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第182話 ハラスとの決着をつけます

カインの軍と戦っていたハラスは、カインと一騎打ちをするべく、近づいてくる周りの敵兵を噛み殺したり、神聖魔法の光のアローで次々と突き刺したり目くらましを食らわせたりしながら敵中に突っ込みます。

何人かの兵士がそのハラスを慌てて追いかけ、呼び止めます。


「お待ち下さい、ハラス様!」

「どうした?」


ハラスは立ち止まって振り返ります。が、すぐに敵兵が攻撃してくるので、その場に立ち止まって噛み殺したり、魔法でなぎ倒したりしながら兵士たちの言葉を聞きます。


「陣が襲撃されています!」

「なんだと!?いや、陣にも相当の兵力を残しているはずだ、しばらくはそれで対応できるだろう」

「それが、敵将がアリサです。魔法で陣の中を滅茶苦茶に荒らされています」


アリサの名を聞くやいなや、ハラスはまた目玉を大きく見開きます。ハラスと戦っていたカイン軍の兵士が引いてしまうほどの形相でした。

前方にはカイン、後方にはアリサ。このままでは非常に強力な将軍に自軍が包囲され、兵たちが混乱してしまいます。挟み撃ちにされるならば、迎え撃つ場所はやはり兵たちの住まいである陣しかないでしょう。


「陣がなくては士気にかかわる、退け、退くぞ!戻れ!」


ハラスは慌てて軍を引き返し、陣に向かいます。カイン軍はハラス軍をなるべく陣から遠くへおびき寄せながら戦っていたので、ここから陣に戻るだけでも相当な距離があります。


「くそっ!」


ハラスは舌打ちしながら、急いで陣に向かいます。


◆ ◆ ◆


「これで南東の兵糧は全て焼けましたね。次は北東を‥」


私がそう言いかけたところで、1人の兵士が走ってきます。東の街道へ見張りに行かせた兵士です。


「アリサ将軍、申し上げます。ハラスがこちらへ戻ってきました」

「分かりました。攻撃は中止です。退却します。それから3000の兵士を預けたそこのあなた、前もって打ち合わせたとおりによろしくお願いします」


私はそう言って、踵を返します。兵士たちも私についてきて、敵の追撃をかわしつつ、次々と陣を飛び出していきます。別働隊の3000人が私の軍から外れて、陣の近くの茂みに隠れます。


入れ替わるように陣に戻ってきたハラスは、残った兵士たちの報告を聞いて、敵将がアリサであること、兵糧が焼かれたこと、ついさっきここから引き上げたことを知ります。


「くそっ、魔王め小賢しい真似をしおって!」


ハラスは地団駄を踏んで怒号を上げます。


結局家臣と相談して糧道確保は中止となり、次の策が出るまでハラスは陣の中に閉じこもることにしました。次の策といっても、王都に戻らなければいけないのは1ヶ月後。ハラスにとっては一国の猶予もありませんでした。

しかし多数の兵糧を失ったつけは大きく、兵士たちの食事は1日1食と定められ、肉、酒などの贅沢品は禁じられるなど、統制が進みます。


「くそっ、魔王のやつめ、どこまでこのわしを虚仮こけにしてくれる‥‥」


ハラスは幕舎から出て、夜空を見上げます。

この空の向こうには、王都カ・バサがあります。クァッチ3世に取り入る何人もの奸臣佞臣の顔が出てきます。特に代表的なのがハラギヌス、ウヤシルの2人です。この2人とシズカ姫は取り除かねばいけません。


「わしはこんなところでは終わらぬ。絶対、あやつらを王様の前から除き、正常な政治を取り戻してみせる‥ウィスタリア王国を建て直してみせる!」


◆ ◆ ◆


翌日、別の将軍を主将とした軍が編成され、カインを討伐すべく陣を出ていきます。

一方、ハラスたちは一刻も早く王都ウェンギスを陥落せしめるべく、捨て身の覚悟で、陣にわずかな兵だけを残して長城へ向かいます。


城壁の中では大勢の兵士たちが集められ、整列しています。広場に集められた将軍たちを前に、高台に立ったマシュー将軍が演説を始めます。


「いいか、お前たち。俺たちは城にこもって守り続けること1年。敵の体力を削り、今この時がやってきた。我々は動く。勝利のために。皆の者、勝利は近い。気を引き締めてかかれ」


