第17話 魔王と使い魔の授業を受けました
3時限目と4時限目は実技です。使い魔の扱い方についての勉強です。他の生徒達は、業間休みの間に寮の飼育スペースから自分の使い魔を連れてきています。実は前回の授業で魔王騒ぎにより使い魔を召喚できなかった生徒も多くいて、その人達への補講も兼ねていると教師が言っていました。
中・高級生向けの校舎の前にある第2運動場に、同じ学年の人たちがみんな集まります。
「ここは‥妾が召喚された場所だな」
「そーだよ、懐かしいね!」
広さは、前世の学校の運動場とあまり変わりません。野球ができそうなくらいの広さはあります。
「しかし、これだけの広さがあれば成長したドラゴンを5匹くらい置けるな」
「ドラゴンを連れてくる予定あるの〜?」
「ないな」
「だよね」
そうやって私とまおーちゃんが話しているところに、ニナが声をかけてきました。横には、子供ドラゴンを従えたナトリもいます。
「えっと、魔王は大丈夫かな?さっきの授業で体調悪いって聞いたから心配しちゃって‥その‥」
ニナは、まおーちゃんを避けるように距離をとって、私の目だけを見て話しかけます。
「貴様が妾の心配をしたのか?」
横にいるまおーちゃんが話しかけたので、ニナはぴくっと震えます。
「い、いや、そんなことは、‥‥あるかな?」
「さっきの授業で妾の悪口を聞いたのに、よく妾の心配ができるな」
「うーん‥‥た、確かに魔王のことはひどいと思ったよ?でも、実際の魔王の様子を思い出すと、本当にそうなのかな?って思うようになってきて‥‥ナトリにも何もしないし‥‥」
しどろもどろに話すニナの様子を見て、まおーちゃんが一言。
「‥‥貴様、洗脳されているな」
「えっ?」
「‥いや、何でもない。忘れよ」
と、ここにナトリが割り込んできます。
「おい、テスペルクの使い魔!このナトリの使い魔と勝負しろ!」
「勝負とは何の勝負だ?妾がドラゴンの子に負けるなどないと思うが」
「背比べだぁぁぁぁぁ!!!これならお前でもさすがに勝てまい!!!こーやってドラゴンをお前の横に置いて、うわぁぁぁ負けたぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!テスペルクのやろうぉぉぉおおお!!!」
「‥こいつ、ギャグでやってるのか?」
まおーちゃんが、頭を抱えるナトリを指差して私に話を振ります。
「うーん、どうだろう?」
私も首をかしげます。と、そこにナトリがぴしっと私を指差します。
「おい、テスペルク!今日の授業で何をやると思うか?使い魔の強化だ!主が使い魔に魔力を注ぎ込むのだ!このナトリのありったけの魔力を注ぎ込んで、必ずやテスペルクの使い魔を倒してやる!ナトリが相手してやるだけありがたく思え!!」
「え、使い魔の強化?そーなんだ」
「ほう、妾を強化とな」
普通に受け答えする私たちとは裏腹に、ニナは顔を青ざめます。
「‥それって、魔王がもっと強くなるってこと?」
「どんなに強くても、まおーちゃんはまおーちゃんだよ!」
「えっと、そういう意味ではなくって‥‥」
そう話していたタイミングで、後ろから教師の声がします。
「テスペルク君。ちょっと話があるのだが‥‥」
ここで教師から、使い魔の強化魔法は使わないで欲しいと言われました。今日の私は見学だそうです。
「‥‥まあ、当然だろう」
まおーちゃんも腕を組んで納得した様子です。ニナも安心したようで、表情をゆるめています。
「強化しなくてもこのナトリの使い魔に勝てるとは片腹痛い!傲岸不遜、唯我独尊の極みである!必ずやこのナトリの使い魔が‥‥」
「使い魔が、どうした?」
まおーちゃんが黒いオーラを身にまとい、不気味な笑みを浮かべながらナトリに尋ねます。
「‥‥‥‥と、とにかく、今日覇権をとるのはこのナトリだからな!覚えてろよ!」
そう言って、ドラゴンを抱きかかえてどことなく走り去っていきました。
「ははは、面白い。やっていることは小物だが、努力すれば際限なく成長できるぞ、あやつは。子供で未熟なドラゴンを召喚できたのは、あやつだからだ。まあ、それでも魔力で貴様には及ばないがな」
ナトリの後ろ姿を見て、まおーちゃんがそう評します。
少しすると、ナトリは少し離れた場所で、使い魔を強化する魔法を使い始めました。
