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第183話 ハラスともう1回戦いました

ハラスは光の槍を大量に地面に突き刺し、迫ってくる兵たちがまっすぐ走ってこれないようにします。


「放て!」


ハラスの命令とともに大量の矢が空を覆い尽くし、ハールメント王国の兵士たちを次々と刺していきます。

ハールメント王国の兵も負けじと、魔術師が結界で矢を防ぎ、弩兵が次々と矢を放ちます。矢の応酬がしばらく続きますが、少しずつハールメント王国の兵士たちが後ろへ下がっていくのを見ると、ハラスはすかさず次の命令を出します。


「突っ込め!」


神獣の姿をしたハラスを先頭に、ハラス軍の歩兵と騎兵が猛スピードでハールメント王国の軍に突っ込んできます。魔族の兵士たちは次々と倒され、負けじと魔術師や歩兵が次々とこれに対応しますがハラスの魔法にはかないません。

戦いは乱戦となり、敵味方が入り混じります。将軍同士の一騎打ちも始まりました。敵将を討ち取ったと宣言する将と喚声が、あちこちから聞こえてきます。


「ハラスはこのままいくと、このあたりに来ますね。兵士の皆さんは、ハラスの周りにいる敵兵を取り除いてください」


私は兵士たちにそう指示して、味方に紛れて、ハラスの進行方向で待ち構えます。

前方から大きな雪崩のように、ハールメント王国の兵士たちが崩れたり逃げたりしているのが見えてきます。いよいよですね。

ハラスは近づく兵たちを噛み殺し、口から光のビームを出して兵たちを粉砕し、光の矢で前方の兵士を掃討しながら猛スピードで走ってきます。その進行方向を塞ぐように立ち止まっている、馬に乗っている私を噛み殺そうと、大きくジャンプします。私は腕を伸ばして、硬い結界を作ります。ハラスはその結界に頭から衝突しますが、とっさに結界に足をつけると大きく一回転して着地し、私と対峙します。


「私はハールメント王国の将軍、アリサ・ハン・テスペルクです。あなたは敵将のハラスとお見受けしました。あなたはここで倒します」

「お前か!去年倒しそこねたお前か!今度こそ決着をつけてやる!」


ハラスはライオンのような大きな口を開けます。

そこの周りの空気が歪んだかと思うと、それが空気の振動となり、超音波となります。

それが音速を超えた棘のある空気の槍となって私に向かいますが、私はすかさず結界で跳ね返します。


ハラスは結界を破るのは無駄と踏んで、今度は私の魔法を反射しようと、自分の前に特別な見えない壁を作ります。

その壁は太陽の光を反射してわずかに赤く光っていたので、すぐ分かりました。

私は攻撃魔法を出さないようにして、じっとハラスの次の行動をうかがいます。お互いが何もせずにらみ合う形になります。


「テスペルク。お前はウィスタリア王国の民でありながら、なぜ刃向かうのだ?」

「私はその王国にお仕えしている人たちを助けたいのです。そのためには、王国を滅ぼすしか方法がないんです」

「以前も言ったが、もう1つ方法がある。わしが王都に戻り、政治を腐敗させる佞臣奸臣を粛清するのだ。それで何もかも元に戻る。お前にもぜひ協力してもらいたい。今からでも間に合う、わしに協力してくれ」


おそらく、魔力の量で私には敵わないと踏んだのでしょうか。こういう方向から攻めてきたようです。

でも、ハラスとの戦いをシミュレートした時に、その返事も考えてあります。私は首を振ります。


「その策は破綻しています。なぜなら、それはあなたが王都に戻れることを前提にしているからです。王様はあなたを何年も王都から遠ざけていると聞きました。王様に立ち直る気がなければ、あなたは永遠に王都に戻れません」

「くっ‥‥!」


ハラスは舌打ちし、爪で地面をひっかきます。


「い、いや、まだだ!わしは今、冤罪をなすりつけられて王都から呼ばれている。ここでハールメント王国の滅亡を手土産にすれば、わしは晴れて王都への凱旋となり、そこで悪者ともの粛清ができる」

