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第181話 敵陣に突入しました

その後も数日間はハラスによる激しい攻城が続きます。

私の結界で固められた城壁を突破すべく、今日も大量の魔術師が配置されたり、多くの将兵たちが城門から兵を出すべく城壁の兵士たちを挑発したりします。しかし血の気の多い魔族で成る兵士たちも、さすがにマーブル家の時の失敗から学んだのか、今度は怒りを堪えています。


その翌日の夕方、東へ派遣された将軍が帰ってきました。ハラスの幕舎へ入り、急いで報告します。


「ハラス様、申し上げます。糧道を塞ぐ敵軍は3万にのぼり、敵将はカイン・ナハルボといいます」

「なに、ナハルボだと!?魔法剣士の名家ではないか?」


初代魔王ウェンギスの腹心の部下の1人であり、その名前を聞くだけで多くの人間が震え上がったという伝説のある、あのナハルボ家です。


「むう‥魔王の奴め、この期に及んでどこまでわしの邪魔をする!?わしは早くこんな戦いを終わらせて、王都に戻りウィスタリア王国の建て直しをせねばならぬというのに‥‥!」


そこに、ハラスが王都に弁明のために出していた使者が戻ってきます。

幕舎に入ってきたその使者は困惑している顔をしていましたから、よくない報告であることはハラスにはすぐ分かりました。


「申し上げます。30日以内にハラス様本人が王都に戻らないと、弁明の機会を一切与えず殺すとの王様からのお達しでございます」


使者は震えながらも、クァッチ3世からの返答を伝えます。

ハラスは「くそっ!」と地面を蹴って怒鳴ります。

クァッチ3世がハラスを疑っているのは確実です。このままではハラス自身に何らかの処罰があるのは確実です。

それまでに、兵権のあるうちに、ハールメント王国を潰す。これは、ウィスタリア王国の脅威を取り除くだけでなく、ハラスにかけられた無実の疑いを完全に解く唯一の方法でもありました。言葉だけの弁明など、何の役にも立たないでしょう。何としても王都に戻る前にハールメント王国を潰さないと、ハラスの立場がなくなってしまうのです。

もはやそれは、ハラスの中でうわ言のようになっていました。


「1年も攻め落とせずにいる王都が1ヶ月以内に落とせるはずがございません。ここは早急に王都へ向かい、御自ら申し開きをするべきです」


そう言う家臣もいましたが、ハラスは構わずまくし立てます。


「いいか、明日はわし自らナハルボを除く。準備しろ!」


◆ ◆ ◆


私は久しぶりに兵士を引き連れることになりました。しかも今度は8万もいます。

相手は60万もいることを考えると大軍でも何でもないのですが、兵士たちみんなに強化の魔法をかけましたので、絶対に死なないとまではいかなくても、ある程度被害を抑えることはできるでしょう。

敵の最新の動きを探るため、私が幕舎で待機している間はラジカも一緒です。私は3日の間、長城の結界を点検したり、ラジカと話したり、負傷兵の様子を見て回ったりしながら過ごします。