「おい、ドラゴン!身長伸びろ!身長伸ばせ!テスペルクの使い魔より高くなるんだ!」
そう怒鳴りながら幾度も幾度も必死にドラゴンに魔力をかぶせているさまを見て、ニナが呆れたように言います。
「強化魔法は、身長を伸ばす魔法じゃないと思うんだけどね〜‥」
「そういえばニナちゃん、使い魔は召喚した?」
「あっ」
ニナが思い出したように言います。おとといの授業で召喚できなかった生徒は多くいて、ニナもその1人でした。
「召喚ね、やってみるね!」
そう言って、ニナは私とまおーちゃんから距離を取ります。
「ダン・アン・イニシャライズ」
そう唱えると、ニナのまわりに、ぼうっと水色の魔法陣があらわれます。
魔法陣から沸き起こる気持ちいい風を感じながら、私は、何が出るかなとわくわくしながら、ニナの手元を見ていました。
「主の契約のもと、命じる。いでよ、我が眷属!」
ニナの手前がぼうっと光ります。
光は粘土のようにくにゃりと形を変え、足が生え、頭が生え、耳が生え、やがて色を得て灰色に染まります。
「‥ほう。猫の魔物、キャスパリーグか。末端とはいえ妾の手下がこうやって使い魔として召喚されるのも思うところはあるが、これも人間の業だな」
まおーちゃんの言った通り、灰色の仔猫が、消えゆく魔法陣と入れ替わるように、二ナの目の前にあらわれました。
「‥ニャー?」
「かわいーー!!」
ニナはその猫を抱きかかえます。
「よかったね、ニナ」
「うん!私、猫大好きだから、使い魔にできて幸せ!いっぱいもふもふしちゃうよ!」
そうやって、頬に仔猫のもふみのある毛をこすりつけます。それを見てまおーちゃんが、何かを思い出したように私から少し距離を取ります。
「‥あれ、どうしたの、まおーちゃん?」
「‥わ、妾はもふもふしてないからな?」
「うん、もふもふしてないけどかわいいよ」
まおーちゃん何言ってるんだろう?と思いながら、私はまおーちゃんの体を抱きました。
「離せ!とりあえず抱くのはやめろ!」
まおーちゃんの抵抗もセットで。
「‥あれ?」
まおーちゃんを抱いている私は、ふと、地面に何かがあるのに気付きました。土と同じ色をしている、ちょっと大きなトカゲのような生き物です。それが、じーっと私を見ています。
私の視線に気づくと、その生き物は方向を変えてぴょんぴょんと逃げていきました。その逃げていく先には‥‥。
「ラジカちゃん!」
赤髪ツインデールの子、ラジカが立っていました。今朝、まおーちゃんをうざいと言ってきた子です。
トカゲのような生き物は、ぴょんぴょんとラジカの体に登っていきます。登るたびに、ラジカの制服の色にあわせて体の色が変化します。カメレオンでしょうか。
カメレオンは、ラジカの肩に乗りました。体の色が緑色に変わり、はっきり見やすくなりました。
「これ、ラジカちゃんの使い魔なんだね。えっと‥今朝はごめんね、まおーちゃんのこと、うざかった?どういうところが‥‥」
私の呼びかけをラジカは無視して、ぷいっと首を横に向けて、そのまま私から離れていきます。
「あ‥‥」
「相手するだけ無駄だぞ」
後ろからまおーちゃんが話しかけてきます。
「う、うん、そうなのかな‥‥」
私はなおも心配そうに、ラジカの後姿を目で追っていました。
まおーちゃんも、ラジカの様子を見ていました。まおーちゃんもラジカに興味があるようです。
(あのカメレオンは、主の目と連動する。カメレオンが見たものを主も認識できる‥‥存在自体も希少だから一流のスパイが血眼になって探し出し手に入れるようなものだ。なぜあやつがそんなものを妾のところへ放った?学校の授業だし、深い意味はないと思いたいが‥‥)
第2章(第31話〜第45話)を18禁小説として、第1章と並行で連載開始しました。
https://novel18.syosetu.com/n2353go/
※18歳未満閲覧禁止です。また、この小説には残酷な描写を含みますのでご注意ください。
人間と魔族の過去を描いたものなので、第1章を全部読んでいないと読めないということはないです。
また、こちらには第2章のダイジェストを掲載しますので、第1章を読み終わった後も第2章をとばしてそのまま第3章以降をお読みいただけます。