「そのために大勢の魔族を犠牲にするのですか?この国にいる無数の魔族の命は、1つの王国よりも軽いものですか?あなたの正義はどこへ行ったのですか?私は、王国を滅ぼすことこそが、最も少ない犠牲で人民を救う方法であると考えています」


ハラスはさらに地面を深くかききります。


「‥わしは1000年以上前のウィスタリア王国建国以来から、ずっと神獣として王に仕えてきた。わしはあの国の守護神であり、あの王国そのものである。裏切ることだけは何が何でもならぬ!‥‥ん?」


地面をかききったあとに、小さな突起ができているのに気づきます。何かの植物の根でしょうか。ハラスはそれを少し気にして下を見ます。と、その根がいきなり伸びてきて、あっという間に長く巨大なつるとなってハラスの胴体に巻き付きます。


「な、なんだと!?地面からいきなり出てきただと!?」

「はい。私が普通に攻撃しても、あなたの結界で跳ね返されてしまいます。ですから地下に植物の根を張ることにしました。今、その植物の根っこは、私の思いのままに操っています」

「な、何!?」


ハラスの体は、巻き付いてきた根に持ち上げられて、くるくる回転しながら宙に浮きます。

根は背を伸ばすたびに少しずつ太くなっていき、地面から生える、枝や葉の生えていない木の幹のようになって、ハラスの体をきつく締めます。


「くううううっ‥‥」


ハラスは周りを見渡して、気づきます。

ハラスと私が戦っている間に敵味方入り混じりの乱戦は解消され、ハラス自身はすっかり魔族の兵士たちに取り囲まれています。そしてウィスタリア王国の兵士たちは、すっかり陣の方へ押されています。

しかし、逃げる方向にある陣には‥‥ウィスタリア王国の誇る青と黄色の旗ではなく、なぜかハールメント王国の深紅色の旗が立てられています。


「私はあなたを殺したくありません。あなたもあなたなりに人民を大切に考えていて、政治の手腕も高く、ウィスタリア王国を滅ぼした後の統治できっと役に立ちます。お願いですから、降参して万民を救ってください」

「‥‥わしは王国の守り神だ!ウィスタリア王国の始祖と契約した神獣だ!わしがいなくして、なぜ王国が成り立とうか?王国のためなら死など恐れぬ!」


そう言うとハラスは閃光弾のような強い光を発生させ、辺り一面に撒き散らします。


「うわっ!?」


私たち周りの兵士が目を潰されている間に、ハラスは木の根を噛みちぎって破壊し、高所から大きくジャンプして魔族の兵たちを後ろから蹴散らし、ウィスタリア王国の兵士たちの中へ戻ります。


「‥‥はっ!」


光が消える頃、誰もいないもぬけの殻となった太い木の根が、ただただその場にそびえ立っていました。

ハラスに逃げられたようです。

変な情けを入れずすぐに殺すべきだったのでしょうか?私は少しの間自問自答しますが、周りの兵士たちが喚声を上げて進んでいるのを見て、思考を中断します。

馬を走らせ、もう一度ハラスと戦おうと思って探しますが、見当たりません。


一方のハラスの兵士たちは、陣に近づいたところで、陣が敵に乗っ取られていることに気づきます。

私が昨日ハラスの陣を荒らした時に近場の茂みに残した3000人の兵が見事陣を乗っ取ったのです。そして3000人という人の数に見合わない、まるで大勢の兵士がいるかのように大量の旗を立てていました。

それを見て逃げ場所がなくなった、挟み撃ちにされたと錯覚した兵士たちは次々と混乱し、潰走かいそうを始めます。


「こら、逃げるな!戻れ!」


ハラスは叫びますが何もかも後の祭りです。

昨日8万の兵に陣を荒らされた記憶のある兵士たちは、今日のたった3000人の兵士が8万はいるかのように錯覚してしまったのです。ウィスタリア王国15万の軍勢に対し、前方に8万、後方に20万の兵士がいるのです。


そして、3000人の兵士たちが陣から討って出たことが、さらに混乱に拍車をかけます。

一気に大勢の兵たちが出てきたと錯覚した兵士たちが次々と戦場から走って逃げていき、四散五散していきます。


「畜生!」


ハラスはついに抵抗を諦めたのか、逃げていく兵士たちに混ざって自分も一緒に逃げていきます。

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