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第177話 瀕死状態から救出されました

ハラスはすかさず、私の結界に空いた3つの穴に光の矢を差し込みます。

矢が私の結界の中でガンガンと跳ね返り、私の体を次々に襲っていきます。


「いや、いやあああああああ!!!」


悲鳴とともに私は馬から崩れ落ち地面に全身をぶつけますが、それでも結界の中に次々と送り込まれる光の矢は手加減せず、私の背中、腕、脚などを次々と、面白いように突き刺します。


「ああ、ああああああ!!!」


目を大きく見開いて涙を流して全身痙攣させる私の断末魔の悲鳴がこだまします。


「いかん、アリサは大切だ、無礼を承知の上で助け出せ!」


城壁の上で様子を見ていたマシュー将軍が兵士たちに命令します。

浮足立つ兵士たちを次々と叱咤して、マシュー将軍や他の将軍たちは兵士とともに城門を出ます。


結界の中が、すべての光の矢が、真っ赤な血で染まります。

全身に穴を開けられた私は、それでも最後の力を振り絞って、自分の体に密着しそうなくらい小さな結界を作ります。

矢がガンガンと硬いものに当たる音しか聞こえないので、成功したのでしょうか。幸いなことに、私の体を包むその結界の中に、矢は紛れ込んでこなかったようです。

でも、私の体から血がとくとく出ています。ああ、私はこのまま死んでしまうのでしょうか。

目を閉じると、ヴァルギスの顔が頭の中に出てきます。

私がここで失血死したら、ヴァルギスはまっさきに悲しむでしょう。


「‥‥うん」


私は小さい声を出します。

結界は私の体に密着するほどに小さくて、ほとんど身動きができません。でも私にはそれで十分でした。最後の最後に残ったわずかな力で、精一杯の呪文をつぶやきます。


「ヒール」


私の全身の傷が次々とふさがります。でもそれでもまだ不完全で、背中や腕から次々と血が流れ出ます。私の体力がまだ完全には戻っていないことを示しています。一体どれだけの血が流れたのでしょうか。頭がふらふらします。頭がぼうっとしてきて、視界がかすみます。


大きな怒号とともに、城門から出てきたマシュー将軍の軍勢がアリサを助け出すべく、ハラスへ襲いかかります。


「一騎打ちの邪魔をするとは卑怯である!」


そうハラスは怒鳴るのですが、次々と魔術師の魔法攻撃が入り、それをかわしても歩兵の怒涛の波状攻撃です。ハラスは結界を張るのですが敵の数が多く反撃できません。多くのハールメント王国の兵士たちに取り囲まれ、ハラスは結界の中から大量の光の矢を出して抵抗を試みます。ハラスにも大きな魔力があって敵中から逃げるだけなら簡単にできたのですが、その前にアリサの死亡を確実に確認しなければならず、戻るに戻れなかったのです。

光の矢が次々とハールメント王国の兵士たちに刺さり、次々と悲鳴が上がります。それに対抗すべく魔術師たちが精一杯の結界を張ってこれを緩和し、ハラスをその場に足止めさせます。


「アリサ!聞こえるか?アリサ!」


マシュー将軍が、気を失って倒れ込んでいる私を肉薄するように包む結界をガンガン叩きます。近くの魔術師に怒鳴ります。


「誰かこの結界を壊せないか?」

「アリサ将軍ほどのお力ともなると、我々ともでは無理です。魔王様をお呼びするしか‥‥」

「ええい、やむを得ぬ、急げ!それとお前らは、魔王様が到着するまでハラスをそこに足止めしろ!」


ここでハラスの兵士たちも、ハラスを助け出すべくハールメント王国の兵士たちに襲いかかります。両軍の兵士たちが激突します。


「ここはナトリに任せてください!」

「うむ、よろしく頼む」


前方を指揮するマシュー将軍に代わって、ナトリが結界を叩いてアリサに呼びかけます。


「テスペルク、大丈夫か!?」


アリサの顔はすっかり青白くなっていました。ヒールの魔法が不十分で、血が次々と全身から流れ出して、結界の中に大きな血溜まりを作ります。過剰出血による貧血でした。このまま放置すると死んでしまいます。