私を含めた将軍たちは次々と片腕を上げて、「おー!!!」と喚声をあげます。


「よし、俺たちはこれから迎撃するが、その前にこれから個別に指示を与える。まずはウヒルよ」


マシュー将軍が、何人もの将軍に個別に指示を与えます。

ちなみに私は今回の迎撃のために5000人の兵をあずかっています。私にも何らかの指示がされるでしょう。


「アリサよ」

「はい」

「お前はハラスの居場所へ突っ込み、ハラスを倒せ。ハラスは一刻も早く我々を倒したがっていて、かなり焦っている。精神的なダメージも大きいだろうから、以前と比べると弱体化されているだろう。だが前みたいに油断はするな」

「わかりました」


ハラスとの一騎打ち。前回は負けて死にかけましたが、あれからハラスに勝つにはどうすればいいか何度も頭の中でシミュレートしていました。魔族の国の中で、神獣であるハラスに勝てるのは私しかいません。

ハラスは私ほど強い魔法は使えませんが、私の魔法を反射することができます。自分自身の魔法が自分の結界を貫いたため、前回は負けたのです。そうならないようにするためにはどう戦えばいいのか。1年のうちに、その覚悟はできていました。


確かにハラスは、私とヴァルギスが目指す人間たちを幸せにするという点においては、終着点は一緒かもしれません。それを実現する手段が違うだけです。どちらが正しいのかはっきり断言はできませんが、私はただ自分の信じる方向に向かって進もうと思います。自分の信じるほうが、自分にとって正しい選択なのです。

私は目を見開きます。乗馬して、歩を進めます。

城門がギギギという音を立てて、開きます。

私より前の軍隊が1つ2つ、次々と城門から出ていきます。


「おい、テスペルク」


後ろからナトリの声がします。ナトリが自分の軍隊を離れ、単騎で私の所まで来たのです。


「ナトリちゃん」

「この戦いは大事なのだ。ナトリも積極的に攻撃したいと思っているのだ。だから‥‥」


ナトリがそこまで言いかけると、私はうなずきます。

もう去年になりますが、私が強化したナトリがそのまま人間を殺してしまったのを見て、私は悲しくなりました。

でも今は違います。私だけではなく敵も死ぬ覚悟をして戦っていると分かっているからです。


「分かった、強化するね。手を出して」

「ありがとう」


私はナトリの差し出した手を両手で掴みます。

ぼうっと私の手が光り、ナトリの手を、腕を、全身を光で包みます。

その光が消える頃に、ナトリは私の手を握り返します。


「ありがとうなのだ。テスペルクはハラスと戦うと聞いた。死ぬな」

「うん、ナトリちゃんもね」


私はにこっと答えて、ナトリの顔をじっと見ます。

ナトリも同様に、私の顔を見ます。武者震いしているような、今回の戦いに自信があるような、どことなく勝ち気を匂わせる表情でした。


「じゃ」


ナトリは手を振って私から離れ、自分の軍隊に戻ります。

軍は次々と城門をくぐり、私の5000の兵士たちの出番が来ました。

今回、特に副将はありません。私が直接5000人の兵士を率いることになります。これは兵士の統率の練習でもあります。


「行きましょう」


私は兵士たちに命令して、馬を進めます。城門の下をくぐった先には、白く光る眩しい空がありました。

前の軍隊の後ろに続いて、私たちは前に進んでいきます。

はるか向こうでは、すでにハールメント王国の軍が、ハラスの軍と戦闘を開始しているのが見えます。私はそれを見ると緊張してしまいましたが、大きく息を吸って吐き、それからぎっと集中して目を見開きます。


「流れ矢に注意してください」


周りに伏兵がいないか注意しながら、そして前方のどのあたりにハラスがいるか探しながら、自分の軍隊を進めます。

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