル払いやがれなの」

「金取るの!!2人ともひどいよー!」

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