ハールメント王国の兵士たちは、大量の敵兵に対応するだけでなくハラスも足止めしなければならず、敵の波状攻撃を前に、次第に旗色が悪くなっていきます。


「耐えろ、アリサを死なせてはいかん!」


マシュー将軍をはじめ幾多の将軍が必死に前線を押し留めようとします。

暴れるハラスは無数の魔術師に包囲され、光の矢もいくらかは魔術師を殺傷せしめますが残りは1つ1つ粉砕されていきます。


「はぁ、はぁ‥‥!一騎打ちの邪魔なとしおって!この代償は高くつくぞ!」


ハラスはついにアリサの死亡確認を諦めたのか、アリサの死よりも将兵の指揮が最優先とみたのか、魔術師たちに尻を向けて、風のような速さで走って一目散にハールメント王国の兵士たちをなぎ倒して包囲を突破します。

ハールメント王国の兵士たちの懸命の抵抗のもと、前線がいくらか押し上げられていきます。


30分後、ヴァルギスが魔法ではやく走る鷹のように飛んで、戦場入りします。


「魔王、こっちだこっち!」


ナトリが腕を大きく振り上げたのを目印に、ヴァルギスはそこまで飛んできます。

アリサの顔から生気がなくなっているのは、ひと目で分かりました。一刻を争います。ヴァルギスは火の玉を作って、その結界に何度もぶつけます。5分くらいぶつけ続けてようやく結界が破れたので、ヴァルギスはその中に手を突っ込んで、アリサの体を取り出します。

お姫様抱っこのようにアリサの背中とひざに手をやって持ち上げたヴァルギスは、ナトリに命令します。


「アリサは助け出したと、マシュー将軍に報告しろ」

「分かったのだ!」


兵をかき分けマシュー将軍のところへ走り出したナトリを見て、ヴァルギスはすかさず周りの手勢とともに城門向かって駆け出します。


◆ ◆ ◆


目が覚めると、ライトの魔法で作られた薄暗い光の玉がいくつか天井に浮かんでいるのが見えました。今は夜でしょうか。

天井にいくつかの線が放射状に引かれているのを見て、ここは幕舎のテントの中だと確信しました。


「‥‥ここは?」


私は身を起こします。どうやら私は幕舎の中にしつらえられた簡単なタイプのベッドに寝かされていたようです。辺りを見回すと‥‥横にもう1つベッドがあって、そこにラジカが眠っていました。


「‥‥ん?」


ひとまず幕舎から出て外の様子を確認しようと思って私はベッドから立ち上がります。しかしすぐにめまいがして、「ああっ!」という悲鳴を出してベッドから地面に転がり落ちます。それでラジカの目が覚めたようで、ラジカはベッドから降りて、私の体に浮遊の魔法をかけて体重を軽くしてから持ち上げ、ベッドの上に戻します。

私に布団をかけながら、ラジカは言います。


「アリサ様はひどく出血していた。輸血もしたけど、まだ動いちゃダメ」

「‥‥ありがとう、ラジカちゃん」


言われてみれば、声を出すだけで頭がカンカンする感じもします。それだけでなく、疲れているのとはまた別の次元で、自分の体力の限界を超えて何時間も全力で運動した後かのようにとてつもない疲労感と倦怠感が全身を覆っています。


「喋っちゃダメ」


ラジカがそう言うので、私は黙ってうなずきます。そういえばラジカは私に触ると顔を真っ赤にして行動不能になるのですが、私の看病だとか、私の命が危ない時は触ってもいいのでしょうか。

ラジカは自分のベッドに戻ると、そこに腰掛けます。


「質問は明日聞くけど、アリサ様は2日くらい気を失っていた。その間、アタシたちはハラスの攻撃にアリサ様抜きで必死に抵抗してたけど、もう限界みたい。明日の朝の体調次第では戦いに参加してもらうから、よく休んで」


私はまた、頭がギンギンするのを押さえて、うなずきます。


私は確か、ハラスと戦って大量に出血して気を失っていました。私、みんなに助け出してもらえたのでしょうか。目の前にいるラジカも、ナトリも必死になって助け出してくれたのでしょうか。

私は気を失うギリギリのタイミングで、自分の体の周りに結界を張りました。あれを破ることができるのは、世界の中でヴァルギス1人だけです。ヴァルギスが戦場の中で、私のことを助け出してくれたに違いありません。そう思うと、貧血の中でも心臓の鼓動が速くなって、なんだか目頭が熱くなってきます。

気分が高揚すればするほどまた気分が悪くなってくるので、何も考えないことにして目をつむります。

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