今回の作戦で私たちの軍はハラスの陣まで到達する可能性があるようなので、ラジカからハラスの陣の構造について、幕舎の中のテーブルで、紙に書いて教えてもらっています。


「なるほど、じゃあハラスのいる幕舎は真ん中のあたりなんだね。60万いるだけあって敵陣も広いね!」

「正確には東の陣には25万。残りは他の方角を包囲している」

「25万の兵を2万の兵たちで攻撃する形になるんだね。それで兵糧ってどのあたりにあるんだろう?」

「火事を防ぐために分散されているが、主に多く置かれているのは北東と南東のエリア」


ラジカは紙を指差しながら、私の質問に答えます。


「ふんふん、なるほど‥‥」


私が相打ちを打ったそのタイミングで、ラジカは手で耳をふさぎます。


「あっ、待って、黙って」


そうしてラジカは目をつむり、何度か無言でうなずきます。

どうしたのかな?カメレオン越しに敵の話を聞いているのでしょうか?と私が思っていると、ラジカは耳をふさぐ手を取って、私に言います。


「アリサ様。ハラスは明日の9時に、カイン軍を攻撃するために10万の兵士を従えて東へ向かう。攻めるなら明日」


事態は緊迫してきました。いよいよ明日は私の出番です。

私はテーブルから身を乗り出して、ラジカに尋ねます。


「分かった。陣の構造、もう少し詳しく教えて」

「うん。この位置に置かれている兵糧には酒が多く含まれていて、よく燃える。それから‥‥」


◆ ◆ ◆


翌日の11時。ハラス軍が出発してから2時間後に、私の軍は城門から出ます。私は8万人もの兵士たちを統率する自信があまりないので、それができる副将たちを何人か従えています。2万の騎馬兵と2万の歩兵、1万の弩兵どへいと3万の魔術師で構成されます。

私たちはまず、城壁の前に並んで私たちを挑発する兵士たちを引き剥がしに向かいます。兵士たちの数は、心なしか、昨日より少ないように思えました。案の定、敵兵たちが門を出た私たちへ襲いかかってくるのですが、その先頭にいる私はすううっと息を吸って、心の中で念じます。

無詠唱で無数の炎のアローが現れ、それが矢のように次々と敵兵たちを襲います。大した将もいなかったのでしょうか、それとも迎撃自体が想定外だったのでしょうか、私の魔法と後ろに控える兵士たちの威嚇で、敵兵はあっさり陣へ駆け戻っていきます。


私は馬を走らせ、その後を追いかけます。

私の後ろに8万人の兵士たちがついてきています。こんな大勢の人たちを引率するなんて、学校の先生でもやらないでしょう。もちろん実際に兵たちをまとめて引っ張っているのは副将や、その下についている中隊、小隊、一番細かい単位では5人くらいのグループをまとめる隊長たちです。でも、その人達の頂点に私がいると思うと、8万人の命を守る責任感と重圧をひしひしと感じます。後ろから来る追い風が涼しいような、肌にしみるようなで、新鮮に感じられます。

といっても実際には新人にいきなり8万もの大軍を任せるのは難しいので、私の近くにベテランの将軍が副将としてついていて、進軍方向を細かく指示します。実質的に、私のほうが副将になっているようなものです。私もそのベテランの言うことには素直に従います。8万人の兵士を無駄にしたらハールメント王国、圧倒的に不利になりますしね。


敵陣の近くまで来ると、陣から多数の矢が放たれてきます。私の兵士たちは次々と矢を槍で払い除け、お返しの火矢を射て、陣に次々と火をつけていきます。

もちろん敵軍は15万、私の軍は8万です。人的不利もありますから、私の魔法も欠かせません。

私は次々と分身を作ります。分身の私たちが次々と宙を浮かんで、敵の矢を結界で弾き返しながら次々と陣の中に降り立ちます。それで敵兵が分身の私たちを倒しにかかりますので、その分手薄になった外側を兵士たちは猛攻の末ついに突破して、陣を囲む木の柵を次々となぎ倒し、幕舎に次々と火をつけます。


「敵の兵糧は北東と南東にあります。まずは南東を目指します!」


私の号令とともにまず騎兵が猛スピードで陣の中を駆け巡り、敵兵を錯乱させます。それを次々と歩兵が倒し、魔術師が遠方から矢を構える兵たちに攻撃します。有力な兵士や将軍たちはみなカイン軍討伐のためにいなくなっていましたので、陣の守りはもろいものでした。

人的不利もありこちらの被害も大きいものと予想されましたが、火を放ち、敵兵を撹乱できただけでも価値はあります。幕舎は次々と焼けていき、私たちはついに南東へ到達しました。


日本で兵糧というと主にお米ですが、この世界で兵糧というと干し肉、生きた牛や家畜、クラッカーや乾パン、乾燥された豆やレーズンなど、保存の効く食料をさします。それらが樽に詰められ、辺り一面に並べられ、積み上げられています。生きている動物には申し訳ないのですが、私たちは次々とそれに火を放ち、焼き払っていきます。

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