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第188話 温泉に行きました

ちなみに前世の日本の温泉は、男湯と女湯に分かれて全裸になって肩までつかってゆっくりする場所でしたが、この世界の温泉はなんだか根本的に違うようです。混浴ですが、裸ではなくて水着を着ます。そして、ゆったりとは程遠く、泳いだり騒いたりする人が多いです。まるで遊具のないプールです。この世界では宗教とか王族のしきたりとかにやだらアジアっぽい文化が多いんですが、温泉などヨーロッパみたいな文化も存在するんですね。

魔王城のお風呂はどちらかといえば日本式のゆったりお湯に浸かる場所ですが、たまにはプールみたいな温泉もいいかもしれません。

というわけで、温泉に行くには水着が必要です。水着を買いに行く時間はないので、使用人にお願いして自分の胸のサイズ、色や好みを伝えて買いに行ってもらいました。自分で直接見に行くわけではないので好きなのが選べないのはちょっと残念ですが、ナトリが出発するのは明日なので仕方ありません。お気に入りの水着は、また今度ゆっくり選びましょう。


「どんな水着が入っているんだろう、楽しみだな〜」


遊園地の時と同じくバスの一番うしろの長椅子に並んで座った私たち一行です。その真ん中にいる私が、使用人からもらった袋の中を覗きつつ言いました。

15路を過ぎて太陽は低くなっていますが、まだ輝きは健在です。中にある水着は、何やらピンク色の布と赤い紐がついてる感じです。


「ちょっと、温泉まで近いから今開けると大変よ」


隣りに座っているメイが私に注意して、それから、そのまた隣に座っているナトリに尋ねます。


「使用人にはちゃんと言った?獣人だから水着にはしっぽを通す穴が必要って」

「ちゃんと言ったのだ」


ナトリは獣耳をびくんびくん動かせながら答えます。そのまた横にいるラジカは窓の外の様子を眺めています。


「温泉は楽しみか?貴様ら」


反対側の窓際に座っている、深緑のフートローブで顔と体を隠したヴァルギスが尋ねます。


「はいはーい!楽しみなのー!くさやに温泉卵をかけて食べるとおいしいなの!」


ハギスが元気よく手を挙げて答えます。ハギスが膝においている荷物は、水着の入った袋やタオルだけでなく、大きなカバンもあります。あの中にくさやや生卵があるんでしょうか。

私は質問してみます。


「ハギスちゃんはいつも温泉卵かけくさやを食べてるの?」

「食べてるなの!おいしいの!お前も食べやがれなの!」

「え、えーっと、ちょっとだけなら‥‥」


かばんの中で密閉しているはずなのに、なぜかくさやの匂いが漂うような気がします。ハギス、もしかして出発する前にいくらか食べていたんでしょうか。


バスが温泉前に止まったので、私たちは降ります。温泉地というからにはもっと田舎だと思ってましたが、いかにも住宅街の一角というところでした。蒲田温泉みたいな、都会の中にある温泉って感じの建物です。これはこれでいいかもしれません。

なんだか普通のスーパー銭湯にありがちな2階建の建物でしたが、壁は黒と白のマーブル模様みたいになっていて、角の生えたドクロのような大きな飾りが壁の2階部分につけられています。


早速建物の中に入ってみます。前世の日本の温泉にありがちな靴箱は‥‥ないですね。靴のまま入っていいということでしょうか。


「そういえば気になったけど、ヴァル‥まおーちゃんとハギスちゃんは王族だよね、自分で受付してお金を払ったりはするの?」


私がポーチから財布を取り出しながら尋ねると、ヴァルギスが答えます。


「うむ。妾もハギスも軍事兵器並みに強いからな、付き人なしで自由に出回ることも多いぞ。こういうのは慣れておる」

「そっか、そーいえばそうだったね!」


デートで一緒にショッピングしたことがありましたが、万札以外のお金を知らないとか世間知らずなところは全くなかったです。王族には勝手にそう言うイメージを持ってしまっていましたが、そういったことはなさそうですね。


「わあい、アイスが売ってるなの!」


受付近くに売店があったので、ハギスが1人でそこに走っていってしまいます。


「こら、ハギス待ちなさい!子供が勝手に出歩かない!」


メイが慌ててあとを追いかけます。メイ、怖がりだけどこういうところはお姉さんっぽいです。

ヴァルギスも「やれやれ」と言って跡を追いかけます。


「店員さん、くさやアイスは売ってるなのー?」


私、ナトリ、ラジカは売店の外にいるので様子は見えませんが、中からハギスのこういった元気な声が聞こえるので、呆れてしまいます。女性店員の困った声がします。


「そのようなものはありませんね」

「えー、なんでなのー!くさやとアイスは相性抜群なのー!どっとと作りやがれなの!今すぐここで作りやがれなの!」

「それはハギスだけでしょ!ほら行くわよ、店員さんうちの子がお騒がせしました」


ハギスがメイの子認定されたっぽいです。


「あまり人を困らせるでない」


ヴァルギスの呆れた声も聞こえてきます。


「はは、ハギスちゃんはいつも通りだね‥‥」


私はそうつぶやいて、ふと壁の掲示を見ます。「ビリヤード 2階」と書いてあったので、後でハギスにも教えてあげましょう。


混浴ですが更衣室はさすがに男女別に分かれています。私たちは全員女の子なので、女性更衣室に入るのですが‥‥。


「しっぽのサイズが合わないのだ!」


ナトリが水着に悪戦苦闘しています。ビキニみたいに上下が分かれた水着なのですが、しっぽの穴が空いています。しっぽの穴を補強する目的でしょうか、下の水着はスパッツタイプになっています。

ナトリは仕方なく水着を脱いで服を着て「温泉の水着を借りるのだ」と言って更衣室を出ていってしまいます。

残った私たちは着替えを続けるのですが、ふと私が気になって、隣で着替えているヴァルギスに尋ねます。ヴァルギスは、袖から腕を抜いた状態ではありますがフートローブをかぶったまま中の服を脱いで水着に着替えているようでした。


「まおーちゃんはローブ着たまま温泉に入るの?」

「うむ。いやなに、温泉専用の濡れても構わないフートローブを特注しているのだ。中の着替えが終わったら、このフートローブも替えるぞ。だがここには他の客もおるし、マナー違反だがトイレで着替えることになるな‥‥」

「なるほど、そういう」


中身の着替えが済んだヴァルギスは袋から温泉専用のフートローブを取り出します。私は横からそれをちょっと触ってみます。紺色ですね。スク水みたいな生地で、ちょっとふわふわします。


「‥人気者は大変だぞ、貴様も妾の嫁になるなら少しはこういうことも学べ」


ヴァルギスは私にはにかんで、それからトイレに行きます。

ふと、背後にいるハギスを見ます。もう着替え終わったようで、そこには‥‥色は薄いブルーで、肩紐がついてて、上と下の布が繋がってて、股間にブルマ状の布をつけたハギスが仁王立ちしていました。ていうかこれ、スク水とそっくりそのまんまです。


「この世界にもスク水ってあるんだ‥」


私が思わず漏らすと、ハギスは首を傾げます。


「すくみずって何なの?」

「あ‥その水着のこと、何ていうの?」

「これは子供向けの水着なの。子供はこうやって肌を露出しない水着を着るのが普通なの。人間の国ではそうではないなの?」

「確かに普通ではないわね。魔族の慣習かしら」


メイも話に加わります。

横から、温泉の水着を借りてきたナトリがすいっと話に入ってきます。


「聞いたことあるのだ。魔族の間では児童性愛に刑事罰がついているけど、挑発的な服装をする子供にも問題があるとなって、公共の場では子供にも露出度の高い服装は禁じられているのだ」

「何その複雑な経緯‥‥」

「まあ、これから慣れていけばいいのだ」


ナトリはそう言って、自分のロッカーを開けて服を脱ぎ始めます。


「ほら、アリサも早く着替えなさいよ。下しか穿いてないでしょ」

「はい、わかりました」


私もメイに促されて、水着に着替えます